著者
東川 航 吉村 真由美 八木 剛 前藤 薫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.107-124, 2019-09-25 (Released:2020-09-30)
参考文献数
148
被引用文献数
3

里山の水田地帯において人々に親しまれたトンボ科アカネ属の数種(赤とんぼ)は,近年における農地条件や農法の変化に伴って激減している。いくつかの保全研究によれば,赤とんぼの衰退原因は,各種の生息地利用の違いに従って種特異的と考えられる。すなわち,アキアカネ等の止水性種の卵および幼虫は農薬の悪影響を受けて減少することが知られている一方で,緩流水を伴う水域に生息するミヤマアカネの幼虫は農薬の影響を受けにくく,水田水管理の近代化による生息水域の減少に伴って衰退したことが示唆されている。また,卵の耐乾性が他種よりも強いノシメトンボにとっては,不耕起栽培による水田の土壌表面の乾燥化は衰退原因となりにくいことが分かっている。赤とんぼを総合的に保全するためには,各種のそれぞれの成長段階における生息地利用について理解を深め,衰退原因を把握し,生息地環境を適切に整備する必要がある。保全生息地においては,赤とんぼ各種が必要とするそれぞれの微小環境をバランス良く配置してやることが重要である。そうした生息地環境のデザインは,赤とんぼのみならず,里山の水田地帯において減少している他の多くの湿地性水生生物の保全にも寄与すると考えられる。
著者
八木 剛平 伊藤 斉 三浦 貞則
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.49-58, 1978-01-15

Ⅰ.序文 向精神薬(主として抗精神病薬)によるいわゆる遅発性ないし持続性ジスキネジアは従来精神病院入院中の高齢者(50〜60歳)の一部に観察され,長期(一般に数年以上)にわたって抗精神病薬を投与されたものが多いが症状の起始は明らかでなく,いったん生じた異常運動は抗精神病薬の中断後も消失することはない(恒常性ないし非可逆性)とされていた13)。われわれは1968年以来,それまで遅発性ジスキネジアの認められなかった患者について,抗精神病薬療法の経過を注意深く観察してきたが,1975年までの約8年間に18例について症状の新たな発生を観察するとともに,その経過を追跡して症状の消失を確認することができた。これらの症例の一部は第9回国際神経精神薬理学会において既に報告したが22),当時観察中であった症例についてもその転帰が明らかになったので,ここに改めて報告することにした。本論文の目的は,第一に多くは塔年者において,抗精神病薬療法のかなり早期に発症した軽症のジスキネジアが,原因薬物の中止によって消失したこと,しかしその後の長期経過は楽観を許さないことを示して,遅発性ジスキネジアに関する従来の定説に若干の修正を促すこと,第二にその発症と可逆性に関与する諸要因を検討して遅発性ジスキネジアを発症した精神分裂病者(以下分裂病者と略称)に対する薬物療法について考察することにある。