著者
余田 成男 石岡 圭一 内藤 陽子 向川 均 堀之内 武 小寺 邦彦 廣岡 俊彦 田口 正和 柴田 清孝
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

全球気象解析データおよび力学コアモデルから気象庁1ヶ月アンサンブル予報モデルまでを駆使して、成層圏変化が大気大循環の主要力学過程に及ぼす影響と力学的役割を明らかにした。特に、成層圏突然昇温現象に関連して、周極渦周縁の大規模前線構造を発見するとともに、極域循環の予測可能性変動の新知見を得た。また、化学-気候モデル実験結果も加えて、成層圏寒冷化、太陽活動変動などの外部要因変動が季節内変動・年々変動の及ぼす力学的役割を明らかにした。
著者
石岡 圭一 余田 成男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.201-212, 1995-04-25
被引用文献数
1

強制と散逸のある、球面上の高分解能2次元非発散モデルにおいて、極渦の順圧不安定に関する非線形数値実験を行った。また、いくつかの流れ場について、高分解能の輸送モデルを用いて、トレーサーの水平輸送および混合過程を調べた。帯状ジェット強制のパラメータに依存して、定常な東進ロスビー波(周期解)、東進波が周期変化するバシレーション(準周期解)、および非周期変動(カオス解)が得られた。sech型ジェット(主にジェットの極側が不安定)では定常波解からバシレーションを経由して非周期変動に至る段階的な遷移が見られたが、tanh型ジェット(ジェットの赤道側が不安定)では現実的パラメター範囲では非周期変動は得られなかった。また、輸送モデルを用いた実験の結果、波動解が定常であるか非定常であるかに関わらず、極渦の周縁は非常に頑丈で、極渦の内外の流体同士の混合はほとんど起らないことが示された。ただし、sech型ジェットで得られた非周期変動においては、時折、極渦の内外の流体がフィラメント的な形状をとって交換される。
著者
Matthew H. HITCHMAN 余田 成男 Peter H. HAYNES Vinay KUMAR Susann TEGTMEIER
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.239-267, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
108
被引用文献数
27

成層圏準2年周期振動(QBO)が熱帯・亜熱帯の上部対流圏・下部成層圏(UTLS)に与える影響に関する観測的研究の歴史をレビューする。観測解析能力の段階に応じて、その展開を順次説明する。QBOの西風(W)と東風(E)の位相は下部成層圏の帯状風によって定義される。1960~1978年の間には、ラジオゾンデ観測データでUTLSのQBO変調が示され、QBO W位相時に熱帯では暖かい偏差、南緯30度と北緯30度付近では冷たい偏差であることが明らかにされた。このことは、熱帯と亜熱帯の間のコヒーレントで逆位相的な応答を予言していたQBOに伴う平均子午面循環(MMC)の理論と一致していた。1978~1994 年の間には、人工衛星によるエアロゾルと気温の観測により、QBO MMCの存在が確認された。1994年~2001年の間には、全球データセットにより、対流圏界面温度の帯状平均QBO変動の解析が可能となった。そして、2001年には、1958~2000年の42年間の全球NCEP再解析により、圏界面温度、気圧、帯状風のQBO W-E位相差の季節的・地理的な違いが明らかにされた。今では、38年間のMERRA-2データと40年間のERA-Interimデータによる最新の更新により、季節的・地理的変動をより完全に把握することができる。 熱帯のQBO変動幅は、圏界面の気温は約0.5~2K、高度は約100~300m、気圧は約1~3hPaであり、QBO E位相時に、特に北半球の冬から春にかけて、寒く、高くなる。QBO温度シグナルは、深い対流が多い地域で大きくなる傾向がある。南半球亜熱帯のQBOシグナルは南半球の冬に強まる。QBO W位相時には、亜熱帯の偏西風ジェットが発達する一方でWalker循環は弱くなり、特に北半球の春には弱くなる。ERA-Interimのデータを用いて、気温、帯状風、MMCの帯状平均QBO偏差の新しい気候学を提示する。QBO E位相はUTLSでの静的安定度と帯状風シアーの両方を低下させることで対流を促進させる可能性がある。
著者
余田 成男 林 祥介 伊賀 啓太 石岡 圭一 田中 博 冨川 喜弘 中野 英之 前島 康光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.405-412, 2006-05-31
被引用文献数
1

AGUは毎年何件かの特定のテーマについて50〜100人規模のチャップマン会議を各地で開催している.今回,Robinson(Univ. Illinois)と余田(京都大学)がコンビーナーとなり,2006年1月9〜12日,ジョージア州サバンナで「地球流体中のジェットと環状構造」に関するチャップマン会議を,KAGI21,NSFとの共催で開催した(第1図に会議のポスター[figure]).Allison(NASA/GISS),Baldwin(NWRA),林(北海道大学),Haynes(Univ. Cambridge),Huang(LDEO),Rhines(Univ. Washington),Thompson(Colorado State Univ.),Vallis(Princeton Univ.)の8氏をプログラム委員に招いて,2年以上をかけて準備してきた会議である.日米をはじめ13か国から70余名の参加者があり,(A)大気中のジェット,(B)海洋中のジェット,(C)大気の環状変動,(D)惑星大気のジェットと環状流,(E)地球流体力学的にみたジェット,の5つの広範だが関連深い話題について,レビュー講演(6件),招待講演(22件),および,ポスター発表(40余件)を行った.レビュー講演は,各分野で主導的な役割を果たしてきたMcIntyre(Univ. Cambridge),Lee(Pennsylvania State Univ.),Marshall(MIT),Wallace(Univ. Washington),Allison,Rhinesの6氏にお願いした.この会議のハイライトの1つは,太平洋域の高分解能数値シミュレーション(Nakano and Hasumi,2005)で予言的に見出され,観測データで発見された海洋中の多重東西ジェット構造である.木星型惑星に見られる多重の環状流との類似性や,回転球面上の2次元乱流中におけるジェット形成メカニズムとの関連など,幅広い分野の研究者を巻き込んで熱い議論がなされた.また,傾圧擾乱による対流圏界面亜熱帯ジェットの維持過程が南極周極流のそれと力学的に相似な現象と認識しうる(基本場の傾圧性が南北加熱差によって維持されるか,海面での摩擦応力によって維持されるか,の違いはあるが)という話題も,地球流体力学的普遍性を具体的に示す好例であった.さらに,周極ジェット気流の時間変動が特徴的に環状パターンを示すという認識が,環状"mode"であるかどうかは措いても,天候の延長予報や今世紀中の気候変化予測などにも役立ちうる可能性が指摘され,実用的応用的な興味も喚起した.この機会に,KAGI21で開発した地球流体力学計算機実験集(Yoden et al., 2005)のCDを参加者全員に配布した.これは,地球流体力学の基本的な数値実験演習問題をパソコンでインタラクティブに実行し,計算結果のアニメーションを見ることができるソフトウェアである.会議終了後すでにいくつかの好意的な反応を得ており,希望者には無償で配布中である.サバンナは米国南部の観光小都市であり,会場となったホテルの近くにも昼食・夕食をみんなで食べられるレストランが多くあった.気のあった仲間同士で出かけてゆっくりと科学的な議論を続けたり,また,それぞれの近況情報を交わしたりできた.最終日のパーティーでは,McIntyre氏が飛び入りでPV song(ビートルズの"Let It Be"の替え歌)を歌い,皆の喝采を浴びた.英国あたりでは, IPVといっていた頃から歌われてきた替え歌のようである.今回の会議後,林氏が火付け役,McIntyre氏が先導役(掻き混ぜ係?)となって歌詞に関するメールのやり取りが続いた.原作のHall(CNRS),Thuburn(Univ. Exeter),さらにはHoskins(Univ. Reading),Wallace,Palmer(ECMWF),Emanuel(MIT)氏らビッグネームも加わって盛り上がり,その統一版が完成した.第2図[figure]に歌詞を掲載するので,PVファンは味わっていただきたい.http://www.lthe.hmg.inpg.fr/~hall/pvsong/pvsong.shtmlには,Hall氏の演奏もある.次節以降は,プログラム委員の林氏,および,参加者有志(アイウエオ順)の報告である.
著者
酒井 敏 紀本 岳志 余田 成男
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

「科学技術離れ・理科離れ」の原因の一つは、子供達が未知の謎や、まだ解ってないことに接する機会が失われつつあり、その結果、自分が自然現象の謎を解決したいという欲求が失われてきたことであると考える。そこで研究者が解ったこと(知識)を伝えるのではなく、まだ解っていないことを伝え、共に研究するという新しいプロジェクトを実施することを目的として、この研究を行った。研究テーマとしては、京都のヒートアイランド現象を取り上げた。これは、身近な現象でありながら、未だにその実態が明らかになっておらず、気温の多点観測を行うことで、学問的にも貴重な知見が得られる可能性が高いからである。この観測を行うために、観測装置の自作キットを作成した。通常の気象観測装置では、1測点あたり10万円程度かかってしまい、多数の観測点を配置するのは不可能であるが、データーロガーをはじめ、それを収納する防水ケース、センサを収納するラディエーションシールドなど、すべてを自作することで1測点あたりのコストを約10分の1に抑え、教育現場でも導入しやすいシステムを構築した。これらの材料は、電子部品を除けば、すべて、ホームセンターで入手できるものであり、特殊な材料は用いていない。それにもかかわらず、このキットは市販の製品と比較しても、まったく遜色のない性能を有している。これらのキット製作を目的とした実習を15年度、16年度に高校生に対して行った。ハンダ付けなどの作業は、彼らにとって新鮮であり、非常に興味をもって製作し、ほとんどの生徒が完成にこぎつけた。さらに、これらの装置を使い、16年度秋と冬に京都市内の約30点で高密度連続観測を行った。その結果、京都の都市部と郊外で数度のヒートアイランド現象が観測された。また、よく晴れた日の夜明け前に最大になるといわれているヒートアイランド現象が、常に日没直後に最大となることなど、これまでの通説を覆す結果が得られた。さらに、このような研究を通して、生徒の興味関心を大きく引き出すことに成功した。