- 著者
-
溝口 拓朗
伊藤 哲
光田 靖
山岸 極
平田 令子
- 出版者
- 森林立地学会
- 雑誌
- 森林立地 (ISSN:03888673)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.2, pp.63-70, 2018-12-25 (Released:2019-02-02)
- 参考文献数
- 21
人工林主伐後の土砂移動と植生発達の相互作用について,土砂移動を植生回復の抑制要因とみる考え方と,回復した植生を土砂移動の抑制要因とみる考え方の両面からとらえ,これら二つの仮説を検証することにより,スギ人工林皆伐後約1年間の土砂流出と植生回復の関係を明らかにした。100年生スギ人工林伐採後約1年間の土砂移動量,降雨量,植被率を調査した。各計測期間の平均植被率と降雨で基準化した土砂移動量(土砂移動レート)の間には,全測定期間を通して明瞭な関係は見られず,決定木分析でも土砂移動量の大小を明瞭に区分できるような植被率の閾値は検出できなかった。これに対して,各計測期間で標準化した植被率増加速度は,生育期間中は土砂移動量の絶対量が小さいときに大きい値を示す傾向が認められた。決定木分析でも,土砂移動量が22.25(g/m/day)を下回ると,標準化後の植被率増加速度が大きくなることが示された。以上のことから,皆伐直後の植被率が小さく土砂移動量が大きい段階では,土砂移動が植生発達との相互作用を支配する要因になっており,植生によって土砂移動が抑制される効果よりも,土砂移動が植生発達を抑制する効果の方が大きいことが明らかとなった。また,土砂移動および植生発達の空間的な不均一性は林道開設による不安定土砂の生成や林地の枝条残材の影響を受けることが明らかとなった。