- 著者
-
入江 由香
- 出版者
- 早稲田大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1998
今年度は16世紀のスペインで成立した石切術書にみられる切石の作図法の記述方法の解明を課題とし,ヒネス・マルティネス・デ・アランダによる『構築物と石切術の作図法』を主な対象として,その記述構成の分析と整理を行った。作業に先立ち,16世紀スペインの石切術手稿本および関連する16〜17世紀成立の石切術書についての原資料目録を作成し,未入手のものに関しては復刻版を購入あるいは複写を入手した。また昨年度に引き続き,石切術に関する手稿本,刊本の内容(文章,図版)を電子情報化し,読解や分析の際に利便を図った。分析の結果,『構築物と石切術の作図法』本文からは,「前書き」,「規定」,「作図項目」からなる3つの記述の構成要素が抽出された。そして,これらの記述の構成要素の内容と,要素間相互の関係を検討することにより,同書における切石の作図法の記述方法に関して,次の2点の特質を指摘することができた。1.「前書き」において作図上の原型が設定される。それらの原型をもとにして,「作図項目」において構築物の変種を生成する。2.「規定」において基本的な作図操作が設定される。それらの作図操作をもとにして,「作図項目」において作図法を説明する。また,同書におけるこれらの記述方法の特質は,読者への序文において作者マルティネス・デ・アランダ自身が述べているように,「少ないものに多くを内包させる」という考え方を彼が評価し,その考え方を拠り所の一つとして切石の作図法の記述に応用していった結果であると推定される。