著者
友杉 直久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.105, no.12, pp.2450-2457, 2016-12-10 (Released:2017-12-10)
参考文献数
12
被引用文献数
2

ヘプシジンは,鉄代謝制御の中心的役割を担っているペプチドホルモンである.ヘプシジンは,血清鉄量,肝細胞内の鉄量,腸上皮での吸収鉄量などの変動で刺激され,血清鉄濃度の恒常性を保つように,また,体が鉄過剰に陥らないように作用している.腎性貧血では,エリスロポエチン(erythropoietin:EPO)産生能の低下に伴う造血機能の低下が発端となるヘプシジンの上昇や,赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis-stimulating agent:ESA)や鉄製剤による治療時のヘプシジン発現異常は,いずれも血清鉄濃度の恒常性を保つためのフィードバック反応である.ESA投与量に左右されるFas/FasLを介した生存のシグナルや,EPO受容体に対するESAの持続的作用不足が誘因となるネオサイトライシス(赤血球崩壊)の病態は,ヘプシジンの反応で捉えることができる.腸管での鉄吸収量は,ヘプシジン濃度で決定される.このような病態は,血清ヘプシジン-25が測定できるようになり,容易に推測できるようになった.
著者
友杉 直久
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.99, no.6, pp.1180-1187, 2010 (Released:2013-04-10)
参考文献数
10
被引用文献数
6 1

鉄代謝の特徴は,積極的な鉄排泄系を持たずに閉鎖系で鉄を再利用し,血清鉄濃度を一定に保つことである.これはヘプシジン・フェロポルチン系でのフィードバック機構で管理されている.細胞内の鉄は,鉄輸送膜蛋白であるフェロポルチンを介して血清に供給されており,その機能は肝で産生されるヘプシジンにより制御されている.近年,鉄代謝の主要液性制御因子であるヘプシジンの定量測定が可能になり,ヒト疾患での貧血の解析手段がひとつ加わった.
著者
石川勲 近澤 芳寛 佐藤 一賢 奥山 宏 今村 秀嗣 羽山 智之 山谷 秀喜 浅香 充宏 友杉 直久 由利 健久 鈴木 孝治 田中 達朗
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医大誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.522-530, 2005
被引用文献数
1

金沢医科大学腎移植チームでは,1975年3月より2005年6月30日までの約30年間に,260例の腎移植を行ってきたが,この間における移植成績の向上には隔世の感がある。これには長年にわたる経験の積み重ねに加え,免疫抑制療法や急性拒絶反応に対する治療法の飛躍的な進歩が深く関わっていると思われる。そこで我々が行ってきた腎移植の成績はどのように変化してきたか,また移植腎が生着し,現在も外来に通院中の患者について現状はどうかまとめてみた。腎移植260例の内訳は,生体腎移植212例,死体腎移植48例で,生体腎移植は透析導入直後の例で多く,死体腎移植は長期透析例で多かった。また提供者をみると生体腎移植では親が多く,死体腎移植では若い人から高齢者まで様々であった。30年にわたる移植時期を10年ごとに区切って,その間の移植成績をみると,すなわち,免疫抑制薬としてステロイドとアザチオプリンを使用した最初の10年,それに続き,ステロイド,アザチオプリン,シクロスポリンを使用した次の10年,さらに,ステロイド,ミコフェノール酸モフェチル,シクロスポリンまたはタクロリムスを使用したここ10年に分けて,5年腎生着率を比べてみると,それぞれ68.3%(n=89),73.0%(n=86),93.7%(n=37)と大きく向上してきている。1975年に行われた最初の4例は現在も生着し,腎機能も良好である。またこの間12例の患者が18児を出産した。外来通院中の134例について高血圧の頻度は86.6%で,うちコントロール良好例は86.2%,糖尿病の頻度は18.7%で,うちコントロール良好例は80.0%であった。以上より金沢医科大学における腎移植の成績は良く,生活習慣病関連事項もコントロール良好と言える。近年では,移植数の減少が最大の問題点となってきている。死体腎移植に対するさらなる理解と啓発・提供者の増加,生体腎移植における適応の拡大(ABO不適合移植,夫婦間移植)がなによりも求められるところである。
著者
樋上 義伸 友杉 直久 西邨 啓吾 加登 康洋 小林 健一 福田 繁 岡田 保典
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.734-738, 1981
被引用文献数
2

われわれは劇症肝炎様転帰をとった悪性リンパ腫の1剖検例を経験したので報告する.症例は60歳男性で昭和54年4月20日より全身倦怠と黄疸が出現したため4月24日に当科に入院した.入院時黄疸が著明で肝は剣状突起下7横指触知されたが,表在リンパ節腫脹は認められなかった.検査成績では直接ビリルビンの増加と胆道系酵素の上昇が著明で閉塞性黄疸のパターンを示していたが,腹部超音波検査では肝内・肝外胆管の拡張は認められなかった.入院後発熱,出血傾向,腹水,無尿,意識障害が出現し,4月28日死亡した.剖検では全身リンパ節,肝,脾,副腎,皮膚,顎下腺に腫瘍細胞の浸潤があり悪性リンパ腫と診断された.肝臓は広範性肝細胞壊死の状態で,腫瘍細胞は門脈域でび漫性浸潤を示し,腫瘍結節形成も認められた.広範性肝細胞壊死の機序としては,死亡直前にエンドトキシンショックの臨床像を呈していたことより臓器Shwartzman反応の関与が考えられた.