著者
中濵 直之 安藤 温子 吉川 夏彦 井鷺 裕司
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.2128, (Released:2022-04-28)
参考文献数
48

絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律では、日本国内の絶滅の危険性が大きい生物種について安定的な存続を図るために「国内希少野生動植物種」に選定している。こうした国内希少野生動植物種では、近交弱勢や遺伝的撹乱などの遺伝的な問題を防ぐために保全遺伝学的研究が必要である。これまでに多くの国内希少野生動植物種で保全遺伝学的研究が実施され、またその基盤として遺伝的多様性や遺伝構造、遺伝マーカーをはじめとした遺伝情報が蓄積されてきた。しかし、保全遺伝学的研究の学術論文の多くは英語により出版されたものであり、保全の現場での利用が難しかった。そこで、保全現場における今後一層の活用を目指すため、これまでに国内希少野生動植物種で蓄積されてきた遺伝情報を整理した。 これまでに国内希少野生動植物種で明らかにされてきた遺伝情報を「遺伝的多様性・遺伝構造」、「ゲノム(オルガネラゲノムを含む)」、「遺伝マーカー」、「近交弱勢・有害遺伝子」、「その他」の 5つに区分し、分類群ごとの進捗状況をまとめた。その結果、脊椎動物においては遺伝情報が蓄積している種の割合が多く、また多くの学術論文が出版されていたが、その一方で無脊椎動物においては遺伝情報が蓄積している種の割合とともに学術論文数も少ない傾向にあった。維管束植物においては学術論文数が多かった一方で、指定種数が多いこともあり、種数に対する割合は低かった。 また、近年のハイスループットシーケンシングの隆盛とともにゲノムレベルの手法も使用されるようになり、より安価で大量の遺伝情報を得ることができるようになった。本総説ではこれまでに実施されてきた研究手法について概説するとともに、今後期待される展望についても議論する。
著者
吉川 夏彦
出版者
独立行政法人国立科学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本産ハコネサンショウウオ属を対象として日本列島の有尾両生類の種分化及びその維持機構の解明を目指して研究を行った。ハコネサンショウウオ属の複数種で共通して使用可能なマイクロサテライトマーカー18遺伝子座を開発した。東北本州からは本属の2新種(バンダイハコネサンショウウオ、タダミハコネサンショウウオ)を記載し、分類学的整理を行った。東北地方南部に分布する4種の分布境界・同所的分布域で集団遺伝構造を調査し、本属の種分化と二次的接触、およびその後の種間関係について調査を行い、系統地理学的な考察を行った。