著者
光村 実香
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101822-48101822, 2013

【はじめに、目的】訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、利用者の生活を基盤としたリハビリテーション(以下、リハビリ)を展開することが重要である。そのためにリハビリ専門職である理学療法士(以下、PT)、作業療法士、言語聴覚士らは訪問リハを行う上で自らの職業専門性を発揮することが必要だと考える。しかし現在、訪問リハにPTが携わることの意義や効果については不明確である。そこで本研究では、訪問リハにおいてPTがどのような関わりや場面で理学療法の専門性を意識し、実践しているかのプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】対象者はスノーボールサンプリング法により抽出された訪問リハ経験年数1~12年のPTp9名(女性6名、男性3名)である。調査期間は2012年3月6日~2012年11月7日であった。まず訪問リハ業務で理学療法の専門性が役に立った(役に立っている)経験や他職種と関わりの中でのPTとしての役目などについての質問項目をインタビューガイドとして作成し、それをもとに半構造化面接を行った。面接時間は60~90分、インタビュー内容は録音し、インタビュー終了後逐語録におこした。分析は、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて、概念やカテゴリーを生成し結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い、同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。内容は1)調査結果は連結可能匿名化を行い、個人が特定されないようにすること2)調査結果は厳重に保管し、研究以外の目的で使用されないこと3)研究への参加は自由意志で調査の途中でも参加を拒否することができ、それによって不利益を生じないこと4)本研究への協力に関する謝金の支払いがないことである。【結果】【カテゴリー】3、〈サブカテゴリー〉2、「概念」11を抽出した。PTが訪問リハにおいて理学療法の専門性を意識し、実践するプロセスは、他職種や家族との協業を通して利用者の生活動作をより良いものに創作するためにPTの専門的知識技術を再認識し、役割を見出していくことであった。以下に【カテゴリー】、〈サブカテゴリー〉、「概念」を用いてストーリーラインを示す。訪問に従事するPTはまず、利用者が「生活の中でしたいこと」を聞き出し、叶えようと努める。また維持期に入り大きな機能変化が望めない場合でも現状の「在宅生活を成り立たせるために」身体・精神的関わりを探り、安心して生活できるようにする。一方で利用者や家族、他職種には「リハビリに対する絶対的病院イメージ」があるため病院で行うリハビリを期待され、PTが考える生活を基盤としたアプローチとの間に相違が生じる。こうした要因の中でPTは【訪問でPT関わる意味を模索】し、悩む。しかし「限られたサービス時間・頻度」や利用者の生活全般を支えるのが「家族やヘルパーが介護の主体」であることから、訪問時の直接的アプローチだけではなく【他職種や家族との協業で成し得ること】を基盤にアプローチの幅を広げていく。すると他職種との関わりの中で【PTの専門性を意識した関わり】として「生活を見据えた身体機能評価」や「安全に動きやすくすること」、「動作から現象を説明すること」が〈PTだからこそ言えること、できること〉だと認識し、「情報発信伝達役」、「生活環境課題発見役」、「生活動作評価役」など動作からみて考えること、それを他者へ伝えることで他職種との差別化を図り〈PTが関わることの役割を見出す〉。【考察】在宅という特性から活動や参加を意識したアプローチが必要であり、そのために利用者以外にも家族や他職種など様々な背景や立場を持った人々と協業関係を構築しながらアプローチを展開しなければならない。この関わりを通して訪問に従事するPTは、病院でのリハビリとの差異を感じながら、訪問業務における理学療法の専門性について意識し考えるようになり、PTが関わることの意義を見出そうとしていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】訪問リハでのPTの役割を明確化する一助となる。それにより他職種との連携が図りやすくなり、利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,医療技術の発展やQOLの観点から小児領域において医療ケアを受けながら在宅生活を送る患児・者が増加している。そのため訪問リハビリテーション(以下,訪問リハビリ)でもその必要性が重視されているが,多くの訪問リハビリに携わる療法士は小児未経験ゆえ,受け入れが困難な現状が問題視されている。そこで本研究は,訪問リハビリで療法士が患児とどのようにコミュニケーションをとりながらリハビリテーション(以下,リハビリ)を展開しているかを明らかにすることを目的として行った。【方法】対象者はスノーボールサンプリング法により抽出された小児訪問リハビリ経験年数半年~15年のPT3名(女性1名,男性2名),OT3名(女性1名,男性2名)である。調査期間は2013年10月~11月であった。小児の訪問リハビリを行うことになった経緯や小児訪問リハビリで大切にしていること,それまでの経験と異なり困ったことや工夫していることなどを質問項目としたインタビューガイドを作成し,半構造化面接を行った。面接時間は約60分,インタビュー内容はICレコーダーに録音し,インタビュー終了後,逐語録におこした。分析は,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて,概念やカテゴリーを生成し結果図を作成した。【倫理的配慮,説明と同意】研究説明書を用いて研究目的・方法,研究協力棄権での不利益を受けないこと,個人情報の保護,費用負担の有無等について説明を行い,同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。本研究は金沢大学医学倫理審査委員会の承諾を得て実施した。【結果】【カテゴリー】7,「概念」13を抽出した。小児訪問リハビリに携わる前に病院・施設等で小児経験者か否かで小児訪問リハビリ介入初期時の気持ちが異なり,小児経験者はそれまでの病院・施設等での経験から「外来・施設でのリハビリの先」として児の生活に直結する関わりを意識して訪問リハビリに携わるが,小児未経験者は「小児未経験からの不安」な気持ちを持ちつつ訪問リハビリに携わる。しかし,在宅での生活を主体としたリハビリを展開するうちに,リハビリの中で獲得する機能が「家族にとって役立つこと」が重要で【訪問リハビリも生活の一部】と認識する。また学校を卒業した後の人生も視野に入れ「生活から将来像を想い」,他者とつながるためのコミュニケーションがちゃんととれるように意思・気持ちを伝える表出方法を確立することが必要であると強く感じる。そのためにまずは【つながる力を信じる】ことで,抱っこや姿勢の評価から児の「動ける身体部位に目星をつける」と同時に身近な話題をもとに「絶妙な間」と「問いかけを繰り返す」中から目星を付けた部位の反応が正確であるか,表出手段として的確かなどを見極める。この関わりを通し【つながる瞬間】を感じたら【つながる力を育む】ために「つながるチャンスの創設」として,生活の中で家族とテレビを見ながら,兄弟と一緒に遊びながら表出できる場面をリハビリの中で作り出す。また表出をより明確な反応として捉えるために道具やモノを利用して「つながる力を具現化」する。さらに「つながる方法を母になげかける」ことで児の一番身近な存在に表出方法やその特徴を伝え,効率的に他者へ伝達されるように仕向ける。この時に「母の体調やメンタル面を気にかける」ことで,母親から伝わる児への影響に配慮する。しかし,療法士を中心とした関わりでは訪問頻度や時間的制約により【訪問リハビリでできることの限界】を感じ,「誰でもできるやり方」を確立し,社会の一歩である「学校の先生との関わり」を通し【関わりの輪を広げる】。これにより,児自身が自発的に動く機会が増え【身体レベル,自己表現力アップ】が達成されていく。つまり,小児訪問リハビリで療法士が患児の表出を意味づけるプロセスとは,療法士が患児とその家族に寄り添いながら,社会とのつながりを紡ぎだすことであった。【考察】小児経験の有無により療法士の訪問リハビリ介入初期時に気持ちの差異があるも,訪問リハビリそのものが生活の一部であると認識すると同じプロセスを辿ることが分かった。また児の表出能力を療法士の経験や感覚だけではなく,身体機能から評価し,機能として獲得・向上させていくことが示された。小児訪問リハビリでは,生活はもとより将来像を見据えながら児の人生や社会とのつながりを意識しながら関わることが重要であると考える。【理学療法学研究としての意義】今後の在宅小児分野の発展と啓蒙,新人教育に役立て,生活支援系理学療法学の一助になる。
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea0369, 2012

【はじめに、目的】 通所リハビリテーション(以下,デイケア)は,リハビリテーション(以下,リハビリ)を専門とする理学療法士ら(以下,療法士)が多職種協働で利用者の日常生活の自立や介護度の重度化を予防する目的の施設である。リハビリで獲得した動作を生活に密着させるには,介護職と利用者の援助場面でもその動作を実践することが重要である。そこで本研究は,デイケアで働く療法士が介護職と連携しながら自立支援を行うプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】 対象者はデイケアで勤務するPT 2名,OT 4名,ST 1名の療法士7名(女性1名,男性6名),デイケアでの経験年数は1.5~9年であった。期間2008年5月22日~8月7日である。まず施設で利用者,介護職,療法士の関わりに注目しながら参加観察を行った。その後,参加観察で得た自立支援の関わりをもとにインタビューガイドを作成し,療法士に半構造化面接を行った。面接時間は45~60分で,対象者に許可を得てインタビュー内容を録音し,逐語録におこし修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析,結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は金沢大学医学倫理委員会の承認を受け実施した(受付番号183)。研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い,同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。【結果】 【カテゴリー】4個,<サブカテゴリー>6個,[概念] 20個が抽出され,コアカテゴリーは【している動作の状況化】で,療法士がリハ室だけの関わりではなくできる動作をしている動作としてデイケア内の場面に定着させることであった。ストーリーラインを示す。デイケアで療法士がリハビリをプロデュースするプロセスは療法士が利用者の【できる動作の明確化】から始まる。療法士の視点で利用者が持つ[潜在ニーズ・能力の掘り起こし]を行い,予後を見据えた[その先の目標設定]をし,動作獲得に必要なアプローチを考える。これらを<リハビリ構想>として〔できる動作能力アップ〕を図り,動作改善を行う。また練習の中で成功体験を積み重ね精神面からも〔動作遂行への自信作り〕へ働きかけ<できる動作獲得への実践>を行う。この関わりは,在宅生活を視野に入れた【更なる能力アップの可能性】へつながる。ある程度の動作能力向上が図れると,その動作をデイケア内に同化させる為【している動作の状況化】を行なう。方法は介護職や家族の前で療法士が介助し,その方法を[やってみせる]ことで利用者の能力を知ってもらう,[専門性を活かした助言・指導]を行い利用者の状態を理論的に説明する等である。これらの働きかけにより介護職に利用者の<できる動作の顕在化>を示す。さらにできる動作を発展させる為に<している動作の環境作り>を行なう。これは実際の援助場面に合わせた[そのタイミング,その場面]での動作練習や,介護職個々と利用者の援助方法を話すことで[ケアの意識の並列化]を試みる。またできる動作に基づく援助に不安を抱く介護職には[リハビリ的関わりの後押し]をし,できる動作を介護場面に活かすよう促す。<できる動作の顕在化>と<している動作の環境作り>は様々な場面と状況で繰り返し行われる。しかし【している動作の状況化】を図る上で介護職との間に〔利用者ニーズ優先〕と〔タイムスケジュール優先〕,〔愛護的援助〕と〔手助け的援助〕等<価値観のズレ>が生じることがある。療法士は〔リハビリのプライド〕としてデイケアにリハビリがある意義や,〔デイサービスとの差別化〕等<療法士の信念>の強い気持ちから,このズレを修正しようとする。そこで【している動作実現への足場作り】として介護職の責任者を説得し〔協力者を増やす〕,〔カンファレンスの活用〕で話し合いを通じ意見を統一する,家族と介護職の問題に共に取り組み〔利用者問題の共有化〕等を行う。これらの取り組みが介護職との連携の足場となり【している動作の状況化】がより円滑に進むようにする。【している動作の状況化】が進むと〔新たな能力獲得を見込んだ関わり〕や〔在宅生活を吟味した援助〕等【更なる能力アップの可能性】を見出し,在宅生活を見据えた関わりに発展していく。【考察】 療法士はデイケア内の動作だけではなく,それらを在宅生活につなげていくことまでを想定し,利用者や介護職と関わりを持っていると考えられる。援助場面にリハビリ的関わりを導入するには,介護職との価値観のズレや時間的制約を改善する工夫が必要である。【理学療法学研究としての意義】 デイケアでの理学療法士の役割を明確化する一助となる。それにより多職種との連携が図りやすくなり,利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
光村 実香
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】在宅の緩和ケアは,他事業所が参画し,各専門性を活かし,情報共有やケア方法の統一に工夫が必要である。今回は理学療法士(以下,PT)が中心となり,ご本人の性格や生活環境を見極め,看取りまでのケアの基盤を構築し,それを変化させながら他職種と看取りまでの関わりを経験したので報告する。【症例提示】症例は60代女性。家族構成は夫,娘2人。介入時は夫と次女の同居生活,主介護は夫。性格はこわがりなところがあり,新しいケア方法に慣れるまでに時間を要する。既往歴は200X年に肺がん発症。200X+1年3月右上葉切除術施行,進行がんであると本人・家族に告知。その後脳転移,肺再転移,腰椎転移し,化学療法や放射線治療など試みるが効果みられず。200X+5年8月腰痛悪化,疼痛コントロール目的で入院。200X+5年9月自宅での加療希望し退院。200X+5年10月通院困難となり訪問診療,訪問看護,訪問リハ開始。発表者は200X+7年8月より担当。200X+8月3年永眠。【経過と考察】介入初期は下肢・体幹の筋力低下,右下肢の痺れ増強,褥瘡発症しため座位や移乗動作が困難であった。そこでトランスファーボードを導入し,リハビリ内でケア方法を検討・練習した。本人・家族がコツを把握してから家族を介して他職種へその方法を伝達,情報・ケア方法の共有を図った。その後介助量がさらに増加し,間接的な伝達では伝わりにくくなったため,お互いのサービス提供時間に訪問し,実際の場面を通してケア方法を定着させた。その後寝たきり状態となったが車いす移乗の強い希望があったため,トランスファーボードを2枚使い,ベッドと車いすの位置や介助者の人数,介助方法を細かく設定し家族・他職種のケアで実践してもらった。動ける時期から看取りまでのケア方法の変化を見通し,ご本人の性格や生活も含め福祉用具を選定・活用,ケア方法を立案することで看取りまでPTの専門性を発揮した関わりが可能となると考える。