9 0 0 0 OA 閉鎖かつ開放

著者
原島 大輔
出版者
情報メディア学会
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.60-80, 2015-03-05 (Released:2015-03-16)
参考文献数
62

本稿で提示する《閉鎖かつ開放》の概念は,他律性ないし物質的な開放性と,自律性ないし情報的な閉鎖性との,共立である.それは,システムの主観性にとっては事故的-事後的な失敗として経験される拘束としての現実のなかで,そのシステムが自己準拠的/自律的に作動している状態である,と記述できる.この閉鎖かつ開放について,ネオサイバネティクスとりわけ西垣通の HACS モデルを参照しながら説明する.閉鎖と開放の共立が生命システムの条件であるから,閉鎖と開放のいずれか一方のみの徹底はシステムの生命性を失わせるが,現行の情報技術環境にはその傾向がある.本稿は,そのような環境における生命システムにとって,固有の閉鎖かつ開放を受け入れることの重要性を主張する.また,そのために閉鎖と開放を媒介する作法としてのメディア・アートのひとつの解釈を,主に三輪眞弘の「逆シミュレーション音楽」を参照しながら提案する.
著者
原島 大輔
出版者
一般社団法人 社会情報学会
雑誌
社会情報学 (ISSN:21872775)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.31-47, 2019-06-30 (Released:2019-07-10)
参考文献数
30

情動は,生命システムの作動プロセスの活性度にほかならない。これは,観察記述するシステムの視点によって,次の三種類に分類される。すなわち,機械的情動,生命的情動,そしてそれらの両義的な情動(社会的情動)である。機械的情動は,ある種の自動操縦プログラムであり,他律系の行動を誘発する。この自動的行動は,社会システムの道徳的規範とある程度一致したものになる。なぜなら,メディアの機能によって社会システムが制約した拘束としての現実が,可能な行動の選択肢を有限な範囲にあらかじめ限定しており,機械的情動が誘発しうるのはこの範囲内で選択された行動だからである。これは,基礎情報学のHACS(階層的自律コミュニケーション・システム)モデルでいうと,上位システムの視点からみた下位システムの行動として観察記述される。生命的情動は,自律系が固有の意味と価値を自己形成する自己産出の行為である。これは無限の偶然性から有限の可能性を自己限定する。これが,システムに,規範主義的な道徳性ではない,倫理的な責任をもたらすのである。これは下位システムの視点からみた下位システム自身の作動プロセスとして観察記述される。そして,これらの情動の両義性の感情が,社会的生物としてのシステムの自己感覚を実感させる。これはHACSの社会的自律性の活性度を自己観察記述する方法のひとつである。