著者
古林 太郎 市橋 伯一
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.240-244, 2021 (Released:2021-07-30)
参考文献数
8

How can evolution shape a diverse biological world from a lifeless molecular world? In vitro evolution of artificial molecular replication systems is an attractive approach to investigate possible pathways of a simple molecular system developing towards biological complexity. We describe the progress of experimental investigation to test evolvability of molecules from the pioneering Spiegelman’s work to our studies on an artificial RNA replication system. Especially, we found that coevolution with parasitic molecules is a key to extend evolvability for emergence of diversity and continuous evolution.
著者
古林 太郎
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2017-04-26

本研究の目的は、生命の起源で想定されるような単純な自己複製系においても避けがたく発生してしまう寄生性分子(ウイルスのようなもの)が宿主との生存競争を通じて複製系に及ぼす進化的影響を、実験と理論の両面から追求することであった。理論では、区画化された単純な宿主・寄生体複製系の数理モデルの構築と解析を行った。広いパラメータ空間上での網羅的な計算機シミュレーションの結果、原始地球でも実現可能であろう単純な区画ダイナミクスのみによって複製系が安定に持続可能な条件を見出した。また、複製系が安定に持続可能となるためには区画が多数あること、区画の融合分裂頻度が大きいこと、栄養量が適度な範囲にあることなどが重要な要件であることが明らかになった。これらの知見を用いれば、宿主と寄生体の相互作用の程度を段階的に変化させた新しい進化実験の条件設定を行うことができると考えられる。この成果は、平成29年度内に論文化した。実験では、自己複製能力を持つ宿主RNAと寄生体RNAの長期的な実験進化を実施し、その進化ダイナミクスを次世代シーケンサと生化学的なアッセイにより解析した。配列解析の結果、宿主RNAは多系統に分岐進化を起こしていたこと、寄生体の側では新たな分子種が進化途中で発生していたことが判明した。生化学アッセイにより宿主と寄生体の関係がいかに発展したかを解析した結果、宿主RNA側での寄生体RNAの複製を防ぐ適応進化と、寄生体RNA側での進化後宿主への新たな寄生能力の適応進化が繰り返し起こっており、寄生体が宿主の継続進化と多様化に貢献していることを示唆していた。これらの結果は、単純な複製子集団がダーウィン進化を通じて自発的に宿主・寄生体の関係がダイナミックに変動する複雑な生態系へと発展したことを示しており、生命の初期進化について重要な知見が得られたと言える。この成果は、平成31年度に出版予定である。