- 著者
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岡部 晋典
中林 幸子
- 出版者
- 三田図書館・情報学会
- 雑誌
- Library and information science (ISSN:03734447)
- 巻号頁・発行日
- no.68, pp.85-116, 2012
原著論文【目的】近年, 科学のふりをしているが科学ではない「疑似科学」が問題として科学者やサイエンスコミュニケータらからの批判がゆるやかに高まっている。このような状況のなか, 知識を蓄積・伝達する機関である図書館において, 「科学的な合理性に著しく反した図書」はどのように扱われているか, 公共図書館の規模別に実態を明らかにする。【方法】調査手法には半構造化インタビューを用い, 30分~3時間程度の聞き取り調査を行った。調査対象は北海道から関西まで, 大規模図書館5館と小規模図書館3館の選書担当の職員である。調査時期は2009年10月~2010年2月である。質問項目は選書・リクエストの実態, 他館連携, 図書館の自由に関する宣言に対する意識, 司書のライフヒストリー等といった9項目を大枠として尋ねた。【結果】聞き取りによる主な結果は以下のとおりである。(1)選書カタログにおける所与の番号が図書館の蔵書構築には大きな影響を与えており, 科学の分類番号を持つ疑似科学図書は科学の棚に置かれ続けうる(2)自館の予算が豊富であると, 他館から「悩ましい図書」を買ってもらえるという期待を感じている(3)個人的心情では好ましくない図書であっても図書館には置かざるをえないと理解しつつも, そのための実態として「棚争い」や閉架収蔵が行われている(4)大規模図書館では疑似科学図書は棚に存在する「問題」であると感じている司書がいる一方, 小規模図書館では疑似科学図書はリテラシー向上のツールや蔵書の多様性を担保する存在としてみなしている傾向にある等が発見された。