著者
佐藤 尚子 岡田 亜矢 江原 裕美 内海 成治 大林 正昭 黒田 一雄 横関 祐見子 織田 由紀子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1.女子教育の問題は、その社会におけるジェンダーのありようと深く関係していることを明らかにした。たとえば、ジェンダーギャップの少ないと言われているブラジルにおいても、女子教育の現状は問題がある。ジェンダー概念は文化の深層に根ざすため、微妙な形で表出するからである。女子教育の発展はジェンダー規範と関係があり、ジェンダー規範はそれぞれの地域や民族の文化と深い関係がある。しかし、イニシエーションや早婚など女子教育を阻害する民族的文化的背景を絶対視する必要はない。近代中国において女子の伝統であった纏足が消滅した例があるからである。2.女子教育を促進または阻害する文化のもつ意味は重大であるが、しかし、本研究は、題目にあるとおり、現在の文化的要因を越えて「社会経済開発」を考えようとした。たとえば、フィリピンでは、識字率、就学率、最終学年への到達率、教育の理解度などで性別格差がみられないと報告されている。しかし、フィリピンはまだ途上国経済から脱していない。女性と女子教育が社会経済開発に強い役割を持つことが重要である。経済開発に対する教育の貢献度を男女別で量的に比較することは困難であるし、女子教育と経済開発の関係性は複雑でもあるが、社会経済開発における女子教育の有用性については強い相関関係がある。日本でもナショナリズムの台頭時期に主に社会開発の視点から女子教育が普及した。インドでは女子教育は階層間格差によって増幅され、重層的な格差の構造を形成している。この構造を破るものは、目に見える形で社会経済開発と女子教育が結びつくことである。3.単なる人権・倫理的視点からの女子教育振興ではなく、社会経済開発という視点を入れた女子教育振興こそ、発展途上国の女子教育を成功に導くものとなると思われる。
著者
松下 達彦 佐藤 尚子 笹尾 洋介 田島 ますみ 橋本 美香
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.178, pp.139-153, 2021-04-25 (Released:2023-04-26)
参考文献数
33

本研究では「漢字変換テスト」(KCT)を開発し,「日本語を読むための語彙サイズテスト」(VSTRJ-50K)(田島ほか,2015;佐藤ほか,2017)と合わせて日本語L2学生を対象に実施した。日本国内の3大学における日本語L2学生では,中国語L1学生の推定理解語彙量が平均3万語以上なのに対し,非漢字圏出身学生は2万語に満たなかった。二つのテストの相関は高かったが,ラッシュ分析でVSTRJ-50Kの一次元性が低かったためL1グループ別にDIF分析したところ,各グループ内ではモデルへの適合度が増し,L1によって難度の異なる語が多く存在した。特に語種による違いは顕著であった。1語・1漢字あたりの平均学習時間を検証したところ,初級から中上級にかけて短くなっていき,上級から超上級にかけて再び長くなることが明らかになった。L1/L2の語彙力・漢字力を包括的に見たカリキュラム開発が必要である。
著者
阿部 響子 吉羽 千裕 佐藤 尚子
出版者
千葉大学国際教育センター
雑誌
国際教育 = International education (ISSN:18819451)
巻号頁・発行日
no.7, pp.69-83, 2014-03

千葉大学では、協定大学である中国・中央民族大学と共同で2013 年3月9日から16 日まで日本語教育学を専攻する人文社会科学研究科博士前期課程1年生2名を対象とした日本語教育専門家養成プログラムを実施した。教育実習における実習生の担当課は『综合日语Ⅰ』第15課であった。教育実習が行われる1年前より「日本語文法教育論」科目において初級日本語教科書の分析等を行い、準備を行った。教育実習期間は実習の他、日本語学科1年生および2年生の日本語科目の授業見学、実習生の企画による日本文化紹介、そして日本語学科の学生と交流を行った。実習前は、直接法による授業を行う事に対する不安もあったが、実習クラスの学生からは新鮮な教え方で学習項目の理解にも役立ったという肯定的な評価を得た。A specialist training program was conducted by Chiba University in collaborationwith Minzu University of China from 9th to 16th March, 2013 for two Chiba Universitymaster's course students who specialize in Japanese language education. During theteaching practice sessions the two teacher trainees were asked to teach Lesson 15 ofSōgō Nihongo I using the direct method to first year students at the Japanese LanguageDepartment at Minzu. Preparation for this program, which was part of master'scoursework in the theory of Japanese grammar education, took one year and includedthe analysis of Japanese language textbooks for beginners. Class observation, interactionwith local students, and introduction of Japanese culture complemented the teachingpractice. Teaching sessions received a positive class evaluation dispelling the trainees'earlier uncertainty about using the direct method.