著者
冨田 敏夫 神尾 好是
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

黄色ブドウ球菌のロイコシジン及びγヘモリジンは2成分性血球崩壊毒素である。我々は、ヒト血清中のγヘモリジン阻害物資の精製に成功し、阻害物資をビトロネクチン及びそのフラグメントであると同定した。即ち、ロイコシジン及びγヘモリジンの新規機能、すなわちビトロネクチン結合能を初めて明らかにした。本研究では、(1)ビトロネクチンがγヘモリジンのHlg2成分およびロイコシジンのLukS成分に特異的に結合して両毒素の活性を阻害する事実を明らかにし、(2)ビトロネクチンの毒素分子結合ドメインの決定を試みた。ビトロネクチンの毒素阻害ドメインを決定するために、プラスミンによるビトロネクチンの限定分解をおこない、38kDaの阻害活性フラグメント(:89番目セリンから始まる)を分離した。さらに、このフラグメントをトリプシン分解した結果、C末端側が切断された24kDaの活性フラグメントが得られた。従って、ビトロネクチンの毒素阻害部位はhemopexin 1ドメインのC末端側及びhemopexin 2ドメインのN末端側の両者を含むことが明らかになった。また、(3)ビトロネクチン・毒素複合体中の両分子のモル比を測定した結果、平均して6分子のビトロネクチンが1分子の毒素を結合していた。この複合体中の毒素成分はSDS存在下で遊離するが、ビトロネクチンは複合体として存在していた。さらに、電子顕微鏡観察では、約20nmの球状構造が見られ、この球状構造が毒素成分1分子を保持するビトロネクチン複合体であると考えられた。
著者
笹川 千尋 冨田 敏夫 戸辺 亨 福田 一郎
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

赤痢菌は経口的にヒトへ感染後回腸に到達し、腸上皮細胞へ自ら食作用を誘発し細胞内へ侵入する。これには本菌の有する大プラスミド上のipaBCDから産生される侵入性蛋白(IpaB,IpaC,IpaD)が深く関っていることが知られているが、その機序は不明であった。そこで本研究ではIpa蛋白の性質と侵入に果す役割を理解する目的で、(i)Ipa蛋白の上皮細胞に対する作用、(ii)Ipa蛋白の菌体外論送機構、(iii)ipaBCD遺伝子の発現調節機構、の以上3つの研究を実施し、以下に列挙する知見を得ることができた。(1)Ipa蛋白は通常菌体表層に発現し結合状態にあるが、菌体から遊離することが細胞侵入に不可欠である。(2)Ipa蛋白の菌体からの遊離には、菌と上皮細胞との接解が必須である。(3)(2)の現像は、菌と細胞外マトリックス(フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲンIV)との接解により惹起される。(4)Ipa蛋白の遊離能には、大プラスミド上のSpa遺伝子の1つ、Spa32が関与している。(5)遊離したIpaBとIpaC蛋白は複合体を形成し、IpaDと共に上皮細胞上のレセプター(現在同定中)に結合する。(6)IpaB、IpaC、IpaDの菌体外論送には、大プラスミドのコードするmxi領域と共に、Spa領域が必要である。(7)Spa領域中には8つのSpa遺伝子が存在する。(8)Spa蛋白のアミノ酸一次構造は、動物・植物病原菌に広く存在する蛋白分泌系蛋白と著るしい(20〜45%)ホモロジーを示し、互いの遺伝子構成も類似している。(9)(8)で認められる蛋白による蛋白論送系は、Sec-依存的蛋白論送系あるいはヘモリジン蛋白論送系とも異なる、第3の蛋白論送系である。(10)ipaBCDの温度依存的な発現調節は、本遺伝子群の正の転写因子、virB、の転写段階で行なわれている。以上の成果は欧米でも注目され、平成6年にはゴ-ドン会議に於て招待講演として発表を行った。