- 著者
-
劉 琳
- 出版者
- 北海道大学文学研究科
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- vol.15, pp.109-124, 2016-01-15
『日本書紀』は日本最古の編年体史書,六国史の第一として古くから尊重さ
れてきた。日本の正史にふさわしいものとするために,『日本書紀』全書三十
巻は歌謡部分を除き,当時日本周辺の朝鮮半島諸国や中国で共通して使用さ
れた正式な漢文によって記述された。『日本書紀』に関する解釈・研究には,
長い伝統がある。この書が完成された翌年(721年)から早く当時の宮廷にお
いて「日本書紀講筵」と呼ばれる『日本書紀』の本文を読み解く講義が行わ
れた。そして,『日本書紀』に関する研究の蓄積として,『日本書紀』の諸古
写本に存する訓点・日本書紀私記類・日本書紀の注釈書など,長く伝えられ
ている。このように,『日本書紀』の本文を読み下す長い伝統から生まれてき
たもの,即ち『日本書紀』の諸古写本に存する訓点のことを日本書紀古訓と
言う。日本書紀古訓は『日本書紀』の本文を解釈する重要な典拠である。そ
して,古い日本語の実態を知る上で重要な手懸かりの一つであるため,従来
重要視されてきた。
『日本書紀』の現存する諸伝本の中,巻二二と巻二四を有する伝本は比較的
多い。本稿では日本書紀古訓形容詞の実態,特に各伝本における異同を考察
するために,巻二二と巻二四を有する平安時代,室町時代及び江戸時代の代
表的な『日本書紀』の古写本,版本を用いる。考察内容は,各伝本から収集
した古訓形容詞のデータに基づいて付訓状況・語数・使用語彙などを統計し,
各伝本における同一漢文に当てられた古訓を比較し,その共通面と相違面を
検討することである。考察を通して日本書紀古訓の形容詞は,どのような性
格を有するものか,明らかにしたいと思う。また,日本書紀古訓形容詞の様
相,異なる伝本において古訓形容詞語彙使用の実態及びその相違などを解明
することも本稿の目的である。