著者
卯田 宗平
出版者
環境社会学会
雑誌
環境社会学研究 (ISSN:24340618)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.20-33, 2017-12-20 (Released:2020-11-17)
参考文献数
16

本稿の目的は,⑴中国の鵜飼におけるカワウの繁殖作業から漁での利用にいたる事例を取りあげ,漁師たちの一連の働きかけを記述・分析するための視座を提示することである。そのうえで,⑵新たに着想した視座を日本の鵜飼の事例に展開することで,ウミウに対する鵜匠たちの働きかけの論理を明らかにするものである。鵜飼とは潜水して魚類を捕食するウ類を利用した漁法である。鵜飼に従事する人たちは魚を獲るための手段としてウ類を利用している。一般に,動物を手段として利用する場合,飼い主である人間はその動物になんらかの介入をすることで人間に馴れさせ,生業活動に適した行動特性を獲得させる必要がある。その一方,人間が動物の繁殖や行動に介入し続けることで,その動物におとなしさや従順さ,攻撃性の減退といった家畜動物特有の性質を過度に獲得されても困る。このため,漁師たちは手段としての動物を馴れさせるだけでなく,逆に人間に馴れさせすぎず,野生性をも保持させなければならない。本稿では,これら2つの志向を併せもち,個々の局面に応じてその双方を使い分けながら動物とかかわることをリバランスとよぶ。そのうえで,本稿ではウ類の繁殖作業から飼育,訓練,鵜飼での利用にいたる過程に着目し,漁師たちの一連の働きかけをこの新たな視座から記述・分析をする。この作業により,本稿ではこれまで問われることがなかった鵜飼の現場における動物利用の論理を明らかにする。
著者
卯田 宗平
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1-24, 2008-06-30

本研究は、中国・ポーヤン湖の鵜飼い漁を対象に、生業環境の変化への漁師たちの対応の来歴を明らかにし、彼らの一連の対応のなかの連続性について考察するものである。本研究では、時間軸を新中国成立以前から現在までに設定し、国家政策の実施や干拓等による漁場の減少といったマクロレベルの変動を視野に入れつつ、そこで生きる鵜飼い漁師たちの対応を捉えようとした。本研究の一連の事例からは、漁師たちが漁撈技術と漁の決まりを変化させ、あるいは折衷させながら漁を続けてきたことが示された。具体的には、漁師たちは旧来の技術を補うかたちで最新の技術を導入するというような技術の発展的な変化とは異なり、これまでの技術をそのまま再編することで漁のやり方を帰る、いわば技術の展開ともいえる方法を実践してきたことが示された。また鵜飼い漁は、比較的特殊な漁撈形態ゆえに技術革新によって漁のやり方を変えていくことが難しい。このような技術的性質をもつ鵜飼い漁が生業環境の変化に対応するには、技術以外の部分での対応も重要となる。こうしたなか漁師たちは、漁村間や漁師同士で漁の決まりを定め、それをたえず調整することで漁の秩序を維持してきたことも示された。本研究では、こうした鵜飼い漁師たちの事例が、機械化や装置化、専門化といった生業技術の発展的な変化とそれへの対応を漁師たちの生業戦略の表れとみてきた先行研究の事例と異なることを指摘し、漁師たちにそのような対応を選択させる要因について考察を加えた。