著者
佐藤 健二
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.13-45[含 英語文要旨], 2011-03

本稿は近代日本における「民俗学史」を構築するための基礎作業である。学史の構築は、それ自体が「比較」の実践であり、その学問の現在のありようを相対化して再考し、いわば「総体化」ともいうべき立場を模索する契機となる。先行するいくつかの学史記述の歴史認識を対象に、雑誌を含む「刊行物・著作物」や、研究団体への注目が、理念的・実証的にどのように押さえられてきたかを批判的に検討し、「柳田国男中心主義」からの脱却を掲げる試みにおいてもまた、地方雑誌の果たした固有の役割がじつは軽視され、抽象的な「日本民俗学史」に止められてきた事実を明らかにする。そこから、近代日本のそれぞれの地域における、いわゆる「民俗学」「郷土研究」「郷土教育」の受容や成長のしかたの違いという主題を取り出す。糸魚川の郷土研究の歴史は、相馬御風のような文学者の関与を改めて考察すべき論点として加え、また『青木重孝著作集』(現在一五冊刊行)のような、地方で活躍した民俗学者のテクスト共有の地道で貴重な試みがもつ可能性を浮かびあがらせる。また、澤田四郎作を中心とした「大阪民俗談話会」の活動記録は、「場としての民俗学」の分析が、近代日本の民俗学史の研究において必要であることを暗示する。民俗学に対する複数の興味関心が交錯し、多様な特質をもつ研究主体が交流した「場」の分析はまた、理論史としての学史とは異なる、方法史・実践史としての学史認識の重要性という理論的課題をも開くだろう。最後に、歴史記述の一般的な技術としての「年表」の功罪の自覚から、柳田と同時代の歴史家でもあったマルク・ブロックの「起源の問題」をとりあげて、安易な「比較民俗学」への同調のもつ危うさとともに、探索・博捜・蓄積につとめる「博物学」的なアプローチと相補いあう、変数としてのカテゴリーの構成を追究する「代数学」的なアプローチが、民俗学史の研究において求められているという現状認識を掲げる。This essay represents a preliminary attempt at constructing a "history of folklore studies" in the context of modern Japan. Because of the overwhelming number and range of studies documenting aspects of the Japanese folklore movement, it is necessary to engage in a process of "comparison," as Émile Durkheim advocated. By reconsidering the current state of the field, we can investigate alternative ways of studying the subject from a "relativistic" or "holistic" perspective. This essay takes into account how previous historical studies took into account publications issued in local areas or by local research groups, and attempts to rectify the scholarly neglect of such contributions. Historical studies to date as a rule do not fully take into account concrete evidence provided by local folklore studies, even if they try to avoid so-called "Yanagita Kunio centricity." By shifting our stance, we can take up issues concerning approaches taken up by researchers involving minzokugaku (folklore studies) on a localized level, kyōdo kenkyū (research on local history and culture), or kyōdo kyōiku (methods of teaching local history and culture).For instance, through the investigation of the local history of folklore studies in Itoigawa, I have stressed the importance studying the work of a literary figure such as Sôma Gyofû. I have also taken into account the painstaking efforts involved in the publication of the discoveries of local researchers such as The Collected Works of Aoki Shigetaka (15 volumes published to date). Similarly, the research and compilation of proceedings of the Ōsaka Minzoku Danwa Kai (Osaka Folklore Discussion Society), led by Sawada Shirosaku, suggests that consideration of the "place," where the local folklore studies were born plays an crucial role in the subsequent construction of a history of folklore in modern times. The investigation of the "place," where multiple interests were exchanged and diverse persons interacted with each other can open the way to a revised history of "practice" and "method," which differs greatly from a history according to "paradigm" and "theory." In this essay, I evaluate the advantages and disadvantages of the use of "chronological tables." The "problem of origin," as proposed by Marc Bloch, who was a close contemporary of Yanagita, is also raised. Furthermore, I propose that an "algebraic" approach, which treats the composition of categories as variables or values and analyses the relation of variables. Such a methodology, while contributing the construction of a revised history of modern Japanese folklore studies, also incorporates what might be called "ecological" or "natural historical" approaches, which focus on searching for research material on a widespread basis and acquiring material objects that are required for study.
著者
上野 千鶴子 盛山 和夫 松本 三和夫 吉野 耕作 武川 正吾 佐藤 健二
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

新しい「公共性」の概念をめぐって、公共社会学の理論的な構想を提示し、「自由」や「感情公共性」その応用や展開の可能性を示した。福祉とジェンダーについては定量および定性のふたつの調査を実施し、報告書を刊行した。その調査結果にもとづいて、福祉多元社会における公共性の価値意識を比較検討し、さらた具体的な実践の可能性を求めて、地域福祉、住民参加、協セクターの役割、福祉経営、ケアワークとジェンダー等について、経験データにもとづく分析をおこなった。ジェンダーと階層をめぐって、少子高齢社会と格差問題について、高齢者の格差、若年世代の格差、少子化対策とジェンダー公正の関係等についても、経験データにもとづいて、比較と検証をおこなった。福祉社会については、「自立」と「支援」のその理念をめぐって、その原理的な検討と歴史的な起源についても検討を加えた。文化と多元性の主題では、多文化主義と英語使用の問題、文化資源学における公共性、公共的な文化政策の実態と問題点について、研究を行ったほか、近代における宗教と政治の位置についてもアプローチした。また営利企業における公共性とは何かというテーマにも切り込んだ。環境については地球環境問題における「環境にやさしい」技術の関連を社会学的に分析し、新しい知見をもたらした。詳細は、科研費報告書『ジェンダー・福祉、環境、および多元主義に関する公共性の社会学的総合研究』を参照されたい。チームでとりくんだ4年間の成果にもとづき、現在東京大学出版会から『公共社会学の視座(仮題)』 (全3巻)をシリーズで年内に刊行するよう準備中である。
著者
井上 和哉 佐藤 健二 横光 健吾 嶋 大樹 齋藤 順一 竹林 由武 熊野 宏昭
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
認知行動療法研究 (ISSN:24339075)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-113, 2018-05-31 (Released:2019-04-05)
参考文献数
34
被引用文献数
2

本研究では、スピーチ場面に対するウィリングネスの生起には、価値の意識化のみで十分であるか、それとも、価値の意識化の前に創造的絶望を付加することが必要であるかを検討した。社交不安傾向者の学生22名を創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群、統制群の3群に割り当て、介入効果の比較を行った。価値の意識化のみ群、統制群には創造的絶望を実施せず、回避行動が一時的に有効であることを話し合った。介入から一週間後のスピーチ課題時に、創造的絶望+価値の意識化群、価値の意識化のみ群には価値を意識させ、統制群には価値を感じないものを意識させた。その結果、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面に対する前向き度が統制群より増加した可能性が示された。また、創造的絶望+価値の意識化群のスピーチ場面から回避したい度合いが他群より減少した可能性が示された。
著者
月村 辰雄 安藤 宏 佐藤 健二 木下 直之 高野 彰 姜 雄 野島 陽子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、東京大学総合図書館に保存されている千数百冊におよぶ明治初期の洋書教科書の分類整理を主要な目的とし、あわせてそれらの教科書が用いられていた大学南校・開成学校等における教育の実態、またそれらの教科書を通じてもたらされたヨーロッパ文化の受容形態を、残された洋書教科書そのものに即して明らかにしようとするものである。研究第1年度においては、主として著者名・書名・印記・書き込みの有無などを調査対象として教科書群のデータ採録にあたった。第2年度においては、採録されたデータのデジタル・データ化にあたり、エクセル・データとして著者名のアルファベット順教科書一覧表を作成した。あわせて今後の研究資料体としての活用を見越した分類法について各種の方法を検討した。第3年度は、このデータをもとに明治初期の東京大学の教育史との関連において各種の研究を進めたが、その主な成果は以下の通りである。(1)東京外国語学校の分離にともなって移管された初期東大の洋書教科書群の一部が、明治前期の諸学校の変遷の結果、現在一橋大学を始めとする各所に分散保管されていること。(2)大学南校から開成学校、東京大学へと移行する教育方針は専門教育化と英語専修化の二つであり、それが残存教科書群からも窺えること。すなわち、南校まで仏・独の多方面の教科書がその後は法学科・工学科学生のための語学書に限定されること。また、書き込みのノートを検討しても英語による下調べが一般化すること、など。(3)工学系の教科書群の選定にきわめて強く外国人教師ワグネルの意向が反映していること。(4)さらに、明治4年の貢進生について、新たな視点から精細な調査をおこなったこと。なお、教科書群の分類リストは校正のうえ、別途公刊の予定である。
著者
佐藤 健二
出版者
札幌学院大学社会情報学部
雑誌
社会情報 = Social Information (ISSN:0917673X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.49-77, 2001-12-22

第11回 社会と情報に関するシンポジウム
著者
水越 直子 佐藤 健二
出版者
日本皮膚科学会大阪地方会
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.27, no.6, pp.1166-1171, 1985

大阪大学医学部附属病院皮膚科外来初診患者台帳と外来カルテをもとに, ステロイド皮膚炎とステロイド座瘡について昭和55年から59年まで経時的に調べた。両疾患の合計患者数は順に30, 26, 31, 30, 45人であり, 近年両疾患が減少しているとは言えず, 逆に, 昭和59年ではその前4年間の約1.5倍であった。原因薬剤として, 最近新たに発売された外用剤による発症の比率が増加傾向にあった。これらのことは副腎皮質ステロイドホルモン含有外用剤による副作用を減少させる対策を立てる必要のあることを示唆しており我々は一つの提案を行った。対照として調べた尋常性座瘡の有病年令は50才代に及んでいた。
著者
佐藤 健二 田口 博康 吉川 邦彦
出版者
Meeting of Osaka Dermatological Association
雑誌
皮膚 (ISSN:00181390)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.172-176, 1992 (Released:2010-08-25)
参考文献数
13

色素性乾皮症 (XP) 患者が外出する場合厳密な紫外線遮断が必要である。これまでその目的の為に試作した服は, 紫外線遮断は充分であるが少し暑いと言う欠点があった。最近セラミックス練り込みポリマーを使用したポリエステル繊維 (パコニア®) が発売された。その中の製品番号62011は, 可視域については最大0.26%, 紫外域については最大0.36%の低い透過率を有していた。可視光線に対する62011の反射率は高くまた軽いため, あまり暑さを感じさせない着心地の良い服地であることが30余名のXP患者の試着により分かった。本服地は、色素性乾皮症患者だけでなく他の光線過敏症患者も利用し得る夏用服地であることがわかった。
著者
伊藤 大輔 佐藤 健二 鈴木 伸一
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-12, 2009-01-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

本研究の目的は、トラウマの構造化開示が心身の健康に及ぼす影響を検証することであった。実験参加者(大学生25名)は、構造化開示群、自由開示群、統制群に無作為に振り分けられ、20〜30分間の筆記課題を3日間行った。構造化開示群は認知的再評価を促進させるため、実験者からの詳細な指示に従ってトラウマを筆記するように求められた。自由開示群は自由にトラウマを筆記するように求められた。統制群は中性的な話題について筆記するように求められた。効果指標には、コルチゾール、ワーキングメモリ容量、出来事インパクト尺度、外傷体験後の認知尺度を用いた。その結果、構造化開示群、自由開示群においては、内分泌系の改善効果が維持される可能性が示された。また、構造化開示群が統制群と比較して認知機能が向上したものの、統計的には有意傾向であった。したがって、今後も、実験手続きを改定し、構造化開示の効果について再検証する必要がある。
著者
佐藤 健二 落合 恵美子 赤川 学 中筋 由紀子 葛山 泰央 野上 元
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

最終年度として、これまでの研究会活動を通じて浮かび上がってきた問題を整理すると同時に、資料の共有の方法の模索を通じて、あるいはデータベースの構築に関わる問題点の検討を通じて、明らかになってきた情報と問題について、それぞれの立場から研究を進めた。第一に、歴史社会学の理論と方法の問題の焦点が、広い意味での資料論およびデータ論の構築のしかたにあることがしだいに明らかになってきた。歴史学と社会学の深い断絶は、一方では歴史学における理論や方法論の枠組みに対する認識論の感度の低さに、他方では社会学における資料やデータのとらえ方のなかの現在中心主義的な狭さに由来する。その双方の乗り越えが、歴史社会学の理論と研究方法の課題であると自覚したうえで、もっとも戦略的な研究フィールドとして、「社会調査」が浮かびあがってきた。第二に、いくつかのパイロットスタディから、手がかりとなりうるものも現れてきている。研究代表者を中心に薦めてきた(1)調査票画像データベース構築の実験、(2)歴史的調査研究の二次分析の試み、(3)社会調査史の構成に関わる基礎的情報の洗い出しは、それぞれその第一段階の見通しがついた。本格的に展開するためには、新たな科学研究費プロジェクトが必要となるだろうが、部分的にわかってきたことからも、社会調査の歴史社会学が、歴史社会学の理論と研究方法の構築にもつ大きな意味はうかがえる。第三に、この研究プロジェクトの一つの柱であった研究会活動について、当初の目標として掲げられた歴史社会学のテクストブックは、まだ論点を浮かびあがらせた段階にとどまっているが、それぞれの立場からの理論と研究方法の検討は、固有のテーマやフィールドのなかで展開された。論集という形での成果の公開に向けての検討も進んだ。
著者
横光 健吾 金井 嘉宏 松木 修平 平井 浩人 飯塚 智規 若狭 功未大 赤塚 智明 佐藤 健二 坂野 雄二
出版者
公益社団法人 日本心理学会
雑誌
心理学研究 (ISSN:00215236)
巻号頁・発行日
vol.86, no.4, pp.354-360, 2015 (Released:2015-10-25)
参考文献数
23
被引用文献数
4 5

This study explores the psychological effects that Japanese people experience when consuming their “Shikohin”, such as alcohol, tea, coffee, and tobacco. We conducted a cross-sectional study among 542 people, from 20-to 69-year-old, who regularly consumed any one of “Shikohin” in Tokyo, Kanagawa, Saitama, and Chiba. The participants responded to an anonymous questionnaire concerning the consumption patterns of their “Shikohin” and the psychological effects that they experienced in taking in their “Shikohin”. Results obtained using the K-J methods showed three common psychological effects in each “Shikohin”. These effects included an increase in relaxation response, the promotion of social relationships, and an increase in positive mood. Our findings suggest that Japanese people may get some common effects through consumption of different “Shikohin”.
著者
佐藤 健二
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.516-536, 2003-03-31 (Released:2010-04-23)
参考文献数
18

本報告では, 安田三郎『社会調査ハンドブック』を素材に, 戦後日本の社会学における方法意識の歴史的な変容を論ずる.数量的研究/質的研究の対立の一方の典型としてではなく, むしろ調査テクノロジーの特質に焦点をあて, 読者の理解をも視野にいれた分析が必要であろう.4冊の内容構成の変遷から, 問題の設定の局面で重要な役割を果たす〈書かれたもの〉, すなわち研究論文や統計文書など文献データに対する感度が低下し, 社会調査の社会調査ともいえるような展開をはらんでいた質問分析の意味が, 単純な例示に切り縮められていったという変容が浮かびあがる.しかし, 社会調査が行われる「社会」という場それ自体が, さまざまなデータがすでに書き込まれ刻み込まれている資料空間である.このハンドブックの構想に学ぶべき可能性を3つ挙げておこう.第1には安田自身が感じた「一寸した知識」への驚きを共有するという期待が込められていること, 第2に流れ作業的なマニュアルとしてではなくフィードバックを含む複合的な認識形成のプロセスを構築しようとしたこと, 第3に戸籍の読み方や内容分析など盛り込めなかった調査テクノロジーの領域についての明晰な自覚が少なくとも始めの段階ではあったことである.『社会調査ハンドブック』を共有すべき書物として編むという実践それ自体が, 盛られた情報内容以上に, 社会という資料空間に内属しつつデータを収集し処理し再構成せざるをえない, 「方法」のもつ手ざわりをしっかりと伝えている.
著者
佐藤 健二 池永 満生 佐藤 吉昭 喜多野 征夫 佐野 栄春
出版者
公益社団法人 日本皮膚科学会
雑誌
日本皮膚科学会雑誌 (ISSN:0021499X)
巻号頁・発行日
vol.95, no.9, pp.963, 1985 (Released:2014-08-20)

色素性乾皮症(XP)患者を太陽紫外線から保護する方法を検討した.A群XP患者の皮膚における紫外線紅斑の作用波長は,中波長紫外線のみならず340nmにまで及ぶことが知られている.この波長域の紫外線を効率よく遮断することを目的として種々の素材を調べた.その結果,服の生地では軽くて蒸気をよく通すハイレークエレット(太糸)があり,これを用いた衣服にフードを付け,フードの前にボンセットやUVC-400(農業用紫外線遮断フィルム)を垂らすと外出が可能となる.また,窓ガラスを透過した太陽光線には上記波長域の紫外線が含まれているが,窓ガラスに,スコッチティントP-70,ガラステクト,サーモラックスTF-100,サンマイルドCL-クリアーなどを貼ればこれを除くことができる.室内照明には,紫外線を含まない退色防止用蛍光ランプがある.これらの方法により,XP患者は,日常生活において,日焼けとそれにもとづく種々の皮膚障害を防ぐことができる.
著者
佐藤 健二 伊藤 宣夫 岡 充
出版者
公益社団法人日本薬学会
雑誌
衛生化学 (ISSN:0013273X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.5, pp.281-284, 1967

Braid silk sutures (size, 2-0) pretreated or non-pretreated with silicone (Toshiba Co., TSF 484) were subjected to gamma radiation and effects of irradiation on the tensile strength and the solubility of the sutures were investigated. On the other hand, grafting and water repellent degree of the sutures grafted by silicone with gamma irradiation, were compared with those of the siliconized sutures by heating. The tensile strength of the sutures were decreased with increasing radiation dose, but no difference was observed between the decreasing degree of the strength of the sutures irradiated at sterilization dose (2.5 Mrad) and that of the sutures autocraved. No significant decrease was observed in the water repellent of the grafted sutures for long boiling and for immersion in storage solution (ethanol or carbolic acid). It seems to be promissing to produce silicone grafted sutures sterilized by irradiation.
著者
横川 公子 田口 理恵 角野 幸博 佐藤 浩司 笹原 亮二 森 理恵 井上 雅人 佐藤 健二
出版者
武庫川女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

国立民族学博物館所蔵の大村しげコレクションは、元の所有者が日々の暮らしの中で蓄積した生活財のほぼ全容をもって構成される。今までの調査によって、個々の生活財について詳細な情報が記録され、全体像を表すエクセルファイルと画像データのCDを発行すると同時に、調査の過程で発見された特徴的な傾向や、研究者の問題意識にしたがってモノから見えてきた見解等について、『国立民族学博物館研究報告書SERS68』(2007.3)を発刊した。その主たる内容は以下のように一覧できる。「大村しげの都心居住」「収納家具とその中身の配置について」「おばんざいの道具立て」「おばんざいの流布について」「おばんざいの思想について」「大村しげの衣類・履物について」「文筆家としての大村しげの思想について」等々である。さらにもうひとつの課題である、生活主体が抱いているモノをめぐる生活の価値については、関係者へのインタビューと著作を参照することによって再現し、これについても取りまとめて公刊する(横川公子編『大村しげ京都町家暮らし』河出書房新社、2007.6予定)。以下のような見通しを得ることができた。所有者の生活の経時的変化に対応する生活財のまとまり、および生活財の空間的な所在を再現することによって、所有者と時間的・空間的な生活財の位置との関わりや暮らしの思想を再現できた。さらに拝観チケット・食べ物屋のメニューやチラシなどの遺品から、所有者のお出かけ行動の内容と京都市内外における行動範囲や行動スタイルが判明し、都心居住者としての生活を再現することができた。同様に、主にインタビュー調査とフィールド調査によって晩年に居住したバリ島における行動や行動範囲・行動スタイルを再現した。物書きとしての用品として大量の原稿や校正刷り、原稿用紙、筆記用具、著書など、及び父親の家業であった仕出し屋の道具類や多様な贈答品の蓄積から、京都や祇園という地域の固有の暮らしを再現、等々。モノと著作による暮らしの内側からの発信は、観光都市・京都イメージとは異なる、都会暮らしの現実感覚があぶりだされてくる。
著者
佐藤 健二
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.165, pp.13-45, 2011-03-31

本稿は近代日本における「民俗学史」を構築するための基礎作業である。学史の構築は、それ自体が「比較」の実践であり、その学問の現在のありようを相対化して再考し、いわば「総体化」ともいうべき立場を模索する契機となる。先行するいくつかの学史記述の歴史認識を対象に、雑誌を含む「刊行物・著作物」や、研究団体への注目が、理念的・実証的にどのように押さえられてきたかを批判的に検討し、「柳田国男中心主義」からの脱却を掲げる試みにおいてもまた、地方雑誌の果たした固有の役割がじつは軽視され、抽象的な「日本民俗学史」に止められてきた事実を明らかにする。そこから、近代日本のそれぞれの地域における、いわゆる「民俗学」「郷土研究」「郷土教育」の受容や成長のしかたの違いという主題を取り出す。糸魚川の郷土研究の歴史は、相馬御風のような文学者の関与を改めて考察すべき論点として加え、また『青木重孝著作集』(現在一五冊刊行)のような、地方で活躍した民俗学者のテクスト共有の地道で貴重な試みがもつ可能性を浮かびあがらせる。また、澤田四郎作を中心とした「大阪民俗談話会」の活動記録は、「場としての民俗学」の分析が、近代日本の民俗学史の研究において必要であることを暗示する。民俗学に対する複数の興味関心が交錯し、多様な特質をもつ研究主体が交流した「場」の分析はまた、理論史としての学史とは異なる、方法史・実践史としての学史認識の重要性という理論的課題をも開くだろう。最後に、歴史記述の一般的な技術としての「年表」の功罪の自覚から、柳田と同時代の歴史家でもあったマルク・ブロックの「起源の問題」をとりあげて、安易な「比較民俗学」への同調のもつ危うさとともに、探索・博捜・蓄積につとめる「博物学」的なアプローチと相補いあう、変数としてのカテゴリーの構成を追究する「代数学」的なアプローチが、民俗学史の研究において求められているという現状認識を掲げる。