著者
松本 忠博 加藤 三保子 池田 尚志
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. WIT, 福祉情報工学 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.108, no.170, pp.61-66, 2008-07-20

SignWritingは,音声言語における文字と同様に,日常の様々な用途で手話を読み書きするためにSuttonが考案した手話の書記法である.SignWritingでは手の形や動き,顔の表情などを表す図像的な記号を使って手話を表現するが,多くの記号の中から適切な記号を選び,単語を構成するのは,とくに初心者にとって時間を要する作業である.我々は計算機での入力・処理に適した手話表記法を提案している.本稿ではこの表記法で書かれた手話文を入力とし,そのSignWriting表現を自動生成することで,SignWritingによる手話記述を支援するシステムについて述べる.手話単語は手の形,位置,動き,顔の表情など複数の要素で構成されており,各要素の変化(語形変化)によって,語彙的・文法的な意味が付加される.それらの変化に対してもできる限り自動的に対応するようにしている.
著者
加藤 三保子 本名 信行
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、アジアにおける手話言語とろう者社会をめぐる諸問題について、ベトナム、シンガポール、タイの事情を調査研究し、アジア各国のろう者が直面している言語的・社会的問題を明らかにして、その解決策を探るとともに、日本における手話言語とろう者社会のあり方を考察することにある。今回訪問した3カ国では、(1)聴覚障害者団体の組織と活動、(2)聴覚障害児(者)教育、(3)手話言語の地位と役割、(4)手話研究の動向、(5)手話通訳者の養成事業の各項目について調査をおこなった。ベトナムでは、聴覚障害者団体の組織力はまだ弱く、手話通訳もごく少数のボランティアに頼っているのが現状である。シンガポールは手話通訳養成事業やろう学校での手話使用がすすんでいるが、英語が国の公用語となっている影響で、ろう教育でも「正しく英語を表現するための手話」が前面に出ている。国土が南北に細長いために手話の地域差が大きく、手話の標準化がなかなか図れないのはベトナムとタイに共通する問題である。しかし、この両国では近年、先進国の援助団体からの出資により、手話語彙集や手話事典の編集、成人ろう者の教育などが大きく前進している。日本は聴覚障害者団体の組織や活動、手話通訳養成事業のあり方などはアジア圏で先進的な立場にあるが、ろう者の高等教育についてはベトナムやタイに大きく遅れをとっている。日本では、ベトナムやタイの事例から多くを学び、早急にろう者の高等教育のあり方を議論しなければならない。本研究の成果は、先行研究(韓国と中国での調査研究)の成果と併せて、『アジアのろう者情報事典』(仮題)を編集するための基盤となった。アジア各国のろう者社会や手話言語についての社会言語学的研究はまだほとんどなされていないので、本研究を今後も継続し、アジア諸国の手話とろう者に関する正確な情報を各国が共有して、アジアにおけるろう者の言語的・社会的自立に寄与したい。