著者
柴田 愛 渡邊 和彦 吉尾 政信 石井 実
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.59-69, 2002-09-25 (Released:2018-09-21)
参考文献数
44

モンシロチョウ(Pieris rapae crucivora Boisduval)の成虫の日周活動を25〜28℃14L-10Dの実験空間(290×320×高さ240cm)において観察した.天井には40Wの白色蛍光灯32本を設置し, 床面中央の照度を約2, 000lxに保った.床面には人工芝を敷き, 蜜源や休息のための植物, キャベツなどを配置した.実験は3シリーズ行ない, それぞれ雌10個体(雌区), 雄10個体(雄区), 雌雄各5個体(雌雄区)を放飼して3日間ずつ行動を観察した.(1) 飛翔および吸蜜活動については, すべての区で明期開始から約2時間は活性が低く, 5〜9時間目に高まり, 明期終了前約2時間は活性が再び低くなる活動リズムが観察された.(2) 飛翔に費やす時間は雄区で最も長く, 雄区・雌雄区ともに雄の探雌飛翔は明期の前半に長い傾向が認められた.(3) 雌区では明期を通じて植物に静止している個体が多く, 雌雄区の雌は短い飛翔を繰り返した.(4) 産卵活動は明期の前半に多く見られたが, 雌雄区の雌では, 明期終了直前にも産卵と吸蜜活動に小ピークが見られた.(5) 「はばたき反応」は, 雄区では明期後半に多く見られたが, 雌雄区の雄ではほとんど見られなかった.(6) すべての区において, 雌雄ともに明期終了前に植物に静止する行動が見られたが, これは植物を寝場所とするためと考えられた.(7) これらの結果から, モンシロチョウ成虫の活動は, 温度や光周条件などさまざまな環境条件が保たれた空間でも一定の日周性を示すが, 同性間, 異性間の個体間干渉によって変化することが示唆された.
著者
吉尾 政信 石井 実
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.275-279, 2004-09-30

温帯および亜熱帯産のPapilio属アゲハチョウ類では,幼虫期の光周期によって蛹休眠が誘導されることが知られている.一方,熱帯産のアゲハチョウ類の休眠性に関する研究は少なく,休眠の誘導条件などについては不明な点が多い.Ishii(1987)は,オナシアゲハPapilio demoleus L.のサバ個体群(マレーシア,サバ州)の幼虫を20℃,10時間日長で飼育することにより,蛹休眠を誘導しているが,長日区を設けていないため日長の役割については明確ではない.そこで本研究では,熱帯産アゲハチョウ類の休眠性における光周期の役割を明らかにするために実験を行った.1995年2月にサバ州でナガサキアゲハP.memnon L.とシロオビアゲハP.polytes L.の幼虫を採集し,柑橘類Citrus spp.の生葉で飼育した.羽化した成虫をハンドペアリング法によって交尾させた後に採卵し,孵化した幼虫を20℃の12時間および14時間日長で飼育し,幼虫および蛹期間を記録した.その結果,両種とも幼虫期間は約1ヶ月で日長による差はなかったが,蛹期間については日長条件で差が認められた.ナガサキアゲハの蛹期間は,14時間日長で23-24日,12時間日長では23-27日で,わずかではあるが短日で有意に長かった.シロオビアゲハについては,14時間日長では19-21日であったが,12時間日長では蛹化後20-22日に羽化したグループと,羽化までに29-92日を要したグループに分かれた.すなわち,シロオビアゲハでは20℃の短日条件下では休眠する個体が存在した.シロオビアゲハのサバ個体群は25℃では短日条件下(10時間日長)でも休眠に入らなかったが(Ishii,1987),20℃という熱帯では冷涼な気温と短日の組み合わせによって蛹休眠が誘導されることが明らかになった.Denlinger(1986)は,1年を通じて日長の変化の小さい赤道付近では,光周期は休眠誘導の季節信号として機能しないことを示唆しているが,少なくともシロオビアゲハのサバ個体群においては光周期は重要な季節信号であることが示された.