著者
佐野 寛 武田 敏充 阿部 恵子 右田 俊彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1990, no.5, pp.463-465, 1990-05-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
8
被引用文献数
1

第二級アルコールであるシクロドデカノールから誘導される酢酸シクロドデシルとジフェニルシランをラジカル開始剤ジ-t-ブチルペルオキシド(以下DTBPと略記する)存在下加熱すると,デオキシ化されたシクロドデカンを生成した。この反応においてラジカル開始剤は不可欠であり,DTBPなしでは反応はまったく進行しない。またエステルとしては酢酸エステルが最もよい収率を与えた。第一級および第三級アルコールの酢酸エステルもデオキシ化されるが収率は低下した。アセチル化糖のデオキシ化では収率は低く,多量の副生物の生成が認められた。この原因としてジフェニルシランが2原子の活性水素をもつこと,およびラジカル条件下で他のシランに容易に不均化することがあげられる。
著者
右田 俊彦
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.214-217, 1998-04-20 (Released:2017-07-11)
参考文献数
3

炭化水素はさまざまな条件下で空気中の酸素と反応し酸化生成物を与える。ラジカル発生剤存在下ではラジカル連鎖反応によって非芳香環の部分がヒドロペルオキシ化される。増感剤存在, 光照射下では芳香族および不飽和炭化水素は分子反応を通して環状過酸化物やヒドロペルオキシドなどを与える。また, ある種の遷移金属化合物を触媒とする芳香族炭化水素の空気酸化によって, マレイン酸やフタル酸の無水物など工業化学的に重要な中間体を得ることができる。
著者
小杉 正紀 右田 俊彦 永井 洋一郎
出版者
日本化學雜誌
雑誌
日本化學雜誌 (ISSN:03695387)
巻号頁・発行日
vol.92, no.6, pp.477-490, 1971
被引用文献数
3

脂肪族化合物の塩素分子と次亜塩素酸t-ブチルによる遊離基的塩素化に対する構造と反応性の関係を系統的に研究する目的で, 2, 2-ジクロルプロパンのメチル水素1個の反応性を基準とする相対的反応性を求めた。<br> CH<sub>3</sub>-X型化合物についてHammett-Taftの取り扱いを行なった結果,相対的反応性の対数とTaftの極性置換基定数&sigma;<sup>*</sup>値との間には直線関係が存在することが明らかになり,塩素原子に対する水素引き抜き反応においては&rho;<sup>*</sup>値は-0.95, t-ブトキシ遊離基に対する水素引き抜き反応においては&rho;<sup>*</sup>値, -0.69を得た。塩素原子による水素引き抜きに関してはクロルアルカン類とそのケイ素類似体の反応性の比較について検討を加えた。ケイ素化合物については&sigma;<sup>*</sup>値を用いて反応性を体系化することはできないが, NMR<sup>13</sup>C-Hカップリング定数を用いると相当する炭素化合物と定量的に反応性を比較検討することができた。<br> また脂肪族化合物を〓,型化合物と考え,置換基(R, R', R'')の極性効果に加成性があるとして取り扱うことにより反応性におよぼす影響を感応効果,共役効果,立体効果に分離できることを示した。
著者
右田 俊彦
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.27, no.7, pp.609-621, 1969
被引用文献数
1

1961年本誌に同じような標題のもとに、ラジカル反応のうち比較的収率のよい反応をあつめ, その後それらの反応に対する機構論的観察をとりまとめた。また古くから知られた反応までも含めて, 現在まで行なわれた実例がSosnovskyによって集録されている。<BR>ラジカル反応の合成化学的開発という意義をもつ研究はいまもなお盛んに行なわれているが, ここではその後見出された種々の反応を紹介すると共に, ラジカル反応を合成化学に利用するときの考え方に論点を向けてゆきたいと考えている<BR>多くのラジカル反応の教科書にみられるように, ラジカルの行なう反応を素反応別にわけると次のようになる。<BR>1.ラジカル1個の行なう反応<BR>R・→R'・+M (ラジカルの分解) <BR>R・→R'・ (ラジカルの転位) <BR>2.ラジカル間の反応<BR>R・+R・→R-R (会合反応) <BR>R・+R・→RH+R (-H) (不均化反応) <BR>3.ラジカルの酸化・還元<BR>R・+<I>e</I>→R : 〓<BR>R・-<I>e</I>→R⊕<BR>4.不飽和分子への付加<BR>R・+>C=C<→R-C-C・<BR>R・+O<SUB>2</SUB>→ROO・<BR>5.飽和分子との置換反応<BR>R・+X-C-→R-X+・C- (x-ひきぬき反応) <BR>R・+RLS-S-R, →R-S-R'+R'S・ (メタセシス) <BR>合成化学的に用いるという観点からこれらの反応を眺めてみよう。<BR>1.の反応はラジカルは安定分子を放出しつつ他のラジカルに変化し, あるいはより安定なラジカルに転位することがあることを示すもので, 中間に生ずるラジカルについてこの反応の可能性を考える必要がある。そして分解もしくは転位がきわめて収率よくおこるときは, それを利用して合成化学的に用いることもできよう。<BR>ラジカルに対してきわめて活性な芳香族化合物は過酸化ベンゾイルによってベンゾキシ化することができるが, 一般の芳香族化合物はフェニル化をうける。前者は過酸化物の分解によって生ずるベンゾキシラジカルの反応を, 後者はベンゾキシラジカルの分解で生じたフェニルラジカルの反応を利用した芳香核置換反応である。<BR>(C<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB>COO) <SUB>2</SUB>→2C<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB>COO・ArH→ArOOCCC<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB><BR>C<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB>COO・-CO<SUB>2</SUB>→C<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB>・ArH→ARC<SUB>6</SUB>H<SUB>5</SUB><BR>3, 3-ジクロルプロペンに臭化水素をラジカル的に付加させるとき生成物は1, 2-ジクロル-3-プロムフロパンである。これは臭素原子がオレフィンに付加して生ずるラジカルに次の転位が行なわれたものである。<BR>Cl<SUB>2</SUB>CHCH=CH<SUB>2</SUB> →Br・→Cl<SUB>2</SUB>CHCHCH<SUB>2</SUB>Br→o <BR>ClCHCHCLCH<SUB>2</SUB>Br→HBrClCH<SUB>2</SUB>CHCLCH<SUB>2</SUB>Br<BR>しかし, ラジカルの分解または転位が重要な段階となる合成反応は少ないといってよい。<BR>2.の反応はラジカル2個が反応して安定分子を形成する反応である。このうち同種のラジカルが会合する反応は, 対称的な構造をもつ化合物の合成に用いられることがある。そのいくつかの例は先に上げた総説の中に集録したのでそれを参照していただきたい。<BR>不安定な多くのラジカルは溶液中では直ちに溶媒分子と反応するので, 会合が収率よくおこることを期待するためには生じたラジカルが多少とも安定でなくてはならない。クメン中過酸化物を分解させて1, 2-ジメチル-1, 2-ジフェニルブタンをつくる方法などがその典型的な例である。<BR>Ph-CH (CH<SUB>3</SUB>) <SUB>2</SUB> R・→Ph-C-CH<SUB>3</SUB>-CH<SUB>3</SUB>→Ph-Me-C-Me-Me-C-Me-Ph<BR>したがってその適用範囲もそう広いものではない。ラジカルを電解法によって発生させるときは, ラジカルの濃度が電極の近くに高くなるので, このような会合反応が期待できることがある。Kolbeの電解による炭化水素の合成はその例である。<BR>2CH<SUB>3</SUB>COO--<I>e</I>→2CH<SUB>3</SUB>COO・→-CO<SUB>2</SUB>2CH<SUB>3</SUB>・→C<SUB>2</SUB>H<SUB>6</SUB><BR>反応3.は炭素ラジカルを金属イオン等によって酸化あるいは還元してカルボニウムイオン, カルバニオンとする反応である。ラジカルは水とは反応しないが, カルボニウムイオンなどは水と容易に反応して相等するアルコールをうることができる。この種の研究は最近主としてKochiによって手広く行なわれている。なお今後の開発が期待される分野である。<BR>反応4, 5はラジカルの安定分子との反応である。不安定なラジカルは溶液中に発生すると, 直ちに溶液中の安定分子と反応4, 5の形式にしたがって反応する。したがって, 今日までに知られた合成に用いうる適用範囲の広い反応は, 反応4.あるいは5.の組み合せからなる連鎖反応であることは当然のことである。ここでも主してこの種の反応をとりあつかうことにする。