著者
財城 真寿美 磯田 道史 八田 浩輔 秋田 浩平 三上 岳彦 塚原 東吾
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2009年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.192, 2009 (Released:2009-06-22)

1.はじめに 東アジア地域では測器による気象観測が最近100年間程度に限られるため,100年以上の気象観測データにもとづく気候変動の解析が困難であった.近年,地球規模の気温上昇が懸念される中,人間活動の影響が小さい時期の気象観測記録を整備し,長期的な気候変動を検証することは,正確な将来予測につながると考えられる.またこれまで数多く行われてきた古日記の天候記録による気温の推定値を検証する際にも,古い気象観測データが有効であると考えられる. Zaiki et al.(2006,2008)は1880年代以前の日本(東京・横浜・大阪・神戸・長崎),また中国(北京)における気象観測記録を均質化し,データを公開している.本研究はこれまで整備してきた19世紀の気象観測記録とほぼ同時期の1852~1868年に,水戸で観測された気温の観測記録を均質化し,現代のデータと比較可能なデータベースを作成することを目的とした.さらにそのデータを使用して,小氷期末期にどのような気温の変化があったかを検討する. 2.資料・データ 19世紀の水戸における気温観測記録は,水戸藩の商人であった大高氏の日記(大高氏記録)に含まれている.原本は東京大学史料編纂所に,写本が茨城大に所蔵されている.寒暖計による気温観測は1852~1868年にわたり,1日1回朝五つ時に実施されている. 水戸気象台の月平均値は要素別月別累年値データ(SMP:1897年~),日・時別値は地上気象観測日別編集データ(SDP:1991年~)を使用した. 3.均質化 大高氏記録の気温は,華氏(°F)で観測されているため,摂氏(°C)へ換算した.さらに,当時の観測時刻である不定時法の「朝五つ時」は季節によって変動するため(午前6時半~8時頃),各月の平均時刻を算出した.そして,水戸気象台の気温時別データを利用して,各月の朝五つ時のみの観測値から求めた月平均気温と24時間観測による月平均値を比較し,均質化のための値を算出した.均質化後には,最近50年間の観測データとの比較によって異常値を判別し,データのクオリティチェックを行った. 4.19世紀の水戸における気温の変動 今回,大高氏記録から所在が判明した1852~1868年の水戸の気温データは未だに断片的ではあるが,1850・1860年代は寒暖差が大きく,夏(8月)は水戸の平年値よりも0.9°C高く,冬(1月)は0.5°C寒冷であったことが明らかとなった.これは,すでにデータベース化している19世紀の東京・横浜での気温の変動とほぼ一致する傾向にある.今後は,大高氏による観測環境がどの程度直射日光の影響を受けやすかったのか等,検討する必要がある.