著者
岡田 裕子 赤岩 奈々香 前田 恵里
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-B-1, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】 メトホルミンは、海外では妊娠糖尿病に使用可能であり、使用により母体の体重増加や妊娠高血圧症候群、児の新生児低血糖のリスクが低下したことが報告されている。一方、日本では妊婦又は妊娠している可能性のある女性に禁忌であり、現状では大規模データを使用した処方状況の調査は実施されていない。そこで本研究では、レセプトデータを用いて、妊娠中の糖尿病の合併と、メトホルミンを含む糖尿病治療薬の処方状況について調査した。【方法】 株式会社JMDCの保有する妊婦レセプトデータ(2005年1月-2017年6月診療分)107,629名分より、妊娠前に糖尿病(ICD-10コード:E10-E14)、及び妊娠糖尿病(ICD-10コード:O24)と診断を受けていた妊婦及び、妊娠中(出産日から280日遡る)に糖尿病と診断を受けた妊婦を特定し、各病態における診断状況と処方薬について調査した。処方データより糖尿病治療薬(ATCコード:A10)を妊娠中に使用していた妊婦から、処方人数、処方割合について調査した。本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認を受けて行った。【結果・考察】 妊娠前に糖尿病の診断を受けていた妊婦は 1,502人(1.4%)、妊娠中に糖尿病と診断を受けた妊婦は4,763人(4.4%)であった。妊娠前に診断を受けた群、妊娠中に診断を受けた群の両方で、1型糖尿病より2型糖尿病が多かった。全病態において、インスリン単独治療が最も多く、第一選択薬である傾向が確認できた。次に処方が多いのは、メトホルミンであり、糖尿病治療薬を処方されていない妊婦も多数確認できた。我が国における妊娠糖尿病の罹患率は7-9%であり、本研究のレセプト調査における妊娠糖尿病罹患率と比較すると、大きく差はなく、本データが概ね日本全体を反映していると考えられた。インスリン以外の治療薬が処方されていた妊婦も確認できたが、初期には妊娠に気付かず服用していた妊婦も含まれていた可能性が示唆された。また、メトホルミンに関しては、妊娠0-31日以内に治療を中止している妊婦もおり、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害の治療に処方され、妊娠が判明し処方中止した例も含まれているのではないかと考えられた。【結論】インスリン単独治療が最も多く、メトホルミン使用例も確認できた。今回、メトホルミン服用妊婦数が少なかったことから、メトホルミン服用妊婦数の多い母集団を使用し、安全性について検討することが今後の課題であると考えられる。