著者
北本 尚子 上野 真義 津村 義彦 竹中 明夫 鷲谷 いづみ 大澤 良
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.54, 2004

サクラソウ集団内の遺伝的多様性を保全するための基礎的知見を得ることを目的として、筑波大学八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ集団を対象に、_丸1_花粉と種子の動きを反映するマイクロサテライトマーカー(SSR)と、種子の動きを反映する葉緑体DNA(cpDNA)多型を用いて遺伝的変異の空間分布を明らかにするとともに、_丸2_遺伝構造の形成・維持過程に大きな影響を及ぼす花粉流動を調査した。<br> 7本の沢沿い分集団と1つの非沢沿い分集団に分布する383ラメットの遺伝子型を決定した。SSRを指標とした分集団間の遺伝的な分化程度はΘn=0.006と非常に低かったことから、分集団間で遺伝子流動が生じていることが示唆された。一方、cpDNAで見つかった4つのハプロタイプの出現頻度は沢間で大きく異なっていたことから、沢間で種子の移動が制限されていると推察された。これらのことは、現在の空間的遺伝構造は沢間で生じる花粉流動によって維持されていることを示唆している。<br> 次に、沢沿いの30*120mを調査プロットとし、SSR8遺伝子座を用いて父性解析を行った。30m以内に潜在的な交配相手が多く分布する高密度地区では、小花の開花時期により花粉の散布距離に違いが見られた。すなわち、開花密度の低い開花初期と後期では45_から_80mの比較的長距離の花粉流動が生じていたのに対して、開花密度の高い開花中期では平均3mと短い範囲で花粉流動が生じていた。一方、30m以内に交配相手が少ない低密度地区では、開花期間をとおして平均11m、最大70mの花粉流動が見られた。このことから、花粉の散布距離は開花密度に強く依存することが示唆された。花粉媒介者であるマルハナバチの飛行距離が開花密度に依存することを考えあわせると、開花密度の低いときに生じる花粉の長距離散布は沢間の遺伝的分化も抑制している可能性があると推察された。<br>
著者
内山 憲太郎 加藤 珠理 上野 真義 鈴木 節子 須貝 杏子 松本 麻子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

高速シークエンサーやSNPアレイの登場により、ゲノム情報の乏しい生物種においてもゲノムワイドな遺伝解析が比較的容易に行えるようになってきた。しかし、多検体に対して、数千~数万の遺伝子座のタイピングを行うのは未だコストがかかる。その一つの解決策として、制限酵素断片配列の網羅的解析がある(RADseq:Restriction-site Associated DNA sequencing)。本報告では、頻度の異なる2種類の制限酵素組み合わせを用いることで、ゲノムサイズの小さな種から大きな種まで、比較的自由度高くデータ量と解析遺伝子座数を調節できるddRAD(Double Digest RAD)の手法を日本産の14樹種に対して適用した結果を報告する。解析に用いた樹種のゲノムサイズは0.3~19.4Gbの範囲である。12種類の制限酵素の組み合わせを試した結果、7種類の組み合わせにおいて比較的良好なデータが得られた。いずれの樹種においても、数千~数万座の1塩基多型が検出された。一方で、特にゲノムサイズの大きな樹種においては、制限酵素の選択がデータ量に大きな影響を及ぼすことがわかった。
著者
北本 尚子 上野 真義 津村 義彦 鷲谷 いづみ 大澤 良
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.47-51, 2005-06-30
被引用文献数
1 1

絶滅危惧植物であるサクラソウの自然個体群内における遺伝的多様性と花粉流動の実態を明らかにするために, 私たちは3組のマイクロサテライトマーカーを開発した.これらのマーカーを用いて, 八ヶ岳演習林内に自生するサクラソウ52個体の遺伝子型を決定したところ, いずれのマーカーも多型性が高く, 1遺伝子座あたりの対立遺伝子数は8〜12, ヘテロ接合度の観察値は0.77〜0.94であった.開発した3組のマーカーとIsagi et al. (2001)によってすでに開発されている7組のマーカーを組み合わせたときの父性排除率は, 0.997と推定され, 偽の花粉親候補を偶然選ぶ確率が84%から7%へと大幅に改善した.したがって, 今回開発したマイクロサテライトマーカーを併用すれば, 自然個体群内の花粉流動を把握することができると考えられる.