著者
三原 麻実子 原田 萌香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.629-637, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
21

目的 避難所生活での食事状況の改善は喫緊の課題である。避難所における栄養改善のための新たな要因を探索する目的で,弁当等の食事提供方法の有用性について解析した。方法 宮城県による「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査」の結果を2次利用解析した。2011年3月に発生した東日本大震災から約2か月後(216避難所)と約3か月後(49避難所)における弁当の提供有無とエネルギー・栄養素提供量,食品群別提供量等の関係について解析した。また,炊き出し回数との関連性についても解析した。結果 発災約2か月後では弁当の提供有無によってエネルギー・栄養素提供量に有意差がみられたが,発災約3か月後では有意差は認められなかった。発災約2か月後では,弁当の提供が無い避難所に比べ弁当を提供した避難所では,エネルギー,たんぱく質,魚介類,油脂類の提供量が有意に高値を示した。一方,弁当を提供した避難所ではビタミンB1,ビタミンC,いも類,野菜類の提供量が低値を示した。発災約2か月後に炊き出しが有る避難所では,いも類,肉類,野菜類の提供量が有意に高値を示した。結論 発災約2か月後において,避難所での弁当の提供は,エネルギー・たんぱく質や,避難所において不足するといわれている魚介類の提供量も増やす可能性がある一方,ビタミンB1やビタミンCの提供量は低くなる可能性が示唆された。これらの結果から,エネルギーやたんぱく質の提供が求められる発災後の早い段階で弁当を提供することは食事状況改善につながると考えられる。しかしながら,弁当の提供のみでは提供できる栄養素に限界があるため,炊き出し等を柔軟に組み合わせて食事提供をすることが望ましい。
著者
原田 萌香 瀧沢 あす香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.547-555, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
21

目的 避難所の食事を改善する新たな要因を探索する目的で,東日本大震災の避難所における食事提供体制(炊き出し回数,炊き出し献立作成者等)が食事内容を改善するか否かを検討した。方法 宮城県内の避難所386か所を対象とした,「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査(調査主体:宮城県保健福祉部)」の結果を二次利用し,被災から約1か月後の2011年4月時点での食事内容や炊き出し回数,献立作成者等について解析を行った。結果 1日の食事提供回数が0回または1回だった避難所はなかった。食事提供回数が2回の避難所に比べ3回の避難所では主食の提供は有意に多かった(P<0.05)が,主菜・副菜・乳製品・果物について著しい改善はみられなかった。食事回数以外の改善要因について検討したところ,炊き出し回数が多い避難所では,主食・主菜・副菜・果物の提供回数が多かった(P<0.05)。また,栄養士らが献立を作成した避難所では,乳製品および果物の提供回数が多かった(P<0.05)。結論 炊き出し実施は,災害時に不足するといわれている主菜・副菜・果物の提供を多くし,さらに献立作成者が栄養士らの場合,乳製品および果物の提供が多かった。これらの結果から,主食が中心となる災害時の食事は炊き出し実施や栄養士らが食事に関わることで改善される可能性が示唆された。
著者
澤田 めぐみ 冨田 知里 原田 萌香 岸 昌代 田中 寛
出版者
特定非営利活動法人 日本栄養改善学会
雑誌
栄養学雑誌 (ISSN:00215147)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.273-284, 2022-10-01 (Released:2022-11-16)
参考文献数
40

【目的】女子大学生を対象に鉄欠乏の実態を調査し,血清フェリチン値正常群の赤血球関連検査値を明らかにすることを目的とした。【方法】成人女子大学生177人を対象に赤血球関連検査値からフェリチン低値群(フェリチン 12 ng/ml未満)のスクリーニングについて検討した。また食事調査(BDHQ)でフェリチン低値群と減少群(フェリチン 12 ng/ml以上,25 ng/ml未満)を合わせたフェリチン不足群の食生活の特徴を探索した。【結果】鉄欠乏性貧血は3.3%,鉄欠乏で貧血を認めない潜在性鉄欠乏は18.1%と高頻度であった。赤血球関連検査値から鉄欠乏をスクリーニングする場合のカットオフ値は,MCH28.6 pgとすると感度は89.4%,特異度は76.3%と最も良好であった。食事調査において,フェリチン減少群は充足群に比べ鶏肉の摂取量が有意に多かった。フェリチン低値群は充足群に比べハムの摂取量が有意に少なく,洋菓子の摂取量が有意に多かった。またフェリチン不足群を充足群と比較すると,脂ののった魚や納豆の摂取が有意に少なく,コーヒーの摂取が有意に多かった。1,000 kcalあたりの鉄摂取量は中央値で充足群,減少群,低値群の順に 4.83 mg,4.52 mg,4.42 mgであったが有意差はなかった。【結論】女子大学生の21.4%に鉄欠乏を認めた。MCH28.6 pgをカットオフ値とすると,感度,特異度とも高値で鉄欠乏をスクリーニングできた。フェリチン不足群は洋菓子やコーヒーの摂取が有意に多く,食生活のバランスを欠いている可能性が考えられた。
著者
小林 理恵 原田 萌香 笠岡 宜代 友竹 浩之
出版者
東京家政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

災害時における食物アレルギー患者は栄養不足やアレルギー症状の面で致死的状態になる可能性が非常に高い。3年計画の初年度である2018年度は食物アレルギー患者の災害食支援に「パッククッキング法」を活用するために,熱源と飲用水が制限される状況を想定し,炊き出し料理の中でアレルゲン除去食をパッククッキングした際のアレルゲン混入の実際を明らかにすることに取り組んだ。東日本大震災において提供された頻度の高いアレルゲン食品(小麦、乳、卵)を使用し,パッククッキング法の利用が想定できる炊き出しメニューとして「シチュー」を抽出した。炊き出しシチューの中で,ご飯とアレルゲン除去シチューをパッククッキングした。この時,ポリ袋は1枚及び2枚重ねの2条件で比較した。調理品は凍結乾燥後,専用ミルにて粉末試料とした。検査対象アレルゲンはグリアジン,β-ラクトグロブリン,オボアルブミンとし,アレルゲンアイELISA IIのプロトコルに従いスクリーニング試験を行った。この時,8点での検量線の直線性はr=0.9以上を条件とした。アレルゲン除去食における各アレルゲンの検査結果はポリ袋の使用枚数に関わらず10μg / g以下であり,アレルゲン混入は認められなかった。すなわちパッククッキング法を用いることにより,炊き出しシチューの中で上記の各アレルゲンフリーのシチューとご飯を調製することは可能であり,この方法は自助・共助・公助のいずれの場面でも応用可能と考える。しかし,粘度の高い炊き出しシチューの中でパッククッキングを実施すると,炊き出しシチューがポリ袋に付着する。実験過程では注意を払いポリ袋内部からアレルゲン除去食試料を採取したが,災害時には同様の配慮は期待できず,調理後の開封時にポリ袋に付着したアレルゲンが混入するリスクが高い。これを回避するためには,ポリ袋を2重使用することが望ましいと考える。