著者
北原 理作 笠井 文考 遠藤 明 高木 恵一 平野 浩司 相馬 幸作 増子 孝義
出版者
養賢堂
雑誌
畜産の研究 (ISSN:00093874)
巻号頁・発行日
vol.67, no.10, pp.987-991, 2013-10

北原ら(2013)は67巻9号において,海外における忌避材の評価について紹介した。一方,農業被害,林業被害,衝突事故などの被害額が60億円以上に達しているエゾシカにおいては,被害対策としての忌避材の効果が十分検証されていない。ここでは市販の忌避材のうち,海外でも利用されているハイイロオオカミの尿(原液100%)(以下忌避材と記す)について検証した結果を紹介する。調査は,北海道東部に位置する美幌町の公共牧場周辺に多数生息し自由に牧草地を出入りしている野生の個体群と,東京農業大学オホーツクキャンパスで飼育している6頭の個体を対象とした。2012年8月~9月に公共牧場で野外試験を実施した後,11月に飼育舎内で追加試験を行った。対象とした野生個体群は,有害駆除の対象にはなっていないが,狩猟期には捕獲対象となるため非常に警戒心が強い。一方飼育個体は,警戒心が低く人馴れしており対照的である。評価の方法は,海外の事例ではオオカミやコヨーテの尿を,直接餌に散布して効果を調べているものも多いが(北原ら2013),本忌避材が接近を妨げる目的で市販されているため,餌場である牧草地(飼育個体については給餌場)に対する接近や特定の出入り口からの侵入阻止に効果があるか否かに限定して調べた。忌避材を設置した場所を自動センサーカメラ(以下カメラと記す)で24時間昼夜問わず監視し,カメラのみを設置する対照区と,忌避材とカメラを設置する試験区を林縁に設定し,林内から牧草地への侵入および忌避材設置場所付近における牧草採食の有無を記録した。北海道ではおよそ100年前にエゾオオカミは絶滅したが,メーカーによる忌避材の原理は,シカの天敵であるオオカミの尿の臭いに対しては,絶滅した今日でも先天的に忌避反応を示すという説明である。
著者
石川 圭介 北原 理作
出版者
日本草地学会
雑誌
日本草地学会誌 (ISSN:04475933)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.193-199, 2012-10-15

日本の畜産現場におけるニホンジカ(Cervus nippon)による被害には,牧草の食害や家畜への感染症伝播の問題がある。広い草地をシカから守る手段として,イヌ(Canis familiaris)の利用が注目されつつある。本稿では,この古くて新しい技術,イヌを用いたシカによる被害対策を日本で試みている2つの事例を紹介する。1つはイヌを用いた草地防衛の事例で,警察犬の訓練技術を応用して草地からシカを追い払う試みである。もう1つは北海道の事例で,草地に出没するシカを牧羊犬による追い込みで捕獲し,積極的に資源として利用する試みである。