著者
澤田 誠 小野 健治 今井 文博
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ミクログリアが血液脳関門を崩壊させること無く脳に浸潤できることを見いだし、この性質を模倣することができるペプチド分子を単離することに成功した。この分子と薬物、タンパク、遺伝子、人工担体などを結合して脳を標的化した薬物送達を目指した開発を行った。まず培養血液脳関門モデルを構築して対象とする化合物やタンパク質などが脳移行するかどうかをin vitroで判定することができるようになった。次にリコンビナントタンパクを脳移行型に改変するベクターを作成し、アザミグリーンを発現させて脳移行性が付与されたことを証明した。また、化学修飾により酵素や化学物質に標的化ペプチドを結合させ脳移行型に改変するシステムを検討し、高分子量の酵素(HEX)や抗体分子を血液脳関門透過型に改変することに成功した。さらに、この分子を特殊なナノ粒子と結合することによって神経細胞にだけ目的物を導入することも可能となった。脳移行性の個体レベルの評価としてペプチドのポジトロン標識体を合成しPETによる脳移行性を測定した結果、ペプチド単体でも水溶性のペプチドではこれまでに無い高率の移行を示すことができ、さらに脳移行性の無い化合物(NMDAアンタゴニスト)を結合することによって脳移行型に改変することができた。このときの脳移行性は1.34%であった。以上のように化合物やタンパク質、人工単体の脳移行型改変が可能となったので、今後実用化に向けた開発を行っていく。
著者
金森 弘樹 田中 浩 田戸 裕之 藤井 猛 澤田 誠吾 黒崎 敏文 大井 徹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.57-64, 2008 (Released:2008-07-16)
参考文献数
7
被引用文献数
10

西中国地域のツキノワグマUrsus thibetanusの「特定鳥獣保護管理計画」は,第一期(2003~2006年度)と第二期(2007~2011年度)とも,広島県,島根県および山口県の三県で共通の指針の下に策定された.生息頭数調査は,個体の捕獲による標識再捕獲法を用いて2回実施され,1999年当時は約480頭,また2005年当時は約520頭と推定された.有害捕獲は1960年代から始まったが,2000年代に入ると年平均100頭以上へと急増した.とくに,大量出没した2004年には239頭,2006年には205頭にも達した.1996~1999年に比べて2000~2006年は,高齢個体も多数捕獲される傾向にあったが,捕獲個体の性比には変化はなかった.三県の放獣率や除去頭数の差は,地域によって異なったが,これは地域住民や行政の意識の違いに起因すると考えられた.放獣個体の再捕獲率は低かったが,学習放獣による奥地への定着や被害の再発防止効果は十分に検証できなかった.今後は,個体群のモニタリングの継続,錯誤捕獲の減少,地域住民への普及啓発の努力などがいっそう必要である.
著者
中野 孝教 荒矢 大輔 飯田 史哉 石本 達成 伊戸 康清 猪嶋 清文 今村 智子 江川 勇飛 小澤 弘幸 帰山 寿章 片瀬 靖規 酒井 元哉 佐藤 実 澤田 誠司 下島 浩平 野田 博幸 松田 智幸 松本 高志 山田 明弘 山田 佳裕 山下 勝行 岡野 修 岸本 圭祐 勝見 尚也 山中 勝 城間 吉貴 大河内 博
出版者
日本地学教育学会
雑誌
みんなの地学 (ISSN:24356441)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.10-15, 2020-06-30 (Released:2021-12-02)
参考文献数
10

人間社会は岩石や水,生物,大気などの様々な自然資源を開発し利用することで発展してきたが,それに伴い環境は変化し時に汚染や災害など生存にかかわる問題を引き起こしてきた.地学は持続可能な社会を支える必須な学問であるにもかかわらず,高校地学の履修者は少なく,教師も研究者も減少している.人間と自然の関係は複雑だがシームレスにつながっており,共に地域的な多様性に富むという特徴がある.地球環境研究は社会変革につながる学際研究,大学は地域貢献,自治体は地域創生が求められるようになってきた.ここでは健全な水循環の実現に向けて,大学と小学校が連携しながら,地域性が強い水資源を観測・調査している福井県大野市の例を紹介し,生徒の環境リテラシーの向上と地学研究を協働して推進する地学教育の可能性を考えてみたい.
著者
北野 晃祐 浅川 孝司 上出 直人 寄本 恵輔 米田 正樹 菊地 豊 澤田 誠 小森 哲夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0997, 2017 (Released:2017-04-24)

【目的】筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の運動療法として,筋力トレーニングや全身運動が機能低下を緩和することが示されているが,ホームエクササイズの有効性の検証は皆無である。本研究では,ALS患者に対するホームエクササイズの効果を前向き多施設共同研究により検証した。【方法】国内6施設にて,神経内科医によりALSの診断を受け,ALS機能評価尺度(ALSFRS-R)の総得点が30点以上の軽症ALS患者19例を介入群とした。さらに,ALSFRS-Rの総得点が30点以上で,年齢,性別,初発症状部位,罹病期間,球麻痺症状の有無,非侵襲的陽圧換気療法の有無,ALSFRS-Rの得点,を介入群と統計学的にマッチさせた軽症ALS患者76例を対照群とした。なお,比較対照群は,同じ国内6施設において理学療法を含む通常の診療行為がなされた症例である。介入群には,理学療法士が対象患者に対して通常理学療法に加えて,腕・体幹の筋力トレーニングとストレッチ,足・体幹の筋力トレーニング,日常生活動作運動で構成したホームエクササイズを指導した。追跡期間は6ヶ月間とし,記録用紙を用いて実施頻度を記録した。安全性を確保するため,理学療法士が対象者の状況を1ヶ月ごとに確認した。主要評価項目はALSFRS-Rの得点とし,両群ともにベースラインと6ヶ月後に評価した。さらに介入群には副次評価項目として,Cough peak flow(CPF),ALS Assessment Questionnaire40(ALSAQ40),Multidimensional Fatigue Inventory(MFI)を,ベースラインと6ヶ月後に評価した。両群におけるベースラインと6ヶ月後の主要評価項目および介入群の副次評価項目を統計学的に解析した。なお,統計学的有意水準は5%未満とした。【結果】介入群のうち13名(68%)が介入を完遂した。脱落例は,突然死や転倒に伴う骨折および急激な認知症状悪化によるもので,ホームエクササイズによる有害事象は認められなかった。介入完遂例は全例が週3回以上のホームエクササイズを実施することができた。効果評価として,6ヶ月経過後におけるALSFRS-R総得点には,介入群と対照群に有意差は認められなかった。一方,ALSFRS-Rの下位項目得点では,球機能と四肢機能には両群間で有意差を認めなかったが,呼吸機能では両群間に有意差が認められた(p<0.001)。すなわち,6ヶ月後の介入群の呼吸機能得点は対照群よりも有意に高く,呼吸機能が維持されていた。また,介入群におけるCPF,ALSAQ40,MFIは,介入前後で変化は認められず維持されていた。【結論】障害が軽度なALS患者に対するホームエクササイズの指導は,安全性および実行可能性があり,さらに呼吸機能の維持に有効であることが示された。
著者
小寺 祐二 長妻 武宏 澤田 誠吾 藤原 悟 金森 弘樹
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.137-144, 2010 (Released:2011-01-26)
参考文献数
12
被引用文献数
6

イノシシ(Sus scrofa)による農作物被害に対して,島根県は有害鳥獣捕獲と進入防止柵設置を推進し,2001年度以降は被害金額を減少させた.しかし,山間部ではこれらの対策を効果的に実施できず,現在も農業被害が発生している.そのため,こうした地域でも実施できる効果的な被害対策が求められている.上記以外の対策としては,「イノシシを森林内に誘引するための給餌」が欧州で実施されているが,その効果については賛否両論がある.そこで本研究では,森林内での給餌が本種の活動に及ぼす影響を明らかにし,その被害軽減の可能性について検討した. 調査は島根県羽須美村(現在は邑南町)で実施した.2005年3~5月にイノシシ8個体を捕獲し,発信機を装着後に放獣した.その内3個体について,2005年8月22~26日に無給餌条件下で,8月27日~9月2日に給餌条件下で追跡調査を実施した.餌は圧片トウモロコシを使用し,1個体は無給餌条件下の行動圏内,その他の個体は行動圏外に散布した. 無給餌条件下での行動圏面積は81.4~132.4 haを示した.給餌条件下では,行動圏内に給餌された個体Aのみで給餌地点の利用が確認された.この個体については,給餌条件下で測位地点と給餌地点までの距離が短くなり(Mann-Whitney’s U-test,P<0.001),活動中心が耕作地から離れ,行動圏に耕作地が内包されなくなった.また,行動圏面積は無給餌条件下の44.2%に縮小し,給餌地点と休息場所を往復する単純な活動様式を示した.行動圏外に給餌した個体BおよびCでは,行動圏面積の縮小(無給餌条件下の72.0%)と拡大(同142.5%)が確認されたが,活動様式は変化しなかった.本調査により,行動圏内への給餌はイノシシの活動に影響し,被害対策として有効である可能性があるものの,本研究で行った行動圏外への給餌は本種の活動に影響しないことが明らかとなった.
著者
澤田 誠 村松 憲 深澤 雄希 石黒 友康
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3O2176, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】臨床的に糖尿病患者において、四肢の末端を優位に感覚障害を呈する事が知られている。この感覚障害は糖尿病性神経障害に起因するものと考えられている。臨床で用いられる神経の機能評価の一つとして、感覚神経伝導速度(sensory nerve conduction velocity、以下:SCV)が挙げられるが、kimuraらの報告によれば健常成人の正中神経のSCVが61.9±4.2m/secであるのに対し、感覚障害を呈した糖尿病性神経障害患者の正中神経のSCVの平均が53.2m/secと大きく低下している。よって、SCVの低下により表在感覚の低下が引き起こされていると考えられてきた。しかし、本当にSCVの低下によって表在感覚の低下が生じるのかSCVと表在感覚の関係を詳細に解析した研究は殆どない。そこで、私たちは正中神経の経皮的冷却によって引き起こされる一過性の伝導速度の低下を用いて、支配領域である第2指から触覚・2点識別覚を測定し、SCVと表在感覚の関連性について検討した。【方法】対象は、健常成人10例(男性5名・女性5名・年齢21.4±0.8歳、体重59.1±9.5kg、身長168.8±10.3cm)とした。正中神経の冷却については、手関節腹側にコールドパックを置き、神経線維を経皮的に冷却した。SCVの計測は第3指末節腹側に刺激電極、手関節腹側、肘関節腹側に記録電極を設置し、第3指末節腹側の電気刺激をトリガーに記録を200回以上加算平均して計測した。また、触覚(定量知覚計、semmes-Weinstein Monofilaments)・2点識別覚(スピアマン式触覚計)は第2指末節腹側部にて行い、測定間隔は、安静時、冷却開始3分後、6分後、9分後とした。冷却によって皮膚温が7度以下に冷却すると凍傷が生じる可能性が存在するため、皮膚温が7度以下にならないように非接触デジタル温度計を用い、皮膚温が7度以下となった場合には直ちに実験を中止した。【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に従って、研究に対する十分な説明を行い、同意を得られた被験者にのみ行った。また、健康科学大学実験倫理委員会の承認を得ている。【結果】経皮的に正中神経を冷却することによって正中神経のSCVは冷却前69±6.71m/secに対し、冷却9分後では57.8±4.2m/secと統計学的有意差を持って低下した(p<0.01)。しかし、定量知覚計、スピアマン式触覚計を用いた皮膚感覚検査では、冷却前後の測定値に変化は観察されなかった。さらに1g以下の微細な触覚についてsemmes-Weinstein Monofilamentsにて測定を行ったが、同様に感覚閾値の変化は観察されなかった。【考察】正中神経の経皮的な冷却によってSCVの低下が生じたにも関わらず、正中神経支配領域の触覚・2点識別覚の低下は観察されなかった。このような結果は神経伝導速度の低下が不足していたことに起因する可能性が考えられるが、藤村らの報告によると感覚障害を呈する糖尿病患者の正中神経のSCVは平均53.2 m/secであり、本実験で観察された冷却後の神経伝導速度57.8±4.2m/secと近似するものであるため上記の伝導速度低下の不足が原因であるとは考え難い。従って、本研究は臨床的に感覚障害が生じる可能性が高いと考えられている神経伝導速度だけでは糖尿病の感覚障害を説明し得ないことを示唆している。なぜ、臨床所見と本研究結果に乖離が生じてしまったかという点については、実際の糖尿病では神経線維そのものの障害だけでなく、感覚受容器や皮膚自身の変性等も生じることが予測される一方、本研究が冷却を用いて神経線維のみの機能を選択的に障害したことに起因すると考えられる。恐らく、「糖尿病性神経障害に伴う感覚障害」とされている病態は神経線維、感覚受容器、皮膚の変性などの複合的な要因によって生じるものである可能性が高い。少なくとも本研究において50 m/sec程度の神経伝導速度だけでは表在感覚の障害は生じないことが明らかにされたので、今後は神経伝導速度低下以外の何が表在感覚の低下に関与しているのか検討を進める目的で糖尿病患者の感覚受容器の機能や皮膚の性状などを調査していく必要があると考えた。【理学療法学研究としての意義】糖尿病診療ガイドラインに於いて運動療法が推進されており、今まで以上に理学療法士が糖尿病治療に対し、積極的に参加していく事が予想される。今回の研究では、SCVの低下と表在感覚の低下の関連性の低さを明らかにし、受容器の機能低下などの他の要因との関連性の再検討の必要性を示した。今後本研究が発展し感覚障害の原因究明が進むことで、感覚障害の予防に必要な要素を明らかにできると考えている。
著者
藤田 靖之 八重樫 隆 澤田 誠吾 尾山 廣 芳本 忠 鶴 大典
出版者
The Pharmaceutical Society of Japan
雑誌
Biological and Pharmaceutical Bulletin (ISSN:09186158)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.648-652, 1995-05-15 (Released:2008-04-10)
参考文献数
22
被引用文献数
5 5

A hydrolytic enzyme which catalyzes hydrolysis of the ester-linkage of a series of 17-O-acyl derivatives of 7-ethylcamptothecin-21-(2-dimethylamino) ethylamide [acyl derivatives of 22E] was purified from rat liver and its properties were characterized. It hydrolyzed the ester-linkage of all 22E derivatives tested as well as p-nitrophenyl acetate at pH 8-9 but had no effect on 7-ethyl-10-[4-(piperidino)-1-piperidino] carbonyloxycamptothecin (CPT-11 : irinotecan), unlike CPT-11 converting carboxylesterase, which was previously purified from rat serum [Tsuji T. et al., J. Pharmacobio-Dyn., 14, 341 (1991)]. The enzyme had no effect on either acetyl choline or butyrylcholine. It was inhibited by several organophosphorous compounds such as diisopropyl fluorophosphate (DFP), bis-(pnitrophenyl) phosphate and paraoxon, but was insensitive to inhibitors specific for choline esterases. These results indicate that this liver esterase is clearly distinct from choline esterase and serum CPT-11 converting enzyme and is able to convert pro-drugs, O-acyl derivatives of 22E, to an antitumor agent.
著者
神澤 孝夫 伊藤 佐知子 澤田 誠
出版者
(財)脳血管研究所
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

ミクログリアは脳内のマクロファージ様細胞として知られ、悪性脳腫瘍においても腫瘍内部および浸潤域に、集蔟している事が確認されているが、その抗腫瘍作用は不明であった。しかし、活性化ミクログリアは悪性脳腫瘍細胞に抗腫瘍効果を発揮し、悪性脳腫瘍細胞に形態的にアポトーシスでなく、第二のプログラム細胞死:オートファジーを伴う細胞死を誘導することが、悪性脳腫瘍細胞に生じるオートファジーをモニターすることによって、判明した。そして、この細胞死はカスパーゼ阻害役で抑制はされなかった。抗腫瘍効果の機序として、ミクログリアが産生するNOが重要で必須であることが分かったが、NO単独では、悪性脳腫瘍細胞にオートファジーは誘導されるもの、細胞死は誘導されなかった。さらなるミクログリア由来の分子を解析したところ、TNF family分子および炎症性サイトカインが重要な役割を果たすことがわかった。TNF-α、CD40、Fas、IL-β、IL-6は、いずれも、単独で、細胞死を誘導することはなく、NO阻害薬がこの細胞死を完全に抑制するのに対して、TNF family分子および炎症性サイトカインの阻害は部分的な抑制のみであった。これらの結果から、悪性脳腫瘍に対するミクログリアの抗腫瘍効果において、NOは必須であるが、細胞死を誘導するには至らず、さらに、TNF family分子および炎症性サイトカインからのシグナルが、相補的に作用することによって、細胞死を制御していると考えられた。
著者
澤田 誠二
出版者
公明党機関紙委員会
雑誌
公明
巻号頁・発行日
no.49, pp.62-67, 2010-01