著者
濱尾 章二 樋口 正信 神保 宇嗣 前藤 薫 古木 香名
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.37-42, 2016 (Released:2016-05-28)
参考文献数
21
被引用文献数
5

シジュウカラ Parus minor の巣材47営巣分から,巣材のコケ植物と発生する昆虫を調査した.巣材として21種のコケが使われており,特定のコケを選択的に用いる傾向があった.巣材から,同定不能のものを含め7種のガ成虫が発生した.巣立ちが起きた巣でガが発生しやすい傾向があり,一因として雛の羽鞘屑が幼虫の餌となることが考えられた.巣立ち後野外に長期間置いた巣で,ケラチン食のガが発生しやすい傾向があり,巣の使用後にガ成虫が訪れ産卵することが示唆された.さらにガに寄生するハチが見いだされた.シジュウカラの営巣はこれらの昆虫にとって繁殖可能な環境を作り出していることが示された.
著者
東川 航 吉村 真由美 八木 剛 前藤 薫
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.80, no.3, pp.107-124, 2019-09-25 (Released:2020-09-30)
参考文献数
148
被引用文献数
3

里山の水田地帯において人々に親しまれたトンボ科アカネ属の数種(赤とんぼ)は,近年における農地条件や農法の変化に伴って激減している。いくつかの保全研究によれば,赤とんぼの衰退原因は,各種の生息地利用の違いに従って種特異的と考えられる。すなわち,アキアカネ等の止水性種の卵および幼虫は農薬の悪影響を受けて減少することが知られている一方で,緩流水を伴う水域に生息するミヤマアカネの幼虫は農薬の影響を受けにくく,水田水管理の近代化による生息水域の減少に伴って衰退したことが示唆されている。また,卵の耐乾性が他種よりも強いノシメトンボにとっては,不耕起栽培による水田の土壌表面の乾燥化は衰退原因となりにくいことが分かっている。赤とんぼを総合的に保全するためには,各種のそれぞれの成長段階における生息地利用について理解を深め,衰退原因を把握し,生息地環境を適切に整備する必要がある。保全生息地においては,赤とんぼ各種が必要とするそれぞれの微小環境をバランス良く配置してやることが重要である。そうした生息地環境のデザインは,赤とんぼのみならず,里山の水田地帯において減少している他の多くの湿地性水生生物の保全にも寄与すると考えられる。
著者
佐藤 重穂 前藤 薫 田端 雅進 宮田 弘明 稲田 哲治
出版者
樹木医学会
雑誌
樹木医学研究 (ISSN:13440268)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.75-80, 2004-09-30
被引用文献数
1

ニホンキバチの成虫脱出数が樹木個体によってばらつく要因を明らかにするために,スギの間伐放置木からのニホンキバチの羽化成虫数を調べ,あわせて産卵痕数,孵化幼虫数を調べた.産卵強度および孵化幼虫密度と羽化成虫密度との間にはそれぞれ正の相関があった.寄主木の胸高直径,含水率,寄生蜂オオホシオナガバチの寄生率とニホンキバチの各ステージの密度との関係を調べたところ,胸高直径と含水率が羽化成虫密度との間に正の相関があり,寄生蜂の寄生率はニホンキバチの羽化成虫密度との間に相関がみられなかった.含水率は孵化率,羽化率とも正の相関があった.胸高直径,含水率,産卵強度,孵化幼虫密度,羽化成虫密度の間の因果関係を仮定してモデルを作り,解析した結果,これらの関係を説明することができた.この結果から,寄主木サイズが含水率を通じてニホンキバチの羽化成虫数を決める要因の一つとなっていると考えられた.
著者
前藤 薫 槇原 寛
出版者
日本昆虫学会
雑誌
昆蟲. ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.11-26, 1999-03-25
被引用文献数
9

茨城県北部にある老齢自然林と皆伐後の経過年数の異なる二次林にマレーズトラップを設置して, 昆虫相を比較した.その結果, 林齢にともなう昆虫の種数と種組成の変化は, 昆虫のグループによって大きく異なることが分かった.カメムシ類とスズメバチ類では, 森林の遷移にともなう種数や種組成の明瞭な変化は認められなかった.チョウ類の種数は, 若い二次林に最も多く, 古い二次林ではやや減少した.また, 林齢によって種組成が変化した.カミキリムシ類は古い二次林で最も多くの種が捕獲され, 種組成は森林の遷移に応じて変化した.一方, クワガタムシ類は種数, 個体数ともに老齢自然林が最も豊富であった.林業地域において森林昆虫の多様性を保全するには, 昆虫の生息場所としての二次林の役割と限界について十分に理解する必要があろう.
著者
前藤 薫 光後 圭枝 小谷 英司 宮田 弘明 杉村 光俊
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.27-41, 2003-03-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
25

We conducted a correspondence analysis (CA) of 88 species of Odonata (dragonflies) observed at 455 grid sites (ca. 0.5km×0.5km) in the Shimanto River basin and adjacent areas in Shikoku, Japan. Multiple regression analyses of the two main axes of the CA ordination on the geographical features (altitude, relief) and vegetation of grid sites indicated that the degree of relief and the areal proportion of paddy fields were the main determinants of the species distribution of Odonata. The species were classified into 5 groups by k-means clustering based on the coordinate axes. Groups I and II mostly consisted of lentic species inhabiting ponds, marshes and paddy fields of flat lands. Groups III and IV were composed of lentic species mainly inhabiting marshes and paddy fields and lotic species in slow streams. Group V consisted of lotic species inhabiting mountain streams and spring sources. Habitat requirements for the species appearing in the Red List of Kochi Prefecture are also discussed.
著者
安藤 健 井上 良平 前藤 薫 藤條 純夫
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.201-210, 2006-08-25
参考文献数
13
被引用文献数
1 10

ハスモンサムライコマユバチMicropliis manilaeは熱帯・亜熱帯に広く分布するものの国内では未記録種であったが、著者らは本種が沖縄本島でハスモンヨトウ幼虫に寄生していることを見いだした。本種が単寄生性の内部寄生蜂であることを確認した上で、産卵一発育に及ぼす温度の影響を検討した。本種は、ハスモンヨトウの1-4齢には寄生し、幼虫の摂食を大幅に抑制したが、卵、終齢前齢(5齢)および終齢幼虫にはほとんど寄生できなかった。15℃から30℃までの恒温条件下での発育比較から、本種の卵から羽化までの発育零点は11.5℃、有効積算温度は217.4日度と算出された。産卵と寄生成功は15℃の恒温下では大幅に低下したが、1日の内8時間あるいは12時間を10あるいは15℃にしても、日平均温度が15℃になるように飼育すれば、そのような支障は消失した。1頭の雌成虫は、20-30℃では、2週間に渡って300個以上の卵を産み、産卵させなければ、15℃では60日間生存した。温度に対する本種の発育や増殖能力への影響を、ハスモンヨトウの幼虫寄生蜂であるギンケハラボソコマユバチと比較した。
著者
末吉 昌宏 前藤 薫 槙原 寛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.171-191, 2003-09
被引用文献数
7 2

茨城県北部の温帯落葉樹林の二次林、混交林、自然林に調査地を設定し、皆伐後の二次林回復時における有弁類を除く双翅目短角類の種数・個体数を通年で調査した。その結果、41科441種余りを見い出し、それら短角類群集の種構成は森林の成熟に伴って変化する傾向にあることが明らかになった。植食性、菌食性、腐食性、捕食性および捕食寄生性といった短角類の多様な食性を代表する分類群としてミバエ科、トゲハネバエ科キイロトゲハネバエ属、ハナアブ科、クチキバエ科、キアブ科、キアブモドキ科、アタマアブ科が挙げられ、それぞれが森林の遷移に対して異なった応答を示すことが明らかになった。また、本研究では森林に生息する主要な短角類として、オドリバエ科、ハナアブ科、シマバエ科が挙げられ、そのうちハナアブ類群集の種構成は遷移の進んだ林齢の似通った二次林および自然林間では殆ど変化は無く、皆伐地、混交林、壮齢林のように異なる森林タイプで大きく異なっていた。そのため、ハナアブ科は様々な森林タイプを含む景観の多様性を評価するのに有用であると考えられる。