著者
中村 達也 野村 芳子 加藤 真希 北 洋輔 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.445-449, 2016-12-01 (Released:2019-04-01)
参考文献数
14

大脳基底核損傷後には、咽喉頭の知覚低下により、不顕性誤嚥を来すことが多い。咽喉頭の知覚低下改善に、黒胡椒嗅覚刺激が有効であるとする先行研究があるが、これを小児に適応した報告はない。今回、黒胡椒嗅覚刺激により嚥下機能が改善した小児症例を経験した。症例は1歳3カ月時、脊髄梗塞後に生じた心肺停止による蘇生後脳症のため大脳基底核を損傷した。安静時の嚥下反射は認めず、気管内吸引は頻回であったが、味覚刺激時には嚥下反射惹起を認めた。また、嚥下造影検査では咽喉頭に嚥下前の食物の残留を認めるも誤嚥は認めなかったことから、咽喉頭の知覚低下が唾液貯留の主な原因と判断し、2歳3カ月より黒胡椒嗅覚刺激を行った。気管内吸引回数を指標に、A1B1A2B2デザインで検討したところ、黒胡椒嗅覚刺激時には気管内吸引回数が徐々に減少する傾向がみられ、最終的には1日数回程度まで減少した。黒胡椒嗅覚刺激は、本症例の咽喉頭の知覚を改善し、良好な唾液嚥下の契機となった。これは、黒胡椒嗅覚刺激が小児の咽喉頭知覚の改善にも有用である可能性を示唆する。
著者
中村 達也 加藤 真希 雨宮 馨 鮎澤 浩一 小沢 浩
出版者
日本言語聴覚士協会
雑誌
言語聴覚研究 (ISSN:13495828)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.332-341, 2018-12-15

Angelman症候群(以下,AS)の児は,乳幼児期には哺乳障害や摂食嚥下障害を示し,学童期には未熟な咀嚼機能にとどまる場合が多い.しかし,離乳期AS児の摂食嚥下機能の獲得に関する報告は少なく,経過には不明な点が多い.今回,1歳から就学までの間,摂食指導を継続したAS児を経験した.症例の摂食嚥下機能の獲得時期を,粗大運動および認知・言語機能の発達の観点から診療録を後方視的に検討したところ,運動発達において四つ這い獲得後に舌挺出のない嚥下と捕食,伝い歩き獲得後に押しつぶし,独歩獲得後に咀嚼を獲得したが,口唇閉鎖が伴わず食塊形成は不十分であった.本児は定型発達とは異なり,運動発達が進んでから摂食嚥下機能を獲得したが,獲得された粗大運動は,両膝伸展位の座位や,手指屈曲位で手掌が接地しない四つ這いなど,定型発達とは質的な差があった.また,乳幼児期から口腔領域の感覚過敏が強く,就学前も感覚過敏は軽減したものの残存していた.