- 著者
-
東川 航
吉村 真由美
八木 剛
前藤 薫
- 出版者
- 日本陸水学会
- 雑誌
- 陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
- 巻号頁・発行日
- vol.80, no.3, pp.107-124, 2019-09-25 (Released:2020-09-30)
- 参考文献数
- 148
- 被引用文献数
-
3
里山の水田地帯において人々に親しまれたトンボ科アカネ属の数種(赤とんぼ)は,近年における農地条件や農法の変化に伴って激減している。いくつかの保全研究によれば,赤とんぼの衰退原因は,各種の生息地利用の違いに従って種特異的と考えられる。すなわち,アキアカネ等の止水性種の卵および幼虫は農薬の悪影響を受けて減少することが知られている一方で,緩流水を伴う水域に生息するミヤマアカネの幼虫は農薬の影響を受けにくく,水田水管理の近代化による生息水域の減少に伴って衰退したことが示唆されている。また,卵の耐乾性が他種よりも強いノシメトンボにとっては,不耕起栽培による水田の土壌表面の乾燥化は衰退原因となりにくいことが分かっている。赤とんぼを総合的に保全するためには,各種のそれぞれの成長段階における生息地利用について理解を深め,衰退原因を把握し,生息地環境を適切に整備する必要がある。保全生息地においては,赤とんぼ各種が必要とするそれぞれの微小環境をバランス良く配置してやることが重要である。そうした生息地環境のデザインは,赤とんぼのみならず,里山の水田地帯において減少している他の多くの湿地性水生生物の保全にも寄与すると考えられる。