著者
木村 恵 壁谷 大介 齋藤 智之 森口 喜成 内山 憲太郎 右田 千春 千葉 幸弘 津村 義彦
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.124, 2013

クローナル繁殖は植物の個体群動態と遺伝構造を特徴付ける重要な要因である。本研究では全国のスギ天然林13集団を対象に、クローナル繁殖の1つである伏条繁殖の頻度を明らかにし、遺伝要因と環境要因が伏条繁殖に与える影響を調べた。核SSR8座を用いたクローン解析の結果、10集団で伏条がみられ空間遺伝構造に強く影響していた。伏条の頻度は集団間で異なったことから、説明変数に環境要因(積雪深)、遺伝要因(Structure解析による<i>Q</i>値)、個体サイズ(胸高断面積合計:BA)、目的変数に各ジェネットが伏条繁殖するか否かとジェネットあたりのラメット数の2項目を用いて一般化線形混合モデルによりモデル選択を行った。その結果、伏条するか否かには<i>Q</i>値、積雪深との交互作用、BAが選択され、積雪の多い地域では個体サイズが小さく、遺伝クラスター1に由来しないジェネットほど伏条を行うという結果が得られた。またジェネットあたりのラメット数はBAが小さいほど減少する傾向がみられた。以上から、スギにとって伏条は氷期のような厳しい環境下で個体群を維持するための重要な繁殖様式として機能してきたと考えられた。
著者
齊藤 陽子 津田 吉晃 内山 憲太郎 福田 知秀 井出 雄二
出版者
森林遺伝育種学会
雑誌
森林遺伝育種 (ISSN:21873453)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.1-10, 2018-01-25 (Released:2020-04-22)
参考文献数
60

アベマキは二次林構成種であり、人里近くに多く見られる。本研究では本州のアベマキを対象に、7集団について核 DNAおよび葉緑体 DNA由来の SSRマーカーを用いて遺伝構造を調べた。葉緑体 DNAではアベマキの全個体が1つのハプロタイプに固定しており、過去のボトルネックの経験と近年の急速な分布拡大が示唆された。アベマキの核 DNAの遺伝的多様性は高く(平均RS=4.58、HE=0.694)、ある程度の集団間分化もみられた(F’ST=0.087.0.100)。STRUCTURE解析では、アベマキから2つのクラスターが検出され、東北の1集団を除いて、これら2クラスターの混合パターンがみられた。一方、日本原産の多くの樹種とは異なり明確な空間遺伝構造は見られず、人為の影響は否定できなかった。近縁種であるクヌギとの種間関係も評価したところ、葉緑体DNAはアベマキと同一のハプロタイプに固定されている一方、核DNAでは明確な種分化がみられた。また両種が同所的に生育する集団では種間混合パターンが見られた。これらのことからアベマキの遺伝構造の理解には過去の分布変遷の他、人間活動の影響や種間交雑も考慮すべきことがわかった。
著者
内山 憲太郎 加藤 珠理 上野 真義 鈴木 節子 須貝 杏子 松本 麻子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

高速シークエンサーやSNPアレイの登場により、ゲノム情報の乏しい生物種においてもゲノムワイドな遺伝解析が比較的容易に行えるようになってきた。しかし、多検体に対して、数千~数万の遺伝子座のタイピングを行うのは未だコストがかかる。その一つの解決策として、制限酵素断片配列の網羅的解析がある(RADseq:Restriction-site Associated DNA sequencing)。本報告では、頻度の異なる2種類の制限酵素組み合わせを用いることで、ゲノムサイズの小さな種から大きな種まで、比較的自由度高くデータ量と解析遺伝子座数を調節できるddRAD(Double Digest RAD)の手法を日本産の14樹種に対して適用した結果を報告する。解析に用いた樹種のゲノムサイズは0.3~19.4Gbの範囲である。12種類の制限酵素の組み合わせを試した結果、7種類の組み合わせにおいて比較的良好なデータが得られた。いずれの樹種においても、数千~数万座の1塩基多型が検出された。一方で、特にゲノムサイズの大きな樹種においては、制限酵素の選択がデータ量に大きな影響を及ぼすことがわかった。