- 著者
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原野 一誠
- 出版者
- 公益社団法人日本薬学会
- 雑誌
- 藥學雜誌 (ISSN:00316903)
- 巻号頁・発行日
- vol.125, no.6, pp.469-489, 2005-06-01
- 被引用文献数
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7
一昔前までは大型計算機センターの汎用計算機で実行していた科学技術計算がパーソナルコンピュータで実行できる時代を迎えた. 化学領域における分子軌道計算も例外ではなく, 非経験的分子軌道計算(ab initio)を実験室の片隅で実行している有り様である. 計算"器"化学と呼ばれるようになった所以である. 筆者らは, 長年合成反応において, 反応基質の反応性や生成物予測あるいは反応機構解析に分子軌道法を利用してきたが, 半経験的分子軌道計算法におけるパラメータの改善, さらには1998年ノーベル化学賞を授賞した密度汎関数法プログラムパッケージの開発により分子軌道計算が本格的実用化の段階に入ったと実感するに至った. 本稿では, thione-to-thiol転位反応を機軸として, ペリ環状反応を連続的に配置したカスケード反応を例に, 計算機化学の有用性を紹介したい. 2. チオン炭酸エステル類の熱反応 有機合成における著名な反応を集めた人名反応集にChugaev反応と呼ばれる反応がある. 本来オレフィン合成反応であるが, 最近ではほとんど利用されることはない.