- 著者
-
北川 慶子
斎場 三十四
- 出版者
- 佐賀大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1999
本研究は平成11年度-12年度の2年間の研究であるが、平成11年度においては、佐賀県下における特別養護老人ホーム(特養)と老人保健施設(老健)の要介護高齢者に対し、施設での生活水準と長期ケアへの適応を捉えるために、身体機能(FIM)、QOL(SF-36),生活満足度調査(LSQ)を実施し、施設生活の再評価を行った。特養では、FIMとSF-36の相関は見られず、身体機能は低いがSF-36の値は高く、それはさらに老健よりも高く、生活面を重視したケアが中心の特養の要介護高齢者が身体機能の回復を重視し、家庭復帰を目指す老健よりも適応度が高いという傾向が見られた。平成12年度における研究の重点は、平成12年4月1日から施行された介護保険法に注目し、介護保険施行後再認定の時期(10月)にversion upした調査を特養、老健で実施し、施設における生活水準とと適応について分析することであった。生活水準のLSQの生活部分は「特別養護老人ホーム・老人保健施設のサービス評価基準」に準拠しているため、介護保険前後の両施設における高齢者の調査結果を比較分析することによって生活水準の評価を行うことができた。平成12年の調査では、FIMによる身体機能は特養と老健の格差が縮まり、SF-36によるQOL評価では老健で高得点化傾向が見られた。施設への適応度は、介護保険以前においては特養が高く老健が低いと評価されたが本調査によって、介護保険施行後はそれぞれの特異な差が一段と縮小していくのではないかと推測することができる。それは、老健が長期ケア型にシフトし、長期ケアについては特養との差異が見られなくなりつつあることが大きな要素である。特養のみならず両施設共に、Helsonの「適応レベル説(adoption level theory)」がより顕著に現れてくるのではないかと考えられる。本調査においても適応レベル説が適用できる初期的段階が窺われ、要介護高齢者の施設における長期ケアへの適応は、SF-36、FIMで測定した身体機能以外の要因が強く働いているといるということが分かった。すなわち、HRQOLを規定する要因としてSF-36、FIMの結果はあまり影響を与えず、期間と生活環境がHRQOLを変化させ、従って適応レベルが健康期、要介護期さらに年齢生活環境によって変化してきているものであることが本研究により明らかにされた。生活水準の主要な規定要因は、意思の表明とその受容の程度であり、それは、施設ケアを受ける期間の長短との密接な関連があることも本研究により得られた成果である。