著者
須貝 杏子
出版者
首都大学東京
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

海洋島で一般的にみられる進化現象の1つとして,異なる生育環境への適応を伴う生態的種分化が挙げられる.生態的種分化は,地理的障壁による隔離がない状況下で,異なる生育環境間での分断化選択と同系交配を促進する交配前隔離によって引き起こされると考えられている.小笠原諸島は東京から約1,000km南に位置する海洋島であり,個々の島の面積は比較的小さいが,複雑な地形に対応して様々な植生がモザイク状に配置し,複数の生物群において生態的種分化が報告されている.小笠原諸島に固有なシマホルトノキは,湿性高木林から乾性低木林まで幅広い環境に生育しているが,これまでに環境ごとの形態的差異などは報告されていなかった.本研究では父島列島のシマホルトノキ11集団337個体を用いて,24遺伝子座のEST-SSRマーカーによる集団遺伝学的解析を行った.さらに,父島の4集団において,開花期調査と土壌水分量,植生高の測定を行った.その結果,父島列島内における生育環境間(湿性高木林と乾性低木林の間)の集団間の遺伝的分化(0.005≦F_<ST>≦0.071)は,同一生育環境内の集団間の遺伝的分化(0.001≦F_<ST>≦0.070)より大きいことが分かった.さらに,遺伝的に分化したグループ間では,開花期にずれがあり,土壌水分量と植生高にも差がみられた.これらのことから,父島列島では,シマホルトノキの遺伝的に分化した2つのグループが側所的に分布しており,それらのグループ間では開花期のずれにより遺伝子流動が制限されていることが明らかになった.シマホルトノキは,種分化の初期段階にあると考えられる.
著者
久保 満佐子 崎尾 均 須貝 杏子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

日本海にある隠岐諸島では,氷河期の遺存的な樹種が暖温帯に生育するのが特徴である。氷河期遺存樹種の分布を調べた結果,北方系針葉樹のヒメコマツは山地の露岩地,クロベは海岸から山地まで,第三紀遺存種のカツラは渓流沿いに分布していた。冷温帯樹種のミズナラは海岸から山地まで生育するものの島の北側に偏って分布し,北西の季節風の影響により冷涼で降水量の多い環境が生育地となっていると考えられた。さらに,遺伝的多様性を調べた結果,クロベは隠岐諸島を氷河期の避難地とした可能性があった。隠岐諸島は日本の気候変動における樹木の変遷を知る上で重要な島嶼であるといえる。
著者
内山 憲太郎 加藤 珠理 上野 真義 鈴木 節子 須貝 杏子 松本 麻子
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

高速シークエンサーやSNPアレイの登場により、ゲノム情報の乏しい生物種においてもゲノムワイドな遺伝解析が比較的容易に行えるようになってきた。しかし、多検体に対して、数千~数万の遺伝子座のタイピングを行うのは未だコストがかかる。その一つの解決策として、制限酵素断片配列の網羅的解析がある(RADseq:Restriction-site Associated DNA sequencing)。本報告では、頻度の異なる2種類の制限酵素組み合わせを用いることで、ゲノムサイズの小さな種から大きな種まで、比較的自由度高くデータ量と解析遺伝子座数を調節できるddRAD(Double Digest RAD)の手法を日本産の14樹種に対して適用した結果を報告する。解析に用いた樹種のゲノムサイズは0.3~19.4Gbの範囲である。12種類の制限酵素の組み合わせを試した結果、7種類の組み合わせにおいて比較的良好なデータが得られた。いずれの樹種においても、数千~数万座の1塩基多型が検出された。一方で、特にゲノムサイズの大きな樹種においては、制限酵素の選択がデータ量に大きな影響を及ぼすことがわかった。