著者
吉岡 学
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2018

近年、視覚障害児・者が白杖歩行中に巻き込まれる事故が相次いで報道されている。これらの事故は視覚障害者が白杖操作によって路面状況を把握できず起きた事故も含まれている。白杖は歩行の際に重要な3つの機能を有している. その1つは, 車のバンパーの役割と同様に視覚障害者が障害物に衝突した際の緩衝器としての役割. 2つ目は路面状況などの情報を白杖から振動として視覚障害者の手指に伝える役割. 3つ目として視覚障害者であることを健常者に知らせるシンボルとしての役割がある. また、白杖の構造はシャフト, 石突, グリップの3つの部品から成立している. この中でもグリップ部は白杖が路面から得た情報を手に伝える重要な役割を有している。しかしながら、通常使用されているグリップ部は白杖専用ではなく、ゴルフクラブのグリップを代用しているものばかりである。現在、全国の視覚障害特別支援学校及び盲学校において使用されている白杖グリップの実に93.0%はゴルフグリップの代用となっている。白杖操作時にグリップの形状が手指掌側面と一致していない場合はグリップを通して手指に伝える振動情報伝達が不十分であり、視覚障害児・者が路面情報を把握できず、白杖歩行技術習得への大きな障害となる。そこで、本研究では握りやすく、情報伝達性が良好な白杖グリップ部の開発を行うことを目的とした。新しく開発した白杖グリップは、従来のゴルフ型グリップとは異なり、白杖操作時の手指の握り方の形状に即したものとした。その結果、白杖操作に使われる筋群(橈側手根屈筋、尺側手根伸筋、長橈側手根伸筋)の筋活動を測定したところ、新規開発した白杖用グリップでは従来のグリップより手指による運動が盛んに行われていた。これにより新規開発グリップにおける白杖操作においては、手指における路面情報の収集が的確に行われるグリップであることが明らかになった。
著者
吉岡 学 中川 浩文 諸菱 正典 保髙 拓哉
出版者
一般社団法人 日本人間工学会
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.114-122, 2022-06-15 (Released:2022-08-16)
参考文献数
16

視覚障害者の鉄道利用者は単独で移動する際に様々な困難や危険に遭遇する.本研究では,重大な危険性がある駅ホームへの転落を軽減するためのシステムについて述べる.本方式では,通常の白杖の先端にRFIDリーダを装着し,RFIDリーダとスマートフォンのアラーム音を連動させ,白杖先端部がRFIDタグの取り付けてあるホーム端に近づくとRFIDデバイスが作動するシステムを提案する.本システムを試行した結果,RFIDタグから横方向に150 mmの距離,RFIDタグから100 mmの高さ,駅ホームに対する白杖先端部の振り速度が1.5 m/sまでであれば,いずれの使用状況においても白杖先端部に取り付けられたRFIDリーダの動作が確認された.しかし,環境音がない場合,検出率は低下した.アンケートでは,91.7%の人がスマート白杖の重量が増加したことを指摘し,72.8%の人が本システム搭載のスマート白杖の購入を希望していた.この結果から,本システムが視覚障害者の駅ホーム転落防止システムとして社会実装の可能性があることを示した.
著者
吉岡 学
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.245-256, 2022-02-28 (Released:2022-08-31)
参考文献数
12
被引用文献数
1

本研究では、歩行指導用経路を普段使用している視覚障害者によって事前に白杖歩行してもらい、その際に歩行で必要とする情報に関して事前調査を行った。その後、それらの情報を取り入れた触地図を作成し、その情報を備えた触地図によって、視覚障害児1名が白杖歩行スキルを獲得するための触地図歩行学習と単独歩行学習を行った。指導前には、対象経路に必要な歩行スキルの分析を試みた。指導は、学習室と現実場面にて行われた。学習室では、触地図を使い現実場面をシミュレートする学習を構成し、歩行に必要な環境情報の取得方法の指導を行った。現実場面では、学習室場面での指導の効果を評価するとともに、白杖歩行に必要な指導を行った。その結果、視覚障害のある生徒が白杖歩行するためには、事前に経路の「往路」「復路」について必要とする情報を反映した触地図学習と現実場面での一連の指導が効果的であった。また、白杖歩行スキル獲得において、移動環境における困難性(移動時の方向定位の問題)が存在することも明らかになった。