著者
松沢 厚
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-S05-2, 2021 (Released:2021-12-17)

ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)は、がん増殖に重要な上皮成長因子受容体(EGFR)を選択的に阻害する抗がん剤で、肺がん治療薬として世界に先駆けて日本で2002年7月に承認された。現在、世界約90カ国で、EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発非小細胞肺がんに適応されている。ゲフィチニブのような特定の分子を狙い撃ちする分子標的治療薬は、治療効果と安全性の高さが期待されたが、上市直後から急性肺障害や間質性肺炎などの致死性副作用の報告が相次ぎ、我が国で大きな社会問題となった。しかし、ゲフィチニブによる急性肺障害や間質性肺炎の発症メカニズムはこれまで良く分かっていない。そこで我々は、ゲフィチニブ副作用発症の機序解明を目指して解析を進めた。 ゲフィチニブの副作用は、EGFRとは別の標的を介して惹起されると考えられる。急性肺障害や間質性肺炎はいずれも炎症性疾患であることから、ゲフィチニブが炎症誘導に関わる分子やシグナル経路を標的として炎症を惹起していると考え、その分子メカニズムを解析した。その結果、ゲフィチニブは免疫応答に重要なマクロファージに作用し、炎症性サイトカインIL-1βと核内タンパク質HMGB1という2種類の起炎物質の細胞外分泌を促進して炎症惹起することが判明した。HMGB1にはIL-1β分泌促進作用があることから、ゲフィチニブによるHMGB1分泌は、IL-1β産生量を増強し、強い炎症誘導の引き金になっていると考えられる。そのメカニズムとしてゲフィチニブは、IL-1β分泌を促進して炎症誘導に働く分子複合体であるNLRP3インフラマソームを活性化すること、また、DNA障害などに応答する炎症誘導分子PARP-1の異常な活性化を介してHMGB1分泌を促進することが明らかとなった。従って、ゲフィチニブは「NLRP3インフラマソーム活性化」と「PARP-1の異常活性化」という異なるメカニズムを同時に動かし、相乗的に炎症を惹起することが判明した。さらに、IL-1β分泌を遮断したマウスでは、ゲフィチニブによる肺炎が起こらず、ゲフィチニブの肺障害や間質性肺炎の原因がIL-1βの過剰分泌であることが示された。 本研究では、ゲフィチニブによる間質性肺炎の発症メカニズムの一端を解明した。今後、ゲフィチニブ服用時の致死性副作用の予防・治療法開発や、さらに、その他の抗がん剤による間質性肺炎発症の機序解明にも繋げていきたい。
著者
中谷 英章 入江 潤一郎 稲垣 絵美 藤田 真隆 三石 正憲 山口 慎太郎 岡野 栄之 今井 眞一郎 安井 正人 伊藤 裕
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-P-M-2, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】最近の動物実験においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)の細胞レベルでの減少がインスリン抵抗性やアルツハイマー病に代表される老化関連疾患を引き起こすこと、NAD中間代謝産物であるニコチンアミドヌクレオチド(NMN)を投与することによりNAD量を増加させ、病態を改善することが報告されている。しかし、ヒトにおけるNMN投与の安全性については不明である。そこで我々は健康成人男性にNMNを経口投与し、その安全性を確認する臨床試験を行った。【方法】10名の健康成人男性に対し、100mg、250mg、500mg のNMNを1週間毎に段階的に経口投与し、投与前と投与後5時間までの血液データや尿データ、投与時の身体計測、心電図、胸部レントゲン、眼科検査を行った。【結果・考察】NMNの単回経口投与により血圧、心拍数、体温、血中酸素飽和度は変化しなかった。血液データでは、軽度の血清ビリルビンの上昇、血清クレアチニン、クロライド、血糖値の低下以外は変化を認めなかった。投与前後での眼科検査や睡眠の質スコアは変化を認めなかった。また、血中のNMNの最終代謝産物は濃度依存性に上昇し、体内でNMNの代謝がきちんと行われたことが確認された。【結論】健康成人男性においてNMNの単回経口投与は大きな副反応を認めず安全であった。
著者
宮田 晃志 坂東 寛 合田 光寛 中馬 真幸 新田 侑生 田崎 嘉一 吉岡 俊彦 小川 淳 座間味 義人 濱野 裕章 石澤 有紀 石澤 啓介
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-P-R-2, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】てんかんおよび双極性障害の維持療法に適応を有するラモトリギンは、副作用として重篤な皮膚障害が現れることがあり、死亡に至った例も報告されたことから2015年に安全性速報で注意喚起がなされた。ラモトリギン誘発皮膚障害は、血中濃度の急激な上昇が関与しており、代謝経路に関与するUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)阻害作用を示すバルプロ酸との併用でリスクが高いことが知られている。しかし、UGT阻害作用を示す薬剤はバルプロ酸の他にも睡眠薬、鎮痛薬、免疫抑制薬など多数存在するにも関わらず、それらの薬剤併用によるラモトリギン誘発皮膚障害への影響は不明である。本研究では、医療ビッグデータ解析を用いてUGT阻害作用を示す薬剤がラモトリギン誘発皮膚障害の報告オッズ比に与える影響を検討した。さらに、徳島大学病院の病院診療情報を用いて、併用薬によるラモトリギンの皮膚障害リスクの変化を検討した。【方法】大規模副作用症例報告データベース(FAERS:FDA Adverse Event Reporting System)を用いて、ラモトリギンとの併用により皮膚障害報告数を上昇させる薬剤を探索した。さらに徳島大学病院診療録より、ラモトリギン服用を開始した患者を対象とし、ラモトリギンの投与量、併用薬、皮膚障害の有無などを調査した。【結果】FAERS解析から、UGT阻害作用を示す医薬品のうち、ラモトリギンとの併用により皮膚障害リスクの上昇が示唆される薬剤として、バルプロ酸(ROR: 2.98, 95%CI: 2.63-3.37)、フルニトラゼパム(ROR: 5.93, 95%CI: 4.33-8.14)およびニトラゼパム(ROR: 2.09, 95%CI: 1.24-3.51)が抽出された。徳島大学病院診療情報を用いた後方視的観察研究の結果、ラモトリギン服用が開始された患者の内、20%程度で皮膚障害が認められ、フルニトラゼパム併用患者では皮膚障害発生頻度が上昇する傾向が認められた。【考察】フルニトラゼパムおよびニトラゼパムは、UGT阻害作用を示す薬剤であることから、ラモトリギンの血中濃度に影響し、ラモトリギンの皮膚障害リスクを上昇させている可能性がある。また、睡眠薬であることから精神科領域で併用する可能性があり、睡眠薬の選択や併用時の副作用モニタリングに注意を要すると考えられる。
著者
田中 敏博
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-LBS-5, 2021 (Released:2022-04-14)

【はじめに】ガルカネズマブ(商品名:エムガルティ)は、片頭痛に関連すると考えられているカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に特異的に結合し、CGRPの受容体への結合を阻害するよう設計された新規作用機序のモノクローナル抗体である。片頭痛の予防を適応として2018年9月、米国において承認を取得し、本邦でも2021年4月に発売となった。【症例】15歳男児、中学3年生【既往歴】特記事項なし【家族歴】母、片頭痛【現病歴】以前より天候の影響を受けるなどして頭痛を訴えることがあり、登校できないこともあった。当科を受診し、頭痛対策としてアセトアミノフェンやロキソプロフェン、片頭痛としてバルプロ酸、起立性調節障害としてミドドリン等を順次服用したが、効果を認めなかった。中学3年生になり、春先は登校できていたが梅雨時期に入って状態が悪化。頭痛が続き、登校も運動もできなくなって、精神的な落ち込みが顕著となった。本人および保護者と相談し、ガルカネズマブを投与することとし、7月末に初回の2本を投与した。【経過】投与後数日して頭痛の軽減を自覚した。日々の調子がよくなり、自発的に身体を動かす意欲が出てきて、食欲も増進した。8月末、9月末と1本ずつ投与し、2学期からは登校ができてサッカーの練習にも参加、体育祭にも出場した。【結語】年長児の従来の治療薬に抵抗性の片頭痛に対して、ガルカネズマブの投与は選択肢となり得る。ただし、特に小児における長期的な有効性と安全性の評価に留意していかなくてはならない。
著者
元木 葉子
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-S22-3, 2021 (Released:2021-12-17)

2019年末に始まった新型コロナウイルスによる感染症は、2020年3月にはWHOによりパンデミック状態と宣言された。日本においてもこの間目まぐるしく状況が変化した。ダイヤモンドプリンセス号、国内での感染者発生と感染者数の拡大、病院における大規模クラスターの発生、緊急事態宣言。人類が経験してきたパンデミックのなかでも、これほどリアルタイムに医療情報があふれ、人々が行動変容を求められたことはなかったのではないか。つまり新型コロナウイルス感染症の流行は、全世界の個人に対しHealth Literacyについてリアルタイムに問い、迅速な行動変化を起こすことを要求したのである。 あふれる医療情報はやがて解決手段として、治療薬、医療機器、予防薬の要求へと人々を向かわせた。そこで人々が目の当たりにしたのは、日本では、他の国で次々と行われるような対応-PCR検査の大規模実施、検査キットの販売、人工呼吸器の生産、新薬の緊急承認やワクチンの治験など-が行われないという事態である。なぜ市民が熱望する医薬品や医療機器を、迅速に手に入れられないのか。多くの国民がワイドショーに出演する「専門家」が「国が悪い」「陰謀だ」、と主張する言葉にうなずき、憤ったことだろう。行政への怒りは、今やVaccine hesitancyにつながり、我々の目指す新型コロナウイルス感染症対策を難しくする一要因ともなっている。 なぜ私たちは望む医薬品や医療機器を手に入れられないのかという点に関して、医薬品や医療機器開発に対する市民の理解と、実際に取りうる行政対応にはギャップがある。医薬品や医療機器は、ワクチンも含めすべて企業の作り出す「製品」であることから、行政が法の枠組みで取りうる対応は限られるからである。しかし、行政の目的は国民のニーズを満たすことであるから、行政にも国民のニーズを受け止め行政に反映する改善努力は求められる。そしてニーズを生み出す側の市民も重大で切迫した健康危機を理解し、何を望んでいるのかを発信する必要もあり、そこにはやはりHealth Literacyが必要なのである。医薬品や医療機器開発の最終的な受益者である市民は、誰と何を議論すべきなのか。本講演では、医療現場で勤務する医師として行政に飛び込んで得た知見から、行政と市民双方に求められるHealth Literacyを議論する。
著者
莚田 泰誠
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.2-S25-1, 2021 (Released:2021-12-17)

ファーマコゲノミクスは、薬効や副作用などの薬物応答性に関連する遺伝的要因 (ゲノムバイオマーカー) を見出し、個人個人に合った薬を適切に使い分けることを目指す研究分野である。がん治療においては、医薬品の適応判定を目的としたコンパニオン診断薬として、がん遺伝子検査と次世代シークエンサーを用いたがんゲノムプロファイリング検査が、現在約30薬剤について保険収載されている。これらのコンパニオン診断薬のほとんどは、がん組織を用いる体細胞遺伝子検査であるが、2019年より、従来、遺伝性乳癌卵巣癌症候群の診断に用いられてきたBRCA1/2検査が乳癌・卵巣癌・前立腺癌・膵癌治療薬オラパリブの選定のために行われている。一方、薬物血中濃度や重症副作用を予測する遺伝子検査 (薬理遺伝学検査) では、抗がん薬イリノテカンによる副作用の発現リスクを予測するUGT1A1検査、炎症性腸疾患、リウマチ、白血病、自己免疫性肝炎等の治療におけるチオプリン製剤 (6-メルカプトプリン、アザチオプリン) の至適投与量を予測するNUDT15検査、多発性硬化症治療薬シポニモドの投与可否・投与量を判断するためのCYP2C9検査 (いずれも保険収載)、ゴーシェ病治療薬エリグルスタットの用法・用量調整に用いられるCYP2D6検査 (先進医療) のわずか4種類 (5薬剤) が臨床応用されているに過ぎない。このように、臨床導入が限定的である薬理遺伝学検査の社会実装を推進するためには、臨床的有用性 (clinical utility) を示す信頼性の高いエビデンスを示すとともに、結果返却に関するプロセスを含むゲノム医療の提供体制の構築に関する検討が必要であると考えられる。
著者
福島 若葉
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-S47-1, 2021 (Released:2021-12-17)

新型コロナウイルスワクチンの国内承認を契機に、報道等では毎日のようにワクチンに関する話題が取り上げられている。その結果、例えば数年前までは「ワクチン有効率70%」といえば「100人にワクチンを打てば70人に効く」と誤解されることが多い状況であったが、現在では、「非接種者が病気になる確率を1とすると、接種者ではその確率が0.3になる、すなわちリスクが70%減ることである」など、正しい知識が至るところで解説されるようになった。一方、このような「臨床的有効性」の評価手法や、各手法に潜在する困難性については、まだまだ理解されていないように感じている。ワクチンの開発段階、すなわち承認前に実施される臨床試験(治験)は、原則、無作為化比較試験で行われる。第I相~第II相臨床試験では数十人~数百人を対象として、安全性を重点的に評価するが、有効性のサロゲートマーカーとして免疫原性(抗体応答など)も評価する。発症予防効果などの臨床的有効性を直接評価する第III相臨床試験では、通常、数百人~数千人が対象となるが、想定されるワクチン有効率が高くても、アウトカムの発生割合が低ければ、数万人規模の調査が必要になることがある。承認後の市販後調査では、観察研究の手法によりワクチンの臨床的有効性を評価するが、それぞれに長所・短所がある。例えば、コホート研究は「接種者と非接種者を登録して追跡し、アウトカムの発生状況を比較する」といった非常に分かりやすいデザインであるが、接種・非接種にかかわらず「もれなく等しく」追跡するには多大な労力を要する。大規模保健医療データベースを活用したコホート研究はより少ない労力で実施できるが、接種者と非接種者の特性が著しく異なるなど、特有のバイアスが潜在することに注意が必要である。症例・対照研究の一種であるtest-negative designは、受診行動に起因するバイアスを一定程度制御できる手法であり、ワクチン有効率のモニタリングには向くものの、複数のアウトカムを同時に評価することは難しい。ワクチンの臨床的有効性評価の手法を理解することは、新型コロナウイルスワクチンに限らず、各種ワクチンの研究結果を適切に解釈することにもつながる。特に市販後調査が抱える課題については、実績が豊富であるインフルエンザワクチンの有効性研究で明らかにされてきた事項が多いため、自身の経験も交えながら紹介したい。
著者
長谷川 千尋 吉次 広如 辻 泰弘
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-A-4, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】COVID-19による世界的なパンデミックを引き起こしているSARS-CoV-2ウイルスの感染プロセスについては、呼吸器感染を引き起こす他のウイルスと類似している一方で異なる点もあげられており、例えばSARS-CoV-2ウイルスの体内での潜伏期間、又はウイルスの放出期間はインフルエンザ等の他のウイルスよりも長いことが知られている [1]。本研究では、SARS-CoV-2のウイルス動態をより理解するため、インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を行った。また、ウイルス動態を踏まえた治療開始のタイミングについても併せて検討した。【方法】数理学的モデルとして、公表されているSARS-CoV-2 [1]及びインフルエンザA/H1N1 [2]のTarget cell-limited modelを選択した。本モデルは、感染の対象となる標的ヒト内皮細胞、ウイルス、そして感染後の非感染性細胞及び感染性細胞の四つの相互関係を表現した数理学的モデルである。本モデルによるシミュレーションには、NONMEM 7.4を用いた。【結果・考察】シミュレーションの結果、SARS-CoV-2ウイルス量の経時推移はインフルエンザA/H1N1よりも緩やかであり、これまでの報告 [1]通り、SARS-CoV-2ウイルスの放出期間が長いことが示唆された。また、モデル構造は両ウイルスについて同じであることから、パラメータ値を直接比較した結果、ウイルスの死滅速度を初めとする多くのパラメータの値は両ウイルス間で同程度(5倍未満)である一方、ウイルスの感染速度はSARS-CoV-2で10倍超、感染性細胞からのウイルス複製速度に至っては1000倍超の値であった。これらの速度の違いが、両ウイルスの放出期間の違いに寄与する可能性がある。また、両ウイルスの動態については異なる点がある一方、治療開始のタイミングについては、いずれのウイルスも感染後2日以内が最も効果的であることが一部のシミュレーション結果(薬効メカニズムとして、多くの抗ウイルス剤でみられるウイルス複製の抑制を想定した場合)から示唆された。【結論】インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を実施した結果、SARS-CoV-2のウイルス動態及び効果的な治療開始タイミングについて定量的な考察を行うことが可能であった。【参考文献】[1] Patel K et al. Br J Clin Pharmacol (2020) Epub ahead of print.[2] Baccam P et al. J Virol (2006) 80, 7590-9.
著者
岡田 裕子 赤岩 奈々香 前田 恵里
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-B-1, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】 メトホルミンは、海外では妊娠糖尿病に使用可能であり、使用により母体の体重増加や妊娠高血圧症候群、児の新生児低血糖のリスクが低下したことが報告されている。一方、日本では妊婦又は妊娠している可能性のある女性に禁忌であり、現状では大規模データを使用した処方状況の調査は実施されていない。そこで本研究では、レセプトデータを用いて、妊娠中の糖尿病の合併と、メトホルミンを含む糖尿病治療薬の処方状況について調査した。【方法】 株式会社JMDCの保有する妊婦レセプトデータ(2005年1月-2017年6月診療分)107,629名分より、妊娠前に糖尿病(ICD-10コード:E10-E14)、及び妊娠糖尿病(ICD-10コード:O24)と診断を受けていた妊婦及び、妊娠中(出産日から280日遡る)に糖尿病と診断を受けた妊婦を特定し、各病態における診断状況と処方薬について調査した。処方データより糖尿病治療薬(ATCコード:A10)を妊娠中に使用していた妊婦から、処方人数、処方割合について調査した。本研究は高崎健康福祉大学倫理審査委員会の承認を受けて行った。【結果・考察】 妊娠前に糖尿病の診断を受けていた妊婦は 1,502人(1.4%)、妊娠中に糖尿病と診断を受けた妊婦は4,763人(4.4%)であった。妊娠前に診断を受けた群、妊娠中に診断を受けた群の両方で、1型糖尿病より2型糖尿病が多かった。全病態において、インスリン単独治療が最も多く、第一選択薬である傾向が確認できた。次に処方が多いのは、メトホルミンであり、糖尿病治療薬を処方されていない妊婦も多数確認できた。我が国における妊娠糖尿病の罹患率は7-9%であり、本研究のレセプト調査における妊娠糖尿病罹患率と比較すると、大きく差はなく、本データが概ね日本全体を反映していると考えられた。インスリン以外の治療薬が処方されていた妊婦も確認できたが、初期には妊娠に気付かず服用していた妊婦も含まれていた可能性が示唆された。また、メトホルミンに関しては、妊娠0-31日以内に治療を中止している妊婦もおり、多嚢胞性卵巣症候群による排卵障害の治療に処方され、妊娠が判明し処方中止した例も含まれているのではないかと考えられた。【結論】インスリン単独治療が最も多く、メトホルミン使用例も確認できた。今回、メトホルミン服用妊婦数が少なかったことから、メトホルミン服用妊婦数の多い母集団を使用し、安全性について検討することが今後の課題であると考えられる。
著者
杉山 伊吹 古島 大資 野村 優月 海野 けい子 中村 順行 山田 浩
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.3-P-U-3, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】緑茶の主要な遊離アミノ酸であるL-テアニンが、抗ストレス作用を示すことが動物実験ならびに臨床試験で報告されている。また、テアニンに次いで緑茶に多く含まれるアルギニンとの併用摂取によって、テアニンの抗ストレス作用が増強する可能性が動物実験で示されている。しかし、ヒトに対するテアニン・アルギニン併用時の影響については明らかにされていない。そこで本研究では、ヒトにおけるテアニン及びアルギニン併用摂取のストレスへの影響を、単盲検ランダム化比較試験により検討した。【方法】静岡県立大学の健康成人120名(平均年齢22.4歳、女性62.5%)を対象とし、十分なインフォームドコンセントによる文書同意を得た後、テアニン・アルギニン併用群(テアニン100 mg・アルギニン50 mg摂取)、テアニン単独群(テアニン100 mg摂取)、プラセボ群の3群にランダムに割り付けた。対象者へのストレス負荷として内田クレペリン精神検査法を、ストレス指標として唾液中アミラーゼ活性(salivary amylase activity: sAA)を採用した。sAAをストレス負荷前、直後、5、15、30分後に測定し、sAAの経時変化やストレス負荷前後のsAAの変化量を3群間で比較した。なお本研究は、静岡県立大学研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。【結果・考察】ストレス負荷前から、負荷15分後におけるsAA変化量の平均値(標準偏差)は、テアニン・アルギニン併用群で-2.75(11.2)KIU/L、テアニン単独群で-0.40(11.5)KIU/L、プラセボ群で6.95(18.6)KIU/Lであり、テアニン・アルギニン併用群とプラセボ群間(p=0.0053)およびテアニン単独群とプラセボ群間(p=0.0413)で統計学的有意差が認められた。以上のことから、テアニンとアルギニンの併用摂取は、ヒトにおいても短時間の抗ストレス作用があることが示唆された。テアニン・アルギニン併用群とテアニン単独群間でsAA変化量の統計学的有意差は認められなかったが、テアニン・アルギニン併用摂取時にsAA減少量が大きくなる傾向がみられた。【結論】テアニン単独摂取時と比較して、テアニン・アルギニンの併用摂取により抗ストレス作用が増強する可能性が示唆された。しかし本研究の被検者は20代を中心としているため、結果の一般化には幅広い年齢層を対象とした大規模臨床試験によって検討する必要がある。