著者
北野 晃祐 浅川 孝司 上出 直人 寄本 恵輔 米田 正樹 菊地 豊 澤田 誠 小森 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0997, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の運動療法として,筋力トレーニングや全身運動が機能低下を緩和することが示されているが,ホームエクササイズの有効性の検証は皆無である。本研究では,ALS患者に対するホームエクササイズの効果を前向き多施設共同研究により検証した。【方法】国内6施設にて,神経内科医によりALSの診断を受け,ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)の総得点が30点以上の軽症ALS患者19例を介入群とした。さらに,ALSFRS-Rの総得点が30点以上で,年齢,性別,初発症状部位,罹病期間,球麻痺症状の有無,非侵襲的陽圧換気療法の有無,ALSFRS-Rの得点,を介入群と統計学的にマッチさせた軽症ALS患者76例を対照群とした。なお,比較対照群は,同じ国内6施設において理学療法を含む通常の診療行為がなされた症例である。介入群には,理学療法士が対象患者に対して通常理学療法に加えて,腕・体幹の筋力トレーニングとストレッチ,足・体幹の筋力トレーニング,日常生活動作運動で構成したホームエクササイズを指導した。追跡期間は6ヶ月間とし,記録用紙を用いて実施頻度を記録した。安全性を確保するため,理学療法士が対象者の状況を1ヶ月ごとに確認した。主要評価項目はALSFRS-Rの得点とし,両群ともにベースラインと6ヶ月後に評価した。さらに介入群には副次評価項目として,Cough peak flow(CPF),ALS Assessment Questionnaire40(ALSAQ40),Multidimensional Fatigue Inventory(MFI)を,ベースラインと6ヶ月後に評価した。両群におけるベースラインと6ヶ月後の主要評価項目および介入群の副次評価項目を統計学的に解析した。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】介入群のうち13名(68%)が介入を完遂した。脱落例は,突然死や転倒に伴う骨折および急激な認知症状悪化によるもので,ホームエクササイズによる有害事象は認められなかった。介入完遂例は全例が週3回以上のホームエクササイズを実施することができた。効果評価として,6ヶ月経過後におけるALSFRS-R総得点には,介入群と対照群に有意差は認められなかった。一方,ALSFRS-Rの下位項目得点では,球機能と四肢機能には両群間で有意差を認めなかったが,呼吸機能では両群間に有意差が認められた(p<0.001)。すなわち,6ヶ月後の介入群の呼吸機能得点は対照群よりも有意に高く,呼吸機能が維持されていた。また,介入群におけるCPF,ALSAQ40,MFIは,介入前後で変化は認められず維持されていた。【結論】障害が軽度なALS患者に対するホームエクササイズの指導は,安全性および実行可能性があり,さらに呼吸機能の維持に有効であることが示された。
著者
北野 晃祐 今村 怜子 山本 匡 菊池 仁志 小林 庸子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.57, 2011

【背景】<BR> 排痰補助装置(カフアシスト:以下MAC)は、排痰補助の他に胸郭の拡張効果などが期待できる。MACの気道への陽圧や急速な陰圧が強い違和感となり、実際の排痰困難時に、導入困難な例をしばしば経験する。<BR>【目的】<BR> 筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者におけるMAC導入困難症例への対応のため、発症早期より胸郭拡張の目的でMACを使用し、その導入の円滑化を図る。<BR>【対象・方法】<BR> 対象は、平成22年4月以降に当院にてMACを導入した喀痰排出能力を保つALS患者9名。MACの初回導入は、排痰ではなく胸郭拡張の目的で使用する旨を説明した。導入時は、フルフェイスマスクを使用してINHALE (IN)のみを10~15cmH<sub>2</sub>Oより開始し、徐々に40cmH<sub>2</sub>Oを上限に圧を上げ、1日に1回(5サイクルを3セット)実施した。INを違和感なく実施可能となった患者に対しては、15~30cmH<sub>2</sub>OよりEXHALEを開始し、40cmH<sub>2</sub>Oを上限として継続的に実施した。継続的な使用が可能となった患者には、担当理学療法士(PT)により「導入時の感想」「現在の感想」に関するアンケート調査を施行。また、導入時と現在のMACへの違和感をPT1名によりVASで定量化した。本研究は当院倫理員会の承認を受けて実施した。<BR>【結果】<BR> ALS患者群のPeak Cough Flowは、264.4±65.0L/min。9名全員が継続的に使用可能となり、MACに慣れるまでに要した回数は多くが1~2回で、1名が5回の機会を必要とした。導入時の感想は、「何ともない」「スッとした」「面白い。自分で買おうかな」「喉のあたりが押し込まれる感じ」「少しきつい」が聴取された。現在の感想は、「INがビックリする」「気持ちが良い」「続けていきたい」「タイミングが取れれば大丈夫」「何ともない」「胸の方まで押し込まれる感じ」が聴取された。VASは導入時5.4±1.8/10から現在4.1±2.6/10と変化した。対象患者1名が導入3ヵ月後に肺炎で死亡、さらに1名が導入1カ月後に突然死となり、調査中止となった。<BR>【考察】<BR> MACを早期より導入した9名全員が継続的に使用可能となった。理由として、発症早期は、呼吸機能が保たれており、MACと呼吸の同調が容易であることが考えられる。しかし、違和感はVASにおいて現在も消失していない。MACは気道への陽圧と急速な陰圧という非生理的刺激を利用することから、違和感を完全に消失させることは困難と思われる。そこで、早期導入には、初回から入念なオリエンテーションと10cmH<sub>2</sub>O程度の圧より開始し、徐々に慣れていくことが重要と考える。今回2名の死亡中止例が見られている。死亡へのMACの因果関係は否定的であるものの、気胸や不整脈のリスクを伴う機器であり、今後在宅や施設での普及の為にも、導入基準決定のための評価シートが必要である。病状の進行により排痰補助を必要とした際に、MACを問題なく使用できることが重要であり、継続した検討が必要である。
著者
増山 慎二 北野 晃祐 野下 純世 小野 順子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Db0574, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 糖尿病網膜症(以下,DR)の発症予防,進展抑制には長期間にわたる厳格な血糖コントロールが有効であり,運動療法が治療上きわめて重要な位置を占めている.しかし,DR患者は運動療法によって眼底出血が起こるリスクを有するため,現状として運動療法の処方に消極的な場合が多い.当院は,糖尿病チームに眼科医が在籍している.当院の理学療法士は,眼科医と連携し,糖尿病教育入院中のDR患者に運動療法を実施している.本研究の目的は,DR患者であっても眼科医と連携しリスク管理を十分に行うことで,眼底出血なく運動療法を実施できることを後方視的調査により明らかにことである.【方法】 対象は2009年1月から2011年9月の間に,医師より運動処方された糖尿病教育入院患者159名中,2型糖尿病でDRの診断を受けた患者44名(64.2±8.4歳)とした.なお,眼底出血以外で視力低下した3名(白内障術後,視神経炎,黄斑浮腫),教育入院終了後の経過が追えなかった5名を除外した.対象のDR病期は福田分類を用いて,単純型15名,増殖停止型17名,増殖前型7名,増殖型5名に分類した.視力と眼底所見,HbA1cは入院時と退院後初回の検査結果をカルテより抽出し比較した.統計学的分析は統計ソフトDr.SPSS II for Windowsにてwilcoxonの符号付き順位検定を用い,いずれも有意水準は5%未満とした.運動項目はカルテに記載された運動療法内容から,有酸素運動,筋力トレーニング,ストレッチのいずれかに分類し,DR病期別に実施した割合を算出した.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は,後方視的な調査である.調査時に継続して当院を受診している対象者に対しては口頭で研究概要を説明し同意を得た.調査は当院倫理委員会の承認を受けて実施した.ヘルシンキ宣言を遵守し,個人が特定されることがないよう注意した.また,研究への同意を撤回する権利を有することを説明した.【結果】 眼底所見が増悪したDR患者はいなかった.視力とHbA1cは入院時に比べ,退院後初回に有意な改善がみられた(p<0.001).運動療法は,ウォーキング,エルゴメーター,トレッドミルを有酸素運動に,レジスタンストレーニング,自重トレーニングを筋力トレーニングに振り分けた.運動を実施した割合は有酸素運動,筋力トレーニング,ストレッチの順に,単純型で75%,75%,100%,増殖停止型で88.2%,52.9%,100%,増殖前型で100%,28.5%,100%,増殖型では100%,0%,100%実施されていた.いずれの病期においてもバルサルバ型運動は行っていなかった.【考察】 当院で眼科医と連携し実施した運動療法は,退院後初回に視力低下および眼底所見の増悪が確認されず,DRを進展させることなく実施できたと考えられる.視力に改善がみられたのは,眼科治療をしていたためであり,運動療法実施が眼科治療の阻害になっていないと推測される.HbA1cの改善は,運動療法単独の効果ではなく,教育入院による包括的な治療によるものと考えた.運動項目は全病期に亘り,有酸素運動とストレッチがほぼ全患者に実施されていた.増殖前型と増殖型において筋力トレーニングの実施割合が低い.この時期は,血圧上昇により眼底出血する可能性があるため,筋力トレーニングの実施割合が低かったことが視力低下を起こさなかった要因と考える.単純型や増殖停止型においても,筋力トレーニングはバルサルバ型運動で行っておらず,低~中等度の持続運動を実施していた.DR患者に対する運動療法は,眼科医と連携しDR病期を把握することで筋力トレー二ングの手段を設定することがリスク管理に重要と考える.【理学療法学研究としての意義】 DR患者に対する運動療法は,眼科医と連携し,病期に応じた適切なプログラムを実施することで,視力低下や眼底所見の増悪なく実施できることが示唆された.