- 著者
-
前野 浩太郎
- 出版者
- 独立行政法人農業生物資源研究所
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2008
サバクトビバッタは混み合いに応じて行動や形態、生理的な特徴を連続的に変化させる相変異を示す。相変異形質の一つとして、本種の孤独相(単独飼育)メス成虫は群生相(集団飼育)のものに比べ小さい卵を産むが、成虫期に混み合いを経験すると大きい卵を産み始める。小型卵からは緑色の幼虫が孵化し、一方の大型卵からは黒い幼虫が孵化する。メス成虫がどのように混み合いに反応して卵サイズを決定しているのか調査した。まず、混み合いの感受期を明らかにするために、様々な長さの混み合いを産卵後色んな時期の孤独相メス成虫に処理し、次の産卵時の卵サイズを調査したところ、産卵2-6日前に経験する混み合いが卵サイズの決定に重要で、その感受期の間に経験する混み合う時間が長いほど卵は大型化することが分かった。次に、卵サイズの大型化を誘導する混み合い刺激(視覚、ニオイ、接触)を様々な組み合わせで処理したところ、接触刺激のみが重要であることが分かった。他個体との接触刺激を感受する部位を特定するために、混み合い処理を施す前に予め身体の様々な部位(触角、頭部、前胸、翅、脚)をマニキュアで塗り潰し、反応を調査したところ、触角が感受部位であることが分かった。孵化幼虫の体色が決まる仕組みを明らかにするために行った2種類の体色突然変異体を掛け合わせた実験より、群生相の孵化幼虫の黒い体色は色素沈着の有無を決定する遺伝子と黒化の強さを制御する遺伝子の二つが少なくとも関係していることを突き止めた。また、孵化時の大きさがその後の発育、脱皮回数、生存率に重大な影響を及ぼすことを明らかにした。非常に充実し、実りのある1年になったが、まだ研究は始まったばかりである。今後もサバクトビバッタの相変異の解明に尽力を尽くすと共に、バッタ問題に立ち向かっていきたい。最後に、研究に専念する機会を与えて下さった日本学術振興会にこの場を借りて御礼申し上げる。