著者
北野 市子
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.393-401, 1999-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
3

4歳時に重~中度の精神発達遅滞を示した子どもに対し, 個別継続的プログラムされた言語訓練を行わず, 長期的な助言指導・経過観察を行った児の8歳時のコミュニケーションについて調査した.重度群24例, 中度群25例であった.結果, 中度例で学童期に発語可能となったものは25例中24例で, このうち「簡単な会話成立」以上の実用的発語が可能なものは15例であった.一方, 重度例では24例中16例に発語がみられた.また, パニックが減少した児の中に発語可能となった者が多かった.発語可能な重度例の半数以上は学童期以降に音声模倣や発語が盛んとなった.このことから重度群については長期的な視野をもって母子の援助に当たることが重要であると考えられた.今回の調査結果は, STの指導効果を示したものではなく, 児の成長力を示したものである.したがって, こうした児に対するSTの直接的な訓練効果を検討する場合には, これらの児のもつ成長力を十分に考慮するべきであると考える.
著者
高戸 毅 朴 修三 北野 市子 加藤 光剛 古森 孝英 須佐美 隆史 宮本 学
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.57-65, 1994-04-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
47

現在,口蓋裂は手術法の進歩,言語管理の徹底により,その多くが鼻咽腔閉鎖機能を獲得し,正常な構音発達を遂げている.初回手術のみで鼻咽腔閉鎖機能を獲得するものは90%前後とする報告が本邦では多い.残りの数%は,初回手術後も十分な鼻咽腔閉鎖機能が獲得できず,その多くは二次手術が必要となる.その際われわれは,鼻咽腔閉鎖機能改善を目的として,咽頭弁手術を行ってきた.鼻咽膣閉鎖機能不全が疑われる症例には,4~5歳に発音時にセファログラムおよび鼻咽腔ファイバースコープ下の鼻咽膣運動の評価を行い,鼻咽腔閉鎖機能不全症を最終的に判定し,咽頭弁手術を施行している.今回われわれは,就学前に咽頭弁手術を施行し,5年以上経過観察を施行した37症例について,術後の合併症および言語成績に関し検討を加えた.その結果,1年後に全例に開鼻声の減少などの改善を認め,日常会話レベルでも鼻咽腔閉鎖機能に問題が無くなったのは,二次手術例で約83%,5年後では約92%と良好な結果を示した.咽頭弁術後も閉鎖機能不全を残した症例で,術式による差は特に認められなかった.むしろ,こうした症例の多くに精神発達遅滞や,心奇形など,他に奇形を伴っていることが特徴的であった.合併症として,鼻閉・口呼吸が術後1年目で7例に,5年目でも4例に認められた.術後,呼吸困難や睡眠時無呼吸症を呈した症例はなかった.また術後5年目までに鼻咽腔閉鎖機能不全を再発した症例はなかった.今回の調査では,重篤な合併症は認められなかったが,扁桃肥大や小顎症などに対しては術前に睡眠時ポリグラフ検査などが必要と考えられる.また術後の顎発育抑制についても,慎重な経過観察が今後とも必要と考えられる.
著者
北野 市子 朴 修三 加藤 光剛
出版者
一般社団法人 日本口蓋裂学会
雑誌
日本口蓋裂学会雑誌 (ISSN:03865185)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-7, 2009-04-30 (Released:2012-03-07)
参考文献数
11

22q11.2欠失症候群児の鼻咽腔閉鎖機能不全に対する初回手術として,咽頭弁形成術を施行した症例の,術後成績を左右する要因について,鼻咽腔閉鎖機能の改善および発話の改善の2点から検討した。対象および方法:粘膜下口蓋裂9例,先天性鼻咽腔閉鎖機能不全症16例であった。このうち鼻咽腔閉鎖機能(以下VPと略す)改善群は19例,VP非改善群は6例であった。また発話改善群は9例,発話非改善群は16例であった。これらそれぞれ2群間の手術年齢,知能,心疾患の有無,合併症の数,定頸,始歩,始語,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音を産生することが可能であったか否か,について検討した。結論:鼻咽腔閉鎖機能の改善群・非改善群には各項目で統計的有意差は見出せなかった。しかし発話の改善については,知能,合併症の数,定頸月齢,術前に鼻孔を閉鎖して破裂音が産生可能であったか否か,などの項目で統計的有意差を認めた。咽頭弁形成術後の予後に,これらの要因が影響している可能性が示唆された。
著者
北野 市子
出版者
日本コミュニケーション障害学会
雑誌
聴能言語学研究 (ISSN:09128204)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.120-124, 1998-12-25 (Released:2009-11-18)
参考文献数
4

「カ行の発音がおかしい」と訴えて来談した成人男性(以下クライエント)との面接事例を報告する.このクライエントには構音障害が認められなかったが,本人は仕事に支障をきたすほどの苦痛を感じており,心理的問題が疑われた.2回めの面接で筆者はクライエントに対して心理的問題の存在を指摘した.その後,クライエントは精神科を受診し,境界性人格障害(borderline personality disorder)の診断を受けた.今後,こうした心理的問題が言語障害の訴えとなって来談するケースが増える可能性がある.こうした事例にどのように対処するのか,ことばの問題がはらむ心理的諸問題に関し,STが臨床心理学的視点をもつ有用性について考察した.