著者
西条 旨子 俵 健二 本多 隆文 中川 秀昭
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.475-478, 2005-12

近年,一般環境中カドミウム(Cd)の低濃度長期暴露が早産や胎児発達に影響を及ぼす可能性を示唆する研究や,母乳を介した出生児へのCd暴露負荷の可能性も報告され,中高年だけでなく,妊産婦や乳児のCd暴露を減らす公衆衛生学的な対策が必要と考えられている。本総説においては,まず,妊娠・出産への影響を,次に,胎児への経胎盤移行による発育への影響を,最後に,潜在的な健康影響をもたらす母乳の汚染について,これまでの研究報告に我々の得た知見を加えて概説し,Cdの生殖毒性・次世代影響研究の今後の課題を明らかにした。
著者
山田 裕一
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.448-455, 2005-12
被引用文献数
1

日本人には,よく知られた低Kmアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)遺伝子の他にも,アルコール脱水素酵素(ADH)のβ-サブユニット蛋白(ADH_2),エタノールを非特異的に酸化するチトクロームP450-2E1(CYP2E1)など,アルコール代謝酵素の遺伝子に多形性が存在する。これらの遺伝子多形が日本人の飲酒行動や飲酒に起因する健康障害へどのように関連するかについて,我々の研究で得られた知見を中心に総括する。不活性型ALDH2(ALDH2*1/2またはALDH2*2/2)の人の飲酒量は小さい。一方,代謝速度が大きいとされるCYP2E1遺伝子のc2アレルの保有者は,ALDH2活性が正常ならばc1アレル保有者よりも飲酒量が大きい。日本人に頻度の高いc2アレルが日本のアルコール消費量の増加に寄与している可能性がある。日本人の問題飲酒者ではADH_2の定型アレル(ADH_2*1)の保有頻度が高い。非定型アレル(ADH_2*2)から生成される代謝活性の高いADHが血中からのエタノールの除去を速めることで,問題飲酒者の発生に抑制的に働いている可能性がある。日本ではアルコール消費量に比してアルコール依存症が少ないと言われるが,このような日本人のアルコール代謝酵素の遺伝的特徴が反映されているのかもしれない。現在,ほぼ確実に不活性型ALDH2が疾患発生リスクを高めると考えられるのは食道がんおよび咽・喉頭がんである。西暦2002年の日本での食道がんの年齢調整死亡率は男性で10万人対10.2,女性ではさらに稀で1.3である。1960年以降,日本のアルコール消費量は増加し続けてきたが,この間,男性での食道がん死亡率はほぼ横ばい,女性では逆に減少し続けている。飲酒と不活性ALDH2が日本人の食道がん発生にある程度は関与しているとしても,その主要な原因とは考えにくい。それゆえ,食道がんリスクの判定のためにALDH2の遺伝子型診断を行うことの予防医学的利益は大きくない。その他のアルコール代謝酵素の遺伝子が特定の疾患発生に関与するという確かな証拠はまだない。
著者
安田廣生
出版者
金沢医科大学
雑誌
金医大誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.233-241, 2006
被引用文献数
3

目的:近年,浅い陥凹性瘢痕や顔面の皺などに対し注入療法がとられている。注入療法における臨床的な知見はこれまで多く報告されているが,注入による組織反応やその分解・吸収過程についての報告は少ない。本研究では注入剤(以下Fillerと称す)として使用されているコラーゲン製剤とヒアルロン酸製剤注入後の組織反応を比較検討した。対象と方法:非動物性安定化ヒアルロン酸のRestylane^[○!R]およびRestylane Perlane^[○!R]と牛真皮由来架橋コラーゲンのZyplast^[○!R]の3種類各々を,日本産白色家兎の耳介耳孔面皮下に注入し,その組織反応を経時的に観察した。結果:ヒアルロン酸群において注入早期に好酸球を主とする急性炎症細胞浸潤が観察されたが,この炎症は注入14日目以降には消失し,ヒアルロン酸は安定した状態を示した。60日目以降より異物巨細胞によるヒアルロン酸の貪食吸収像がみられ,注入180日目後では大部分が吸収された。一方コラーゲン群においては,早期より細胞浸潤が認められ,その後も継続して線維芽細胞の遊走・増殖,血管新生がみられた。同150日目には強い炎症細胞浸潤を伴う肉芽形成が認められ,ヒアルロン酸製剤に比し終始強い組織反応を示した。結論:理想的なFillerは安全性,効果的,生体適合性,非免疫原性,長期安定性,低コスト,吸収性を満たすとするならば,本研究によってヒアルロン酸製剤は,コラーゲン製剤に比し組織反応が軽微な点でより理想的製剤に近いと考えられた。
著者
石川勲 近澤 芳寛 佐藤 一賢 奥山 宏 今村 秀嗣 羽山 智之 山谷 秀喜 浅香 充宏 友杉 直久 由利 健久 鈴木 孝治 田中 達朗
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医大誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.522-530, 2005
被引用文献数
1

金沢医科大学腎移植チームでは,1975年3月より2005年6月30日までの約30年間に,260例の腎移植を行ってきたが,この間における移植成績の向上には隔世の感がある。これには長年にわたる経験の積み重ねに加え,免疫抑制療法や急性拒絶反応に対する治療法の飛躍的な進歩が深く関わっていると思われる。そこで我々が行ってきた腎移植の成績はどのように変化してきたか,また移植腎が生着し,現在も外来に通院中の患者について現状はどうかまとめてみた。腎移植260例の内訳は,生体腎移植212例,死体腎移植48例で,生体腎移植は透析導入直後の例で多く,死体腎移植は長期透析例で多かった。また提供者をみると生体腎移植では親が多く,死体腎移植では若い人から高齢者まで様々であった。30年にわたる移植時期を10年ごとに区切って,その間の移植成績をみると,すなわち,免疫抑制薬としてステロイドとアザチオプリンを使用した最初の10年,それに続き,ステロイド,アザチオプリン,シクロスポリンを使用した次の10年,さらに,ステロイド,ミコフェノール酸モフェチル,シクロスポリンまたはタクロリムスを使用したここ10年に分けて,5年腎生着率を比べてみると,それぞれ68.3%(n=89),73.0%(n=86),93.7%(n=37)と大きく向上してきている。1975年に行われた最初の4例は現在も生着し,腎機能も良好である。またこの間12例の患者が18児を出産した。外来通院中の134例について高血圧の頻度は86.6%で,うちコントロール良好例は86.2%,糖尿病の頻度は18.7%で,うちコントロール良好例は80.0%であった。以上より金沢医科大学における腎移植の成績は良く,生活習慣病関連事項もコントロール良好と言える。近年では,移植数の減少が最大の問題点となってきている。死体腎移植に対するさらなる理解と啓発・提供者の増加,生体腎移植における適応の拡大(ABO不適合移植,夫婦間移植)がなによりも求められるところである。
著者
松田 芳郎 大石 勝昭
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.479-486, 2005-12

本稿の目的は,病院マネジメントシステムの角度から「意思決定と問題解決のプロセス」を論考し,一般の病院に共通すると考えられるシステム論を構造的に解明することである。「意思決定と問題解決のプロセスは同じ構造の思考過程が相互関連して立体的に連鎖する」,「その作用に実践的な目標を与えるものが病院マネジメントシステムである」と筆者らは想定して本稿を組み立てた。しかし,本稿はデスクワークだけの産物ではなく,筆者らが金沢医科大学病院の電子カルテシステム(フルオーダリング,医事会計,健康管理情報などの各部門連携機能を含む)開発プロジェクトなどの経験(1995〜1998年)を通じて得たフィールドワークの産物でもある。本稿は,論考の筋道を明らかにするためシンプルな記述を心がけた。シンプルな記述とは,思考範囲を特定の対象に絞って推論し,確信に至らなかった仮定を捨てて残ったエッセンスを記すことである。勢いその論考は抽象的にならざるを得ないが,といってそれは実際の病院マネジメントシステムの原則を逸脱したものではない。マネジメントシステムの在り方は病院により千差万別であるが,各々のバラツキを払ってなお残る共通プロセスを浮き彫りにすることが,筆者らの意図したことである。実務の具体性と論考の抽象性は表裏の関係にある。ゆえに「意思決定と問題解決のプロセス」は,病院が大きな問題を解決するときの道標に成り得ると確信する。
著者
安田 幸雄 黒田 尚宏 堀 有行 相野田 紀子 大原 義朗 鈴木 孝治
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.408-412, 2005-12
被引用文献数
1

医学教育評価には客観試験が多用されている。中でも多肢選択問題(MCQ)は単位時間当たり多くの問題を出題できるため,信頼性が高い。また事前に合格ラインを決定できること,事後に問題の良否を検討できることも優れた特徴である。しかし,臨床能力の評価法としての妥当性はやや劣る。医師国家試験(国試)にはMCQが使用されており,信頼性の高さは認められている。また近年の出題基準の改訂により妥当性も向上していると考えられる。国試にはAタイプ,Kタイプ,Xタイプの3種類が使用されているが,Aタイプが最も知識レベルを正しく反映し,Kタイプが多くなるほど正答率は上がり,Xタイプが多くなるほど正答率は大きく下がると推測される。共用試験のコンピュータ試験(CBT)トライアルにはMCQのうち,AタイプとRタイプが使用されている。Rタイプは臨床問題解決能力を評価するのにより適した方法と考えられている。CBTはいつでもどこでもテストが受けられることを目指している。この条件を満たすためには,膨大な数の問題をプールしておくだけでなく,異なる問題セットで受験者を適正に評価する方法論が必要となる。項目反応理論(IRT)はこの目的で開発された新しいテスト理論で,受験者の絶対評価を目指している。このテストが実施されるようになると,医学教育は変貌を余儀なくされるものと予想される。
著者
吉田 純子 石橋 隆治 西尾 眞友
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.420-426, 2005-12

細胞内Ca^<2+>イオンは筋収縮,分泌,および細胞の増殖・分化などの情報伝達において重要な二次メッセンジャーとして働いている。その細胞内濃度の恒常性は,細胞膜に存在するCa^<2+>透過性イオンチャネルやイオントランスポーターおよび細胞内Ca^<2+>貯蔵部位からの遊離や取り込み機構によって保たれる。高血圧,狭心症,不整脈の治療薬の一つであるCa^<2+>括抗薬は電位依存性L型Ca^<2+>チャネルに結合し,細胞内へのCa^<2+>流入を抑えて血管平滑筋や心筋細胞の興奮性を低下させる。しかし,近年,ある種のCa^<2+>拮抗薬がL型Ca^<2+>チャネル遮断ではなく,抗酸化作用や血管平滑筋の増殖抑制作用を介して動脈硬化や血管再狭窄に対する予防効果を示すことが明らかにされてきた。また,がん細胞に対する増殖抑制作用も報告され,ヒトがん細胞を用いた我々の基礎的研究結果からもCa^<2+>拮抗薬のがん細胞増殖抑制作用が示唆されている。本総説では,Ca^<2+>拮抗薬の多様な薬理作用,特に細胞増殖抑制作用について概説し,細胞内Ca^<2+>濃度を調節する分子群が,抗動脈硬化薬や抗腫瘍薬の新しい分子標的となる可能性を展望した。
著者
石垣 靖人
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.320-325, 2005-12

例えば色素性乾皮症,Werner症候群,血管拡張性失調症などの劣性遺伝疾患ではmRNAの読み枠の途中で終止コドンを生むナンセンス変異が原因遺伝子に見いだされ,その発現は,mRNAレベルでほぼ消失していることが知られている。これはナンセンス変異をもつ遺伝子のmRNAが細胞内で選択的に分解されていることが原因であるが,この分解経路のことをRNAサーベイランス,またはナンセンス変異依存mRNA分解機構(Nonsense-mediated mRNA decay),略してNMDと呼ぶ。現在考えられているNMDのモデルでは,はじめにスプライシングに伴ってエキソンとエキソンのつなぎ目にタンパク質の複合体(Exon junction complex)が結合する。この複合体を介してNMD関連因子がmRNA上へ集結する。このあとの翻訳で,リボソームがナンセンス変異で停止すると,変異の3'側に結合するNMD関連因子と相互作用して変異mRNAだけを選択的に分解に導く。この時,リン酸化および脱リン酸化反応が分解へのスイッチとして機能すると考えられている。ナンセンス変異は遺伝疾患で見いだされるだけでなく,スプライシングの失敗やRNA編集の結果として,常に生体内のmRNA上に生まれているらしい。NMDはこのような遺伝情報のノイズを排除しており,遺伝情報の品質管理に必須な機構であると考えられている。
著者
及川 卓
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.178-185, 2003-10

背景:エトポシド(VP-16)投与下の肺腺癌にCAMを併用した際の抗腫瘍作用およびアポトーシス誘導の増強効果についてin vitroおよびin vivo実験にて検討した。方法:ヒト肺腺癌細胞株(A549,LCSC#1)を対象に,VP-16,CAMの単独・併用投与におけるin vitroでの抗腫瘍作用をCell Counting Kit-8にて,アポトーシスについてはAnnexinVにて,アポトーシス関連蛋白の発現はWestern blotting法にて検討した。In vivo実験では,マウス大腿部にマウス肺腺癌細胞株(LL/2)を皮下移植し,VP-16,CAMを強制胃内投与後,腫瘍体積の経時変化を解析し,腫瘍細胞のアポトーシス誘導についてApopTagを用いて検討した。結果:VP-16にCAMを併用することにより,抗腫瘍作用とアポトーシス誘導の増強を認めた。Western blotting法では,Cyt-c下流のXIAPの軽度抑制を認めた。LL/2移植マウスの検討でも,VP-16にCAMを併用することにより抗腫瘍作用の増強,腫瘍細胞のアポトーシス増加が確認された。結論:VP-16投与下の肺腺癌にCAMを併用することにより抗腫瘍作用とアポトーシス誘導の増強を認めた。今後XIAPも含め,機序に関する更なる検討が必要である。
著者
上原 啓吾
出版者
金沢医科大学
雑誌
金沢医科大学雑誌 (ISSN:03855759)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.161-167, 2005-10

【目的】門脈内に分泌されたGLP-1が肝門脈域における迷走神経感受機構を介してインスリン分泌を促進するか否かを明らかにするために,ラットで生理学的量のGLP-1及びグルコースの門脈内注入による血中のインスリン濃度を選択的肝迷走神経切断および非切断の条件下で測定した。【方法】Wistar系雄性ラットを用い,1)摂食時の動脈血GLP-1濃度を測定,2)摂食後のGLP-1血中濃度に相当する注入量を決定,3)選択的肝迷走神経切断あるいは非切断を行い無麻酔無拘束下に門脈内にグルコース10mg/kg/minを10分間投与,続いてグルコースに加えGLP-1 1.0pmol/kg/minまたはvehicleを10分間並行投与しインスリン濃度を測定した。【成績】摂食15分後の血中GLP-1濃度の上昇は8.6±2.4pmol/lであり,GLP-1 1.0pmol/kg/min門脈内注入はこの変動に相当する上昇をもたらした。グルコース注入中,グルコース濃度はGLP-1注入の有無,迷走神経切断の有無で差を認めなかった。非切断ラットではGLP-1注入3分後からインスリン濃度は有意に増加,GLP-1注入10分間のarea under the curve (AUC)はvehicle注入の約5.4倍であったが,選択的迷走神経切断によりAUCは40%に減少した。【結論】生理学的量のGLP-1門脈内投与は血糖上昇に対するインスリン分泌を増大させたが,選択的肝迷走神経切断によってこの作用は大きく減弱した。摂食時GLP-1の示すインスリン分泌促進に迷走神経機構が関わることが示唆された。