著者
野口 晴子 田中 隆一 川村 顕 牛島 光一 別所 俊一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,2015年を「子どもの貧困対策元年」として,現場でのさまざまな取り組みが行われている足立区との協働の下,(1)足立区教育委員会・学力定着対策室・学力定着推進課によって,平成21~29年度に足立区の公立小・中学校に通学していた児童生徒全員を対象とした学力・体力・就学支援等に関する情報をパネルデータ化すること;(2)当該データに基づき,足立区における学力向上を目的とする多様な支援策の効果,並びに,教員の固定効果に対する実証分析を行うこと;(3)就学支援の状況から,子どもの人的資本の蓄積過程に対する,家計の経済状況の影響を定量的に詳らかにする.当該自治体において,首長や行政担当者,子どもの人的資本の蓄積の場である家庭や学校等とのネットワークを構築し,本研究が得た実証的知見の実行可能性について現場での検証を行うことであった.本研究により,足立区教育委員会が保有する子どもに関する様々な情報を統合し,異時点間での推移を観察・追跡することが可能な,2009-2018年における延べ約50万人のlongitudinal/panel dataを構築した.結果,就学援助状況と学力や肥満,及び,学力と体力や生活習慣との間には相関があること,学校や教師の学力に対する寄与度にはばらつきがあること,小学生基礎学習教室などによる早期の介入が学力向上につながること,さらには,小学校から中学校への進級に際し成績上位20%の児童の約30%強が区外の私立中学校へ進学すること,などが明らかにされた.こうした成果は,2018年9月学習院大学で開催された日本経済学会2018年度秋季大学特別セッション「東京都足立区公立小中学校全児童のパネルデータを用いた分析」をはじめとする国内外のセミナーやワークショップにおいて報告された.また,本成果は,政策に資するエビデンスとして議会等の政策決定の場でも議論された.
著者
橋本 英樹 近藤 克則 野口 晴子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

健康・機能状態の社会的格差をライフコースの視点から検証する際、幼少期情報を想起情報に頼らざるを得ないことが多い。代理指標として脚長などの客観的マーカーの利用可能性を検討した。高齢者パネル調査(くらしと健康調査)を用いて脚長(幼少期の栄養状態の代理指標)と親職種、幼少期「生活困難度」との関係を見たが、有意な関係は認められなかった。一方、脚長は、学歴と収縮期血圧の関係を有意に媒介していた。社会経済的要因による社会的選択の影響を考慮し、同朋情報を用いてバイアス補正を検討したところ、同朋との到達学歴の一致・不一致により学歴と健康・生活習慣との関連性が異なっていた。社会的選択の影響を考慮する必要がある。
著者
西村 幸満 酒井 正 野口 晴子 泉田 信行
出版者
国立社会保障・人口問題研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「団塊の世代」という日本のベビー・ブーマー(以下、BB)は、人口規模の大きさから戦後一貫して文化的・思想的異質性を強調されてきた。欧米(主に米)が消費の担い手としたのと対照的である。世代の特殊性・異質性を過度な強調は、引退過程にも見られた。本研究は、BB世代の引退過程に注目し、就業分布、健康・介護要因が前後の世代と比較して異なるかを検証した。結果から判断すると、BB世代が特殊な傾向をもつとはいえないが、人口規模の大きさによる社会的な対応は避けられない。法改正による就業延長が規模の効果を吸収したようにみえるが、そもそも引退パターンも前世代と変わらないため、法改正の効果と認めることはできなかった。
著者
佐藤 幹也 伊藤 智子 谷口 雄大 大森 千尋 金 雪瑩 渡邉 多永子 高橋 秀人 野口 晴子 田宮 菜奈子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.617-624, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
23

目的 介護保険総合データベース(介護DB)の導入により,悉皆的な介護保険研究が可能になった。反面,介護DBでは死亡情報が含まれず他データとの突合も制限されているため,死亡に関する研究は実施困難である。本研究では,統計法に基いて入手した介護保険受給者台帳(受給者台帳)と人口動態統計死亡票(死亡票)を用いて,受給者台帳の受給資格喪失記録を死亡の代理変数として使用することの妥当性を評価した。方法 受給者台帳に記録された受給者情報の月次断面を2007年4月から2017年3月まで累積し,介護度が自立または年齢が65歳未満の者を除外した510,751,798件を研究対象とした。受給者台帳の異動区分コードが終了の場合を受給資格喪失とし,これと死亡票とを確定的マッチング(性別,生年月日,死亡年月日,居住市区町村)で突合できた場合を死亡例として,受給資格喪失の死亡に対する検査特性(感度,特異度,陽性反応的中率,陰性反応的中率)を算出した。結果 受給者台帳510,751,798件中の5,986,991件(1.17%)で受給資格喪失となり,うち5,295,961件の死亡が特定された。受給資格喪失の死亡に対する感度は100%,特異度は99.9%,陽性反応的中率は88.5%,陰性反応的中率は100%だった。陽性反応的中率を層別化すると,2012年以前は85~88%程度,2013年以降は91%前後,男性(91.9%)は女性(85.9%)よりも高く,年齢階級(65-69歳:80.6%,70-74歳:86.7%,75-79歳:86.4%,80-84歳:86.7%,85-89歳:88.0%,90-94歳:90.6%,95歳以上:93.4%)や要介護度(要支援1・2含む要支援:72.2%,要介護1:79.7%,要介護2:85.9%,要介護3:89.3%,要介護4:92.3%,要介護5:94.0%)とともに上昇した。結論 受給資格喪失を死亡の代理変数として用いると偽陽性が1割程度発生するため,受給資格喪失を死亡率そのものの推計に用いるのは適切ではない。しかし曝露因子間の交絡の影響や曝露因子の死亡への効果が過小評価される可能性があることに留意すれば,受給資格喪失を死亡の代理変数としてアウトカムに用いることは許容できると考えられた。
著者
野口 晴子 田中 隆一 川村 顕 牛島 光一 別所 俊一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究の目的は,子どものHCの蓄積過程に焦点を当て,因果推論に裏打ちされた政策評価手法を応用する同時に,実装プロセスを開発することで,官学協働による実効性のあるEBPMの実現を目指すことにある.東京都足立区との協働の下,公的な保育・教育サービスを利用する子どもたちの「全数」を対象に,同一の子どもを10年間以上悉皆で追跡することの出来るパネルデータを独自に構築・整備する.本研究により,世界的に主流となっている計量経済学の分析手法の活用可能性が広がり,これまで日本では困難であった,子どものHCの蓄積過程に関わる様々な要因間での相関メカニズムを解明することが可能となる.
著者
田宮 菜奈子 森山 葉子 山岡 祐衣 本澤 巳代子 高橋 秀人 阿部 智一 泉田 信行 Moody Sandra Y. 宮田 澄子 鈴木 敦子 Mayers Thomas Sandoval Felipe 伊藤 智子 関根 龍一 Medeiros Kate de 金 雪瑩 柏木 聖代 大河内 二郎 川村 顕 植嶋 大晃 野口 晴子 永田 功 内田 雅俊 Gallagher Joshua 小竹 理奈 谷口 雄大
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-07-18

誰もが満足できる人生の幕引きができるシステム作りのための、介護医療における実証研究およびそれに基づく提言を目的とした。まず、内外のガイドライン等レビューを行い、次に、我が国における医療・介護における実態・分析として、①看取り医療の実態と予後の検証(医療の視点)を救急病院での実態やレセプト分析により、②老人保健施設における看取りの実態(介護の視点)を、介護老人保健施設における調査から実施した。実態把握から根拠を蓄積し、本人の納得のいく決定を家族を含めて支援し、その後は、適切な医療は追求しつつも生活の質を一義としたケアのあり方を議論し、工夫実行していくことが重要であると考える。
著者
佐藤 幹也 田宮 菜奈子 伊藤 智子 高橋 秀人 野口 晴子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.287-294, 2019-06-15 (Released:2019-06-21)
参考文献数
22

目的 全国の介護報酬明細個票(介護保険レセプト)から介護サービス利用額を利用時間に換算し,在宅要介護者のフォーマルケア時間を要介護度別に推計して在宅介護の公平性を検討した。方法 調査対象は2013年6月に介護保険在宅介護サービス(居宅系サービスと通所系サービスを合わせた狭義の在宅介護サービス,および短期入所サービスに細分化)を利用した全国の65歳以上の要介護者(要介護1-5)2,188,397人である。介護報酬の算定要件に基づいて介護保険サービスのサービス項目ごとにケア時間を設定し,利用者ごとに1か月間の利用実績を合算して得られたケア時間を30で除したものを1日当たりのフォーマルケア時間として,これを男女別に層化した上で要介護度別に集計した。結果 居宅系サービスと通所系介護サービスの狭義の在宅介護サービスおよび短期入所サービスを合算した1日当たりの総フォーマルケア時間は,要介護1で男性97.4分と女性112.7分,要介護2で118.3分と149.1分,要介護3で186.9分と246.4分,要介護4で215.2分と273.2分,要介護5で213.1分と261.4分であった。短期入所サービスのフォーマルケア時間は要介護度とともに増加したが,短期入所を除いた狭義の在宅介護サービスのフォーマルケア時間は要介護3で頭打ちとなり要介護4-5ではむしろ減少した。狭義の在宅サービスをさらに居宅系介護サービスと通所系介護サービスに細分化すると,前者は要介護度に応じて増加したが,後者は要介護3で頭打ちとなっていた。結論 在宅介護サービスの利用量を時間の観点から評価した本研究の結果からは,介護ニーズが増大する要介護4-5の在宅要介護者でむしろフォーマルケアの供給が減少しており,介護保険制度によるフォーマルケアは必ずしも介護ニーズに対して公平ではないことが分かった。在宅介護の公平性を保ちつつ介護保険制度の持続可能性を高めるためには,高要介護度者に対して時間的効率性の高い在宅介護サービスを推進するなどして高要介護度者のフォーマルケア時間を増加させるような施策を推進する必要があると考えられた。