著者
塚崎 栄里子 岩上 将夫 佐藤 幹也 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.20-055, (Released:2020-12-26)
参考文献数
24
被引用文献数
1

目的 精神的苦痛を有する集団における,精神疾患での通院と種々の背景の関連を明らかにする。方法 平成25年度国民生活基礎調査の匿名データ(健康票,世帯票)に含まれる97,345人の中で,15歳以上65歳未満である56,196人のうち,精神的苦痛をあらわすKessler Psychological Distress Scale(K6)の合計点が5点以上の17,077人(男性7,735人,女性9,342人)を研究対象者とした。健康票・世帯票の質問項目の中から,精神疾患を理由とした通院に関連しうる項目として,K6合計点(5~24点),年齢,性別,飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,世帯所得,教育状況,就労状況,他疾患での通院の有無を選択した。「うつ病やその他のこころの病気」による現在の通院の有無をアウトカムとし,多変量ロジスティック回帰分析を行い,各因子の通院「有り」に対する調整後オッズ比(aOR)および95%信頼区間(95%CI)を求めた。結果 研究対象者17,077人のうち,精神疾患で現在通院していると回答したのは914人(5.4%)であった。通院している人のK6合計点の平均値(±標準偏差)は12.6(±5.1)点であり,通院していない人の平均値8.8(±3.8)点より有意に高かった。年齢ごとでは35~44歳で最も通院率が高かった。通院をしていると回答した人の女性の割合は58.3%で,通院していないと回答した集団より有意に多かった。飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,就労状況,他疾患での通院の有無が,精神疾患での通院の有無とのカイ二乗検定で有意差が認められた。多変量解析の結果,飲酒,3人以上での家族との同居,仕事や家事は通院を阻害する方向に関連を示した。K6合計点が高い人や,35~44歳,高校以上の教育,喫煙,他疾患での通院をしている人がより多く通院している傾向にあった。結論 自己治療になりうる飲酒や,時間的余裕を妨げうる仕事が精神科への通院を阻害する可能性が示された。必要な通院を推進するには,若年者や高齢者,高校以上の教育を受けていない,飲酒しているといったハイリスク集団を意識した上で,社会的体制の充実,精神疾患に関する情報の普及が必要である。
著者
塚崎 栄里子 岩上 将夫 佐藤 幹也 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.118-130, 2021-02-15 (Released:2021-02-26)
参考文献数
24

目的 精神的苦痛を有する集団における,精神疾患での通院と種々の背景の関連を明らかにする。方法 平成25年度国民生活基礎調査の匿名データ(健康票,世帯票)に含まれる97,345人の中で,15歳以上65歳未満である56,196人のうち,精神的苦痛をあらわすKessler Psychological Distress Scale(K6)の合計点が5点以上の17,077人(男性7,735人,女性9,342人)を研究対象者とした。健康票・世帯票の質問項目の中から,精神疾患を理由とした通院に関連しうる項目として,K6合計点(5~24点),年齢,性別,飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,世帯所得,教育状況,就労状況,他疾患での通院の有無を選択した。「うつ病やその他のこころの病気」による現在の通院の有無をアウトカムとし,多変量ロジスティック回帰分析を行い,各因子の通院「有り」に対する調整後オッズ比(aOR)および95%信頼区間(95%CI)を求めた。結果 研究対象者17,077人のうち,精神疾患で現在通院していると回答したのは914人(5.4%)であった。通院している人のK6合計点の平均値(±標準偏差)は12.6(±5.1)点であり,通院していない人の平均値8.8(±3.8)点より有意に高かった。年齢ごとでは35~44歳で最も通院率が高かった。通院をしていると回答した人の女性の割合は58.3%で,通院していないと回答した集団より有意に多かった。飲酒状況,喫煙状況,世帯人数,就労状況,他疾患での通院の有無が,精神疾患での通院の有無とのカイ二乗検定で有意差が認められた。多変量解析の結果,飲酒,3人以上での家族との同居,仕事や家事は通院を阻害する方向に関連を示した。K6合計点が高い人や,35~44歳,高校以上の教育,喫煙,他疾患での通院をしている人がより多く通院している傾向にあった。結論 自己治療になりうる飲酒や,時間的余裕を妨げうる仕事が精神科への通院を阻害する可能性が示された。必要な通院を推進するには,若年者や高齢者,高校以上の教育を受けていない,飲酒しているといったハイリスク集団を意識した上で,社会的体制の充実,精神疾患に関する情報の普及が必要である。
著者
佐藤 幹也 伊藤 智子 谷口 雄大 大森 千尋 金 雪瑩 渡邉 多永子 高橋 秀人 野口 晴子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.617-624, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
23

目的 介護保険総合データベース(介護DB)の導入により,悉皆的な介護保険研究が可能になった。反面,介護DBでは死亡情報が含まれず他データとの突合も制限されているため,死亡に関する研究は実施困難である。本研究では,統計法に基いて入手した介護保険受給者台帳(受給者台帳)と人口動態統計死亡票(死亡票)を用いて,受給者台帳の受給資格喪失記録を死亡の代理変数として使用することの妥当性を評価した。方法 受給者台帳に記録された受給者情報の月次断面を2007年4月から2017年3月まで累積し,介護度が自立または年齢が65歳未満の者を除外した510,751,798件を研究対象とした。受給者台帳の異動区分コードが終了の場合を受給資格喪失とし,これと死亡票とを確定的マッチング(性別,生年月日,死亡年月日,居住市区町村)で突合できた場合を死亡例として,受給資格喪失の死亡に対する検査特性(感度,特異度,陽性反応的中率,陰性反応的中率)を算出した。結果 受給者台帳510,751,798件中の5,986,991件(1.17%)で受給資格喪失となり,うち5,295,961件の死亡が特定された。受給資格喪失の死亡に対する感度は100%,特異度は99.9%,陽性反応的中率は88.5%,陰性反応的中率は100%だった。陽性反応的中率を層別化すると,2012年以前は85~88%程度,2013年以降は91%前後,男性(91.9%)は女性(85.9%)よりも高く,年齢階級(65-69歳:80.6%,70-74歳:86.7%,75-79歳:86.4%,80-84歳:86.7%,85-89歳:88.0%,90-94歳:90.6%,95歳以上:93.4%)や要介護度(要支援1・2含む要支援:72.2%,要介護1:79.7%,要介護2:85.9%,要介護3:89.3%,要介護4:92.3%,要介護5:94.0%)とともに上昇した。結論 受給資格喪失を死亡の代理変数として用いると偽陽性が1割程度発生するため,受給資格喪失を死亡率そのものの推計に用いるのは適切ではない。しかし曝露因子間の交絡の影響や曝露因子の死亡への効果が過小評価される可能性があることに留意すれば,受給資格喪失を死亡の代理変数としてアウトカムに用いることは許容できると考えられた。
著者
佐藤 幹也 田宮 菜奈子 伊藤 智子 高橋 秀人 野口 晴子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.287-294, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
22

目的 全国の介護報酬明細個票(介護保険レセプト)から介護サービス利用額を利用時間に換算し,在宅要介護者のフォーマルケア時間を要介護度別に推計して在宅介護の公平性を検討した。方法 調査対象は2013年6月に介護保険在宅介護サービス(居宅系サービスと通所系サービスを合わせた狭義の在宅介護サービス,および短期入所サービスに細分化)を利用した全国の65歳以上の要介護者(要介護1-5)2,188,397人である。介護報酬の算定要件に基づいて介護保険サービスのサービス項目ごとにケア時間を設定し,利用者ごとに1か月間の利用実績を合算して得られたケア時間を30で除したものを1日当たりのフォーマルケア時間として,これを男女別に層化した上で要介護度別に集計した。結果 居宅系サービスと通所系介護サービスの狭義の在宅介護サービスおよび短期入所サービスを合算した1日当たりの総フォーマルケア時間は,要介護1で男性97.4分と女性112.7分,要介護2で118.3分と149.1分,要介護3で186.9分と246.4分,要介護4で215.2分と273.2分,要介護5で213.1分と261.4分であった。短期入所サービスのフォーマルケア時間は要介護度とともに増加したが,短期入所を除いた狭義の在宅介護サービスのフォーマルケア時間は要介護3で頭打ちとなり要介護4-5ではむしろ減少した。狭義の在宅サービスをさらに居宅系介護サービスと通所系介護サービスに細分化すると,前者は要介護度に応じて増加したが,後者は要介護3で頭打ちとなっていた。結論 在宅介護サービスの利用量を時間の観点から評価した本研究の結果からは,介護ニーズが増大する要介護4-5の在宅要介護者でむしろフォーマルケアの供給が減少しており,介護保険制度によるフォーマルケアは必ずしも介護ニーズに対して公平ではないことが分かった。在宅介護の公平性を保ちつつ介護保険制度の持続可能性を高めるためには,高要介護度者に対して時間的効率性の高い在宅介護サービスを推進するなどして高要介護度者のフォーマルケア時間を増加させるような施策を推進する必要があると考えられた。
著者
野村 恭子 中尾 陸宏 竹内 武昭 山地 清久 佐藤 幹也 矢野 栄二
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.41-47, 2007-01-01

帝京大学医学部附属病院を受診し何らかの投薬を受けたすべての外来通院患者34,422名を対象に,ベンゾジアゼピン(BZP)系薬物の処方期間について調査を行った.コンピューター・オーダリング・システムから性別,年齢,BZP,診療科(内科系,外科系,精神科・心療内科系,その他)を抽出し,患者単位のデータベースを作成した(2002年7月から2003年6月).その結果,BZPを処方された患者は5,959名(17%)であったが,投薬期間が4カ月以上の群(長期処方群4,470名)と3カ月以内の群(短期処方群1489名)の臨床学的特徴を比較したところ,長期処方群では短期処方群に比べて男性が多く,年齢が高く,また診療科では内科系とその他の科で長期処方が多い傾向にあった(いずれもp<0.05).BZP系薬物は長期連用で健康障害を与えることが知られており,その処方につき大学病院での教育プログラムが重要である.