著者
中戸川 早苗 出口 禎子
出版者
日本精神保健看護学会
雑誌
日本精神保健看護学会誌 (ISSN:09180621)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.70-79, 2009-05-31 (Released:2017-07-01)
参考文献数
9

本研究の目的は、精神障害者の働く動機を支える想いを明らかにし、「働くこと」に向きあう精神障害者を支えるために、必要な支援について示唆を得ることである。地域共同作業所での参加観察およびインタビューを行い、精神障害者の働く動機を支える想いについて収集したデータを質的に分析したところ、5カテゴリーが抽出された。研究参加者は、皆【今の状態から抜け出したい】という想いから「働くこと」に向き合っていた。また、趣味や楽しみを求める【生活の張り・生活の保持】により楽しく生きられる力を獲得していた。仕事を通して成功感を感じながら【自信や誇りを得る】、【人との繋がりを取り戻したい】、【自分が変わることへの期待】で自分も人の役に立つことを再認識し、周囲の人に支えられていると感じることによって、アイデンティティの揺らぎから生じる不安を抑えていた。それらは働く動機と繋がっていた。このことからアイデンティティの揺らぎを受け止め、自己へ挑戦する気持ちに繋がる経験ができるように支援する必要性が示唆された。
著者
出口 禎子 武井 麻子
出版者
日本保健医療社会学会
雑誌
保健医療社会学論集 (ISSN:13430203)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.50-60, 2005-06-30 (Released:2016-11-16)

最近、日本でも自然災害や犯罪などの社会問題と共に心的外傷体験が注目されるようになって来た。日本では、太平洋戦争時に疎開を経験した人は58万人以上いるといわれているが、彼らの体験の実態やその体験がその後の生活にどのような影響を与えたかはあまり明らかにされていない。そこで私達は、7人の集団疎開の体験者に、当時の生活状況やその後の人生について聞き取り調査を行った。その結果、集団疎開は合法的な監禁状態にあったことや日常的に食物の盗みが行われ、一緒に暮らしている仲間同士で疑うという安全保障感の失われた環境になっていたことがわかった。また飢餓や寂しさは誰にも共通のものであったが、主に低学年の3年生がいじめの対象になっていたこと、直接いじめに加担していなくてもいじめを目撃したことが罪悪感となって心の傷となっている人もいることがわかった。また一方では、新しい価値を見出し、集団疎開の経験を生かして社会活動に参加しているひともおり、生活レベルでその記憶は今も息づいていることが明らかになった。
著者
出口 禎子 武井 麻子
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

日本では太平洋戦争時に58万人が学童疎開を経験した。本研究では、疎開生活の実態と疎開が人生に与えた影響について当事者にインタビューした。その結果、親から切り離された孤立無援感、飢餓、いじめなど共通の外傷体験がある一方、疎開地で友人の死を目撃し今も罪悪感に苦しんでいる人、東京大空襲で家族を亡くした人など、戦争による心的外傷は複合的に重なり、現在の生活に影響を残している事例があることが明らかになった。