著者
合志 清隆 加藤 貴彦 安部 治彦 Robert M WONG
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.97-104, 2003 (Released:2004-09-10)
参考文献数
54
被引用文献数
4 3

潜水法には圧縮ガス潜水と息こらえ潜水(素潜り)がある. 前者では脳と脊髄ともに影響を受けるが, 脊髄障害がより高頻度にみられる. これに対して後者の素潜りでは, 減圧障害を起さないとされてきたが, 潜水漁民の聞き取り調査を行なうと脳卒中症状として頻発していることが明らかとなった. 潜水に伴う脳病変では, 潜水方法による差異はなく, 不活性ガスの気泡による動脈原性の脳塞栓症が考えられる. また, 脳障害は症候学的には動脈ガス塞栓症と診断されてきたが, 発生機序による分類では減圧症に該当することが多く, 分類法によりその診断に乖離が生ずる. これに対して, 脊髄障害は圧縮ガス潜水にみられるが, 脊髄硬膜外静脈の灌流障害によるとの説が有力であり, 治療法もほぼ確立されている. しかし, 潜水に従事する労働者の一部には減圧障害に対する認識が低く, 過度の潜水を避けるように啓発することが重要である.