著者
田中 誠二 安居 拓恵 辻井 直 西出 雄大
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

サバクトビバッタは混み合いに反応して、行動や形態、体色などを著しく変化する相変異を示す。ふだんは個体数が少なく、単独生活を好む習性があり、孤独相とよばれている。大発生すると群生相化して、体色は黒化し、集団で行進したり群飛して作物を食い荒らす群生相になる。本研究は、群生相化の刺激要因を特定し、相変異のメカニズムの解明を目指すのが目的である。孤独相幼虫の体色は緑などの薄い色だが、混み合いを経験すると黒くなる。この刺激として、視覚が重要な役割を果たしており、ビデオでバッタの集団を見せると、黒化することが分かった。
著者
前野 浩太郎
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

サバクトビバッタは混み合いに応じて行動や形態、生理的な特徴を連続的に変化させる相変異を示す。相変異形質の一つとして、本種の孤独相(単独飼育)メス成虫は群生相(集団飼育)のものに比べ小さい卵を産むが、成虫期に混み合いを経験すると大きい卵を産み始める。小型卵からは緑色の幼虫が孵化し、一方の大型卵からは黒い幼虫が孵化する。メス成虫がどのように混み合いに反応して卵サイズを決定しているのか調査した。まず、混み合いの感受期を明らかにするために、様々な長さの混み合いを産卵後色んな時期の孤独相メス成虫に処理し、次の産卵時の卵サイズを調査したところ、産卵2-6日前に経験する混み合いが卵サイズの決定に重要で、その感受期の間に経験する混み合う時間が長いほど卵は大型化することが分かった。次に、卵サイズの大型化を誘導する混み合い刺激(視覚、ニオイ、接触)を様々な組み合わせで処理したところ、接触刺激のみが重要であることが分かった。他個体との接触刺激を感受する部位を特定するために、混み合い処理を施す前に予め身体の様々な部位(触角、頭部、前胸、翅、脚)をマニキュアで塗り潰し、反応を調査したところ、触角が感受部位であることが分かった。孵化幼虫の体色が決まる仕組みを明らかにするために行った2種類の体色突然変異体を掛け合わせた実験より、群生相の孵化幼虫の黒い体色は色素沈着の有無を決定する遺伝子と黒化の強さを制御する遺伝子の二つが少なくとも関係していることを突き止めた。また、孵化時の大きさがその後の発育、脱皮回数、生存率に重大な影響を及ぼすことを明らかにした。非常に充実し、実りのある1年になったが、まだ研究は始まったばかりである。今後もサバクトビバッタの相変異の解明に尽力を尽くすと共に、バッタ問題に立ち向かっていきたい。最後に、研究に専念する機会を与えて下さった日本学術振興会にこの場を借りて御礼申し上げる。
著者
村路 雅彦
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

細胞小器官であるミトコンドリアのDNA(mtDNA)の塩基配列は、生物の進化や野外での集団動態を調べるための有効な分子マーカーであるが、核内の類似の塩基配列との識別が困難であるため、しばしば研究結果を誤る場合がある。本研究では多様な昆虫よりこの様なニセのmtDNAを単離し、その塩基配列と進化特性等を調べることにより、mtDNAを用いた解析の信頼性を高めるための技術開発を試みた。またそれを多様な昆虫に適用し有効性を調べた。
著者
佐藤 義彦 土師 岳 叢 花 潘 儼 上田 恵理子 間瀬 誠子 山本 俊哉 山口 正己 廬 春生
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
植物遺伝資源探索導入調査報告書 = Annual report on exploration and introduction of plant genetic resources (ISSN:24347485)
巻号頁・発行日
no.23, pp.137-151, 2007-11

A survey for the distribution, utilization and conservation of fruit tree genetic resources was conducted in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District of China in cooperation with scientists of Xinjiang Academy of Agricultural Sciences from September 2 to 10, 2006. The abundance and diversity of the pear and stone fruit were observed in the region visited. Local varieties and seedlings of peach (Prunus percica ) and Xinjiang peach (P. ferganensis ) were observed in the region surveyed. Local variety 'Suan Mei', which is thought to be P. domestica , is cultivated in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District. Local varieties of three Pyrus species, P. × bretschneideri, P. armeniacaefolia and P. communis and their interspecific hybrids are distributed mainly in south-western part of Xinjiang Uygur Autonomous District. Besides these three species, P. betulaefolia is used as rootstock for Pyrus. But the diversity of these local varieties is rapidly declining with the spread of commercial cultivars that were introduced from other provinces. Analyses for genetic diversity of pear and stone fruits based on molecular markers were carried out.
著者
土岐 精一 雑賀 啓明
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

高等植物における相同組換えを利用した遺伝子ターゲッティングの高効率化をめざし、相同組換えを活性化する化学物質を探索した。相同組換え頻度を計測することができるシロイヌナズナのモデル実験系を用いて237種類の化学物質を評価した結果、相同組換え頻度を向上させると考えられる化学物質が15種類選抜された。また、DNAの二重鎖切断(DSBs)処理で顕著な発現誘導を受けることが知られているRad51遺伝子の発現解析の結果、特に効果が高いと思われる3種類の化学物質はDSBsを誘導しない可能性が示唆された。
著者
安藤 杉尋
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

アブラナ科野菜根こぶ病抵抗性育種素材の開発のため、P-NIT2intをプロモーターに用い、根こぶ形成時にAtCKX1,AtCKX2,ARR22を発現させた形質転換体を作成した(シロイヌナズナ、ブロッコリー)。シロイヌナズナのP-NIT2int:AtCKX1,8系統、P-NIT2int:AtCKX2,5系統、P-NIT2int:ARR22,8系統、ブロッコリーのP-NIT2int:AtCKX1,8系統、P-NIT2int:ARR22,7系統に根こぶ病抵抗性試験を行ったところ、全ての系統で根こぶ形成が認められ、抵抗性は認められなかった。同様にCaMV35Sプロモーターを利用したシロイヌナズナ、P35S:AtCKX1,6系統、P35S:AtCKX2,3系統も根こぶ病抵抗性にならなかった。このことから、サイトカイニンの代謝、応答を制御することによる根こぶ病抵抗性の導入は困難と考えられた。また、同様に根こぶ形成時に発現誘導されるBrNIT2及びBrAO1をアンチセンスRNAにより抑制した形質転換ブロッコリーを作成した。P-NIT2int:BrNIT2anti,7系統、P35S:BrNIT2anti,2系統に根こぶ病菌接種を行った結果、NIT遺伝子の発現は非形質転換体に比べて低下したが、根こぶ病抵抗性にはならなかった。また、P-NIT2int:BrAO1anti,2系統についても根こぶ形成が認められた。シロイヌナズナではNIT遺伝子のアンチセンスRNAにより根こぶ形成が遅延することが報告されているが、(Neuhaus et al.,2000)シロイヌナズナでは根こぶでAO活性は上昇しなかった。従って、BrassicaにおいてはNIT,AO両者の関与により、一方のみの発現抑制では効果が低い可能性がある。BrAO1,BrNIT2両方を発現抑制した形質転換体の解析が必要と考えられた。
著者
山川 稔
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

昆虫由来抗微生物タンパク質を改変したペプチドが正常細胞には作用せず一部のがん細胞を破壊する機序を明らかにする目的で研究が行われた。改変ペプチドはがん細胞表面のマイナス電荷をもつホスファチジルセリンとペプチドのプラス電荷との静電的引き合いに起因する細胞膜の膜破壊が起きることが証明された。一方、タカサゴシロアリからがん細胞増殖抑制活性を示す新規化合物1,1'-biphenyl-3,3',4-triolが分離・同定された。この物質は既知の抗がん剤とは異なる作用メカニズムを有することを示唆する結果が得られた。
著者
西川 智太郎 PARK Y-J PARK Young-Jun
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

アマランサスにおけるデンプン合成酵素遺伝子群の解明及びアマランサスの利用の高度化を目的として、以下の研究を実施した。1.アマランサスにおける低アミロース性の合成メカニズム解明:GBSSII遺伝子を確認することはできなかった.現在,デンプン呈色反応で低アミロース性を示す原因として,アミロペクチンの超長鎖の確認を進めている.A. cruentus(PI 433228)のSSSII,SBE遺伝子を同定した.SSSII,SBEは種子発達過程を通じて,貯蔵器官および非貯蔵器官において継続的に発現していた.世界各地に由来する68系統の子実用アマランサスのSSSIを同定し,GBSSIの多様性情報と合わせてそれぞれの種に固有な制限酵素認識配列を検索し,栽培3種の同定が可能なマーカーを作成した.2.低アミロース性品種の作出:M3栽培および調査を行い,これまでに早生性を示す3系統を確認した.今後,残りの系統の形質調査を継続して行うと共に,早生変異系統については早生形質の安定性について確認する.3.加工適性および食味試験評価:性質の異なるアマランサス(モチ性,ウルチ性,低アミロース性)の,生粉およびポップ粉の物性の違いを明らかにした.その結果,モチ性の生粉は小麦粉に非常に類似した特性を示し,小麦粉代替素材として利用できる可能性があること,モチ性ポップ粉は,水を加えてこねると小麦粉のパン生地のような状態になるため,パン加工やクッキーの生地等への応用できる可能性があること等を明らかにした。食味試験評価を,モチ性,低アミロース性およびウルチ性の3系統で,白米との混炊による食味評価試験を行った結果,低アミロース性の評価が高かった.今後嗜好性の高い品種を普及させることにより,消費者の利用拡大に繋がる可能性がある.
著者
田中 剛
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ゲノム配列情報が明らかになった真核生物種間で代謝経路比較を行い、系統ごとに特徴的な代謝経路進化を明らかにすることを本課題の研究目的とする。本年度は、植物の代謝経路情報の抽出及びデータ解析を中心に解析を行った。イネ・シロイヌナズナの代謝データはKEGGやAraCyc(TAIR),RiceCyc(Gramene)などのデータベース(DB)より公開されているが、必須代謝経路に関連する酵素情報が欠落していることが分かった。そこで、遺伝子機能の記載より遺伝子と酵素反応を対応付ける作業を行い(データマイニング)、新規に代謝経路情報を作成した。まず、データマイニングに必要なプログラムを自作し、KEGGより取得した酵素反応情報に基づき作成した酵素反応名とEC番号の対応リストをリファレンスとして、RAP及びTAIRより二公開されている遺伝子機能情報より網羅的に遺伝子とEC番号の対応付けを行った。その結果、イネではKEGG・RiceCycに登録されていない344のEC番号を新たに遺伝子と対応付けることができた。同様に、シロイヌナズナにおいてもKEGG・AraCycにない448件のEC番号を遺伝子と対応付けた。これらの結果を用いて植物2種におけるEC番号の右無を比較したところ、いずれの植物でめみ見つかったEC番号はイネで85、シロイヌチズナで258ど後者が3倍近く多いことがわかった。これらの結果を公開することで研究者が効率よく代謝経路と遺伝子の対応関係を推測することが可能になることが期待される。また、本プログラムを利用して、ヒト・マウスのデータに関してもデータ作成・解析を実行した。一方、これらのデータの中で、イネに関しては現在GrameneのDB担当者とデータ公開に関して協議をしている。互いのデータを精査した後、最終的には同一データを公開するため、先方と同様のDB構築を行っている。
著者
小島 美咲 出川 雅邦
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

雄の血中アンドロゲン濃度(Ad)が顕著に異なる2品種のブタとその交配で得たF1を用いて、肝臓における薬物代謝酵素の構成的遺伝子発現の性差を調べるとともに、性差発現における血中Adの関与を追究した。その結果、構成的発現に性差が見られる肝薬物代謝酵素の遺伝子発現は、Adにより閾値をもって抑制的に制御されていること、また、Adの高発現形質は常染色体性に優性遺伝することを明らかにした。
著者
伊藤 剛
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

昨年度得た多数の近縁ゲノム間での自然選択強度のデータを整理し、特に水平移行の有無に関して着目しながら、機能と自然選択による進化の関係を明らかにした。これまでの研究で、水平移行した遺伝子では自然選択の緩和が生じている可能性(=同義置換数に対して非同義置換数が比較的多い)が示されていた。一方で、遺伝子の機能に関する考察から、量的に偏ってより多く水平移行している遺伝子のうち、細胞表面構造に関係するタンパク質の遺伝子などでは正の自然選択が示唆された。しかし、そのほかの大量移行の例では、例えば遺伝子発現の制御に関与する遺伝子のように、分子レベルでの生命活動に大きな変化をもたらす可能性は考えられるものの、水平移行と正の自然選択の関係は必ずしも明確ではない。そこで、近縁種(株)間のオルソログにおいて、水平移行した遺伝子とそうでない内在性のものとで、フレームシフトによるタンパクコード遺伝子の読み枠の破壊があるかどうかを比較した。すると、例えば大腸菌K-12株とO157の間では、内在性遺伝子では1.0%(34/3291)でフレームシフトによる偽遺伝子化が見られたが、一方で水平移行したものでは6.9%(23/332)と明らかに水平移行での遺伝子破壊が多かった。これは、水平移行したものではむしろ大部分で自然選択が緩和されているという考え方を指示するものである。本研究により、水平遺伝子移行によって大きな生命多様性がもたらされるが、自然選択という意味では重要度の高いものは小数に限られることが明らかになった。本研究に関しては一部を論文化するとともに国内外の学会等でも発表しており、また全ての結果をデータベース化し可視化するプログラムも作成したので、誰でも容易に大量解析の全情報を活用できるようになっている。
著者
大門 高明
出版者
独立行政法人農業生物資源研究所
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本課題では、カイコの眠性決定座位であるmod,rt,Mのポジショナルクローニングを行うことで、カイコの眠性決定の分子機構の解明を試みた。カイコの眠性変異体modについては、その原因遺伝子の同定と機能解析が終了し、modの原因が幼若ホルモンの生合成の異常によるものであることを明らかにした。rtについては、約400kbまで絞り込んだが、有力な候補遺伝子の特定には至らなかった。Mについては、M候補遺伝子の詳細な発現解析を行い、M座がエクジソン生合成に関わる可能性を示唆する結果が得られた。このMの候補遺伝子は、生物のボディプランに関わる重要な遺伝子であるが、形態形成以外にも内分泌系への関与を通して生物の成長や発育タイミングを決定するという、これまで全く知られていなかった新規の役割を担う可能性が示唆された。