著者
前田 和哉
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.35, no.5, pp.394-400, 2020-11-25 (Released:2021-02-25)
参考文献数
19
被引用文献数
1

Pharmacokinetic boosterは、CYP3A、P-gpの良好な基質であるために、経口投与時に血中での十分な暴露の確保が困難であったHIVプロテアーゼ阻害薬等の代謝・排出経路を強力に阻害することによって、血中暴露の劇的な改善に貢献してきた。古くは治療量よりは低投与量のリトナビルが用いられてきたが、その後、リトナビルと異なり薬効をもたず、酵素誘導能も喪失した構造類縁体のコビシスタットが純粋なboosterとして、各種薬物との配合剤として用いられるようになった。リトナビルとコビシスタットは、消化管・肝臓CYP3Aの強力な阻害を呈する一方、リトナビルは、複数の代謝酵素の誘導も引き起こすため、両者の間で処方変更があった場合、併用薬の体内動態に影響するケースがあることに留意する必要がある。
著者
前田 和哉
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.135, no.2, pp.76-79, 2010 (Released:2010-02-14)
参考文献数
43
被引用文献数
1

近年,ヒト肝臓において非常に多くのトランスポーターが同定・機能解析されるにつれて,トランスポーターの遺伝子多型や薬物間相互作用による機能変動が薬物動態に与える影響を明らかにするための臨床研究も続々と報告されてきている.それに伴い,異物解毒システムの中でのトランスポーターの重要性が広く認知されてきた.代謝によって消失すると考えられてきた薬物の中にも肝取り込みトランスポーターの基質が含まれていることが明らかとなり,取り込みトランスポーターの機能変動が薬物動態の変化につながる事例が複数報告されてきている.本稿では,ヒト肝臓に発現する主な薬物トランスポーターを紹介すると共に,これらの遺伝子多型・薬物間相互作用が薬物動態や薬効・副作用に与える影響について概説することを目指した.
著者
森 大輝 前田 和哉 楠原 洋之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.154, no.4, pp.210-216, 2019 (Released:2019-10-10)
参考文献数
18

薬物トランスポーターは医薬品の体内動態を決定する重要な分子である.Organic anion transporting polypeptides 1B1/1B3(OATP1B1/1B3)は,種々アニオン性薬物の肝取り込みを担う.OATP1B1/1B3の機能変動の要因には遺伝子多型や薬物相互作用があり,特に薬物相互作用の場合には重篤な有害事象が生じうる.このため,そのリスクを定量的に評価する方法論が複数検討されてきた.その一例として,内在性基質をプローブとする手法では,プローブ薬の投与なしに,医薬品開発のより早期に相互作用リスクを評価できる.また陽電子断層撮像法(PET)の利用は基質の肝臓中濃度の追跡を可能にし,肝胆系輸送の素過程に対する阻害薬の影響の定量化を可能とした.生理学的薬物速度論モデルは相互作用の程度を定量的に予測できる手法として,新薬の承認申請時を含め今後広く活用されると予想される.
著者
島 洋一郎 大貫 朗子 佐藤 晴哉 田名部 逸也 前田 和哉 杉山 雄一
出版者
日本薬物動態学会
雑誌
日本薬物動態学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.18, pp.75, 2003

(目的)human OATP2(hOATP2/SLC21A6)は、肝臓特異的に発現するトランスポーターであり基質特異性の広範さから医薬品を含む有機アニオンの肝取り込みに重要な役割を果たしていると思われる。サルは、遺伝的にはヒトに比較的近い実験動物であり、薬物動態・毒性学的解析において繁用されている。サルでのhOATP2ホモログ(mkOATP2)を単離、機能解析することは、ヒトにおけるトランスポーターを介した肝取り込みの予測に、サルを用いることの妥当性の評価につながると考え、本研究を行った。(方法)カニクイザルの肝臓よりcDNAを調製し、hOATP2, rat Oatp4遺伝子のアミノ酸レベルで相同性の高い領域からプライマーを設計し、RT-PCR法によりクローニングを行った。単離したmkOATP2を哺乳類発現ベクターに導入して、HEK293細胞で安定発現系を構築し、hOATP2発現系とともに、標識体の取り込みを観察することで輸送能を評価した。(結果・考察)単離されたmkOATP2は、全長2073bpの翻訳領域をもち、hOATP2と遺伝子レベルで96%, アミノ酸レベルで92%と高い相同性を示した。また、発現細胞系への取り込み実験からestradiol-17b-glucuronide(E217bG)並びにestrone-3-sulfate(E-sul)の輸送が明確に見られ、それぞれの親和定数(Km)は、約3mM, 0.2mMと算出されたことから、本遺伝子はhOATP2のホモログであると推定された。また、rifampicin, pravastatin, glycyrrhezin, enalaprilなどの薬剤はhOATP2, mkOATP2を介したE217bGの取り込みをいずれも阻害し、そのIC50 値は、ヒト、サル間で比較的良好な相関が見られたことから、両トランスポーター性質の類似性が示唆される結果を得た。現在さらなる基質認識性に関する検討を行い、両トランスポーターの特徴の類似・相違性を調べる予定である。