著者
余田 成男 林 祥介 伊賀 啓太 石岡 圭一 田中 博 冨川 喜弘 中野 英之 前島 康光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.405-412, 2006-05-31
被引用文献数
1

AGUは毎年何件かの特定のテーマについて50〜100人規模のチャップマン会議を各地で開催している.今回,Robinson(Univ. Illinois)と余田(京都大学)がコンビーナーとなり,2006年1月9〜12日,ジョージア州サバンナで「地球流体中のジェットと環状構造」に関するチャップマン会議を,KAGI21,NSFとの共催で開催した(第1図に会議のポスター[figure]).Allison(NASA/GISS),Baldwin(NWRA),林(北海道大学),Haynes(Univ. Cambridge),Huang(LDEO),Rhines(Univ. Washington),Thompson(Colorado State Univ.),Vallis(Princeton Univ.)の8氏をプログラム委員に招いて,2年以上をかけて準備してきた会議である.日米をはじめ13か国から70余名の参加者があり,(A)大気中のジェット,(B)海洋中のジェット,(C)大気の環状変動,(D)惑星大気のジェットと環状流,(E)地球流体力学的にみたジェット,の5つの広範だが関連深い話題について,レビュー講演(6件),招待講演(22件),および,ポスター発表(40余件)を行った.レビュー講演は,各分野で主導的な役割を果たしてきたMcIntyre(Univ. Cambridge),Lee(Pennsylvania State Univ.),Marshall(MIT),Wallace(Univ. Washington),Allison,Rhinesの6氏にお願いした.この会議のハイライトの1つは,太平洋域の高分解能数値シミュレーション(Nakano and Hasumi,2005)で予言的に見出され,観測データで発見された海洋中の多重東西ジェット構造である.木星型惑星に見られる多重の環状流との類似性や,回転球面上の2次元乱流中におけるジェット形成メカニズムとの関連など,幅広い分野の研究者を巻き込んで熱い議論がなされた.また,傾圧擾乱による対流圏界面亜熱帯ジェットの維持過程が南極周極流のそれと力学的に相似な現象と認識しうる(基本場の傾圧性が南北加熱差によって維持されるか,海面での摩擦応力によって維持されるか,の違いはあるが)という話題も,地球流体力学的普遍性を具体的に示す好例であった.さらに,周極ジェット気流の時間変動が特徴的に環状パターンを示すという認識が,環状"mode"であるかどうかは措いても,天候の延長予報や今世紀中の気候変化予測などにも役立ちうる可能性が指摘され,実用的応用的な興味も喚起した.この機会に,KAGI21で開発した地球流体力学計算機実験集(Yoden et al., 2005)のCDを参加者全員に配布した.これは,地球流体力学の基本的な数値実験演習問題をパソコンでインタラクティブに実行し,計算結果のアニメーションを見ることができるソフトウェアである.会議終了後すでにいくつかの好意的な反応を得ており,希望者には無償で配布中である.サバンナは米国南部の観光小都市であり,会場となったホテルの近くにも昼食・夕食をみんなで食べられるレストランが多くあった.気のあった仲間同士で出かけてゆっくりと科学的な議論を続けたり,また,それぞれの近況情報を交わしたりできた.最終日のパーティーでは,McIntyre氏が飛び入りでPV song(ビートルズの"Let It Be"の替え歌)を歌い,皆の喝采を浴びた.英国あたりでは, IPVといっていた頃から歌われてきた替え歌のようである.今回の会議後,林氏が火付け役,McIntyre氏が先導役(掻き混ぜ係?)となって歌詞に関するメールのやり取りが続いた.原作のHall(CNRS),Thuburn(Univ. Exeter),さらにはHoskins(Univ. Reading),Wallace,Palmer(ECMWF),Emanuel(MIT)氏らビッグネームも加わって盛り上がり,その統一版が完成した.第2図[figure]に歌詞を掲載するので,PVファンは味わっていただきたい.http://www.lthe.hmg.inpg.fr/~hall/pvsong/pvsong.shtmlには,Hall氏の演奏もある.次節以降は,プログラム委員の林氏,および,参加者有志(アイウエオ順)の報告である.