- 著者
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北村 也寸志
- 出版者
- 環境社会学会
- 雑誌
- 環境社会学研究 (ISSN:24340618)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.166-180, 2002-10-31 (Released:2019-02-05)
日本の森林・林業は重い課題を背負っている。市場に出した木材は原価割れを起こし,管理放棄された人工林も目立ってきた。都市近郊の里山は,農業者などと森林との関係が希薄になり,「里山の自然」の維持を求める市民らによる保全運動が広がりつつある。このような中で,かつお節の生産地である枕崎市と山川町が位置する鹿児島県南薩地区の広葉樹林では,今なお採取林業である薪の生産が続いている。かつお節は,その製造工程のなかの「焙乾」において,燃料として広葉樹林から切り出された薪が使われる。景気に左右されることの少ない,安定したかつお節の生産には,この薪の安定供給が欠かせない。南薩地区の人々はかつお節加工を通して,海洋生物資源のカツオと森林資源である薪を結びつけて持続的に利用してきた。日本の多くの里山が存亡の危機にさらされているなかで,ここではなぜ,その持続が可能であったのだろうか。本稿では,それを明らかにするためにかつお節生産における焙乾の意義を簡潔に整理し,鹿児島県南薩地区における焙乾用薪材の伐採と供給の実態を,薪を切る人々の姿を通して考えてみた。結果として,かつお節製造と里山林利用(薪の伐採)が一体となって営まれている実態を明らかにしえた。また「海」(漁業)と「森」に視点をおくことで,これまで「里」(農業)と「森」との直接のつながりに焦点をおいてきた里山研究では見えにくかった,特産物加工業の介在という利用形態が,燃料革命後も里山の維持に重要な役割を果たしてきたことが明らかになった。