著者
吉川 義之 杉元 雅晴 前重 伯壮 植村 弥希子 高尾 篤 松田 一浩 寺師 浩人
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.200-206, 2013-06-20 (Released:2018-04-12)
参考文献数
19

【目的】本研究の目的は,褥瘡部を陰極とした低強度の微弱直流電流刺激(以下,LIDC)療法が褥瘡治癒期間の短縮に効果があるかを検討することである。【対象】対象は褥瘡を有する高齢者7名とした。褥瘡部位は仙骨部褥瘡2例,胸椎部褥瘡2例,腸骨部褥瘡1例,大転子部褥瘡1例,外果部褥瘡1例であり,すべての褥瘡で治癒が停滞していた。褥瘡創面評価DESIGN-Rは13〜19点であった。【方法】創面上のドレッシング材に陰極の塩化銀電極を挿入し,褥瘡周囲の健常皮膚に陽極を貼付した。刺激強度80μA,周波数2Hz,パルス幅250ms,治療時間40分として週5回実施した。治療時,LIDC療法後に両極間のシャント作業を行った。【結果】LIDC療法を実施することで創が縮小しはじめ,5〜10週で完治した。【結語】LIDC療法により停滞していた褥瘡に創の縮小が認められ,早期に治癒した。それゆえに,褥瘡部を陰極とした低強度のLIDC療法は褥瘡治癒期間の短縮に効果があることが示唆された。
著者
吉川 義之 野中 紘士 滝本 幸治 前重 伯壮 植村 弥希子 杉元 雅晴
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.72-76, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
19

本研究ではヒト皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を異なる温度で培養し,細胞増殖に及ぼす影響を検討した.HDFsを5×104 cells/dishの濃度で35-mm dishに播種し,31,33,35,37,39°Cの5条件で培養した.HDFsは24,48,72時間後に剥離し,血球計算板を使用して生細胞数と死細胞数をカウントした.解析には,37°Cで培養した24時間時点での細胞数を基準とした細胞比率を用いた.また,それぞれの温度における細胞生存率を算出した.統計学的検討は温度と時間については二元配置分散分析を用い,細胞生存率については一元配置分散分析を行った.分散分析にて有意差がみられた際にはBonferroniの多重比較検定を行った.結果は二元配置分散分析にて主効果,交互作用ともに有意差を認めた(p<0.01).インキュベーター設定温度の違いによる細胞比率は,48,72時間のいずれの時点においても培養温度の高さに依存して高い結果となった.細胞生存率については有意差はみられなかった.以上のことから,今回検討した5条件においては,31,33,35°Cでは37°Cよりも細胞増殖が低下し,39°Cでは37°Cに比べ細胞増殖が促進した.
著者
吉川 義之 前重 伯壮 植村 弥希子
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
pp.2023-010, (Released:2023-06-15)

創傷リハビリテーション(以下,創傷リハ)においてリハビリテーション専門職(以下,リハ専門職)が多く関わると考えられる糖尿病足病変と褥瘡に対する物理療法について紹介する.創傷リハでは創傷発生予防と創傷管理のリハビリテーションがあり,リハ専門職はその両方に関わることができる.物理療法も同様に,創傷発生予防と創傷管理の両方に関わることができる.創傷予防については電気刺激療法を実施し筋の収縮を促すことにより足底圧や坐骨部圧の分散が可能になる.創傷管理については,創部に電気刺激療法を実施することにより創縮小率が上昇することが確認されている.このように物理療法は創傷発生予防と創傷管理の両方に関わることができるため,積極的に実施していただきたい.今後,創傷領域に関わっていただけるリハ専門職が増えることを切に願っている.
著者
植村 弥希子 杉元 雅晴 前重 伯壮 吉川 義之
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.39-44, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
22

物理療法は近年,数多くの研究によりその効果とメカニズムについて明らかにされてきており,従来では「禁忌」とされていた患者に対しても安全に実施できる可能性が示唆されている.医療行為は安全であることが第一条件であり,物理療法も例外ではない.物理療法を安全に使用するためには各種物理療法が生体に与える影響を理解し,実施する際の注意事項を留意した上で行う必要がある.治療メカニズムを理解していれば,より効果的な物理療法の実施も可能となり,効能をリハビリテーション医療に生かすことができるであろう.本稿では2010年に発刊されたカナダ理学療法士協会の物理療法の禁忌事項を取りまとめたレビューを基に,2011年以降に発刊された基礎,臨床研究から物理療法が生体に与える影響について解説し,適応と禁忌について網羅的に解説する.
著者
吉川 義之 福林 秀幸 高尾 篤 竹内 真 松田 一浩 安川 達哉 梶田 博之 杉元 雅晴
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.470-476, 2010-12-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
19
被引用文献数
6

【目的】本研究の目的は,音叉を用いた振動覚検査で転倒予測が可能であるかを検討することである。【対象】認知症および中枢神経疾患を除外した,歩行が可能な当院外来患者,通所リハビリテーション利用者で6ヵ月間追跡調査が可能であった62名である。【方法】音叉を用いた振動覚検査とTimed “Up & Go” Test,10m自由歩行時間,Modified-Functional Reach Testの4項目を実施した。転倒は測定日より6ヵ月間追跡し有無を確認した。統計処理は,転倒の有無により転倒群と非転倒群に分け比較を行った。また,各検査についてはROC曲線からカットオフ値を求め,精度を確認した。【結果】測定後6ヵ月間に転倒した対象者は22名(転倒率:35.5%)であった。転倒群と非転倒群の比較では,すべての検査において非転倒群の成績が有意に優れていた。ROC曲線の曲線下面積では,振動覚検査が0.83で,他の検査と同等であった。振動覚検査のカットオフ値については5.5秒であり,感度は77%,特異度は68%,正答率は71%であった。【結語】音叉を用いた振動覚検査は,転倒予測の検査として有用であった。
著者
吉川義之
雑誌
第49回日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
2014-05-08

1.はじめに 褥瘡予防・管理ガイドラインに記載されている物理療法には,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法,電磁波刺激療法,陰圧閉鎖療法がある。その中で,本邦の理学療法士が使用可能な物理療法手段は,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法であり,創の縮小や壊死組織の除去など臨床における効果が示されている。しかし,本邦では欧米諸国に比べ実施頻度は非常に低く,電気刺激療法においては実施頻度が低いことが理由で推奨度がAランクからBランクに引き下げられている。今回のシンポジウムでは,褥瘡の創面評価(DESIGN-R)を確認しながら,超音波療法,電気刺激療法,水治療法における理学療法技術を提示し,褥瘡対策チームで活躍している理学療法士と討論したいと考えている。もう一度,物理療法の効果を再考し,褥瘡対策チームにおける理学療法士の役割を再確認したいと考えている。2.創面評価(DESIGN-R) 褥瘡の創面はDESIGN-Rを用いて評価する。Depth(深さ),Exudate(滲出液量),Size(大きさ),Inflammation/Infection(感染/炎症),Granulation tissue(肉芽),Necrotic tissue(壊死組織),Pocket(ポケットの有無)のそれぞれを点数化し合計点が高ければ重症となる。この評価方法により創面が改善しているのか,悪化しているのかを把握することが可能である。褥瘡の創面評価により治療方法の効果判定に用いることが可能である。3.褥瘡局所治療(down stream) 理学療法士が実施可能な褥瘡局所治療(down stream)として物理療法がある。以下に水治療法・超音波療法・電気刺激療法を提示する。 1)水治療法 褥瘡に対する水治療法は日本褥瘡予防・管理ガイドラインの壊死組織の除去および感染・炎症の制御の2要素において推奨度C1とされている。不感温度(35.5~36.6℃)に加温した温水あるいは渦流による物理的な刺激を全身(ハバード浴療法),部分的(渦流浴療法)に与えるものである。また,創洗浄は水治療法の一部であり,創面および創周囲を弱酸性洗剤で洗浄する。その際,褥瘡の創面を直接観察でき評価(DESIGN-R)をする事が可能である。創面の状態や形状を観察することで,物理療法の適応時期や褥瘡発生の原因究明につながる。理学療法士が創の洗浄を実施し,創面を評価することでより加速的な治癒が期待できる。 2)超音波療法 褥瘡に対する超音波療法の有効性については明確な根拠がないとされてきた。しかし,創傷被覆材の超音波透過率を明確にして行った臨床研究において,創の収縮が促進することが確認されている(Maeshige N, et al. J Wound Care, 2010)。この研究結果により,褥瘡予防・管理ガイドラインにおいて推奨度C1となった。その後,創閉鎖の際に必要な線維芽細胞を用いた培養実験において,低出力のパルス超音波が線維芽細胞の活性化を促すことが確認されている(前重伯壮,他。日本物理療法学会誌,2012)。この結果をもとに行った臨床研究においても創収縮が確認されている(Maeshige N, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。褥瘡に対する超音波療法は創の収縮において有効であると考えられるため,実施する理学療法士が増え,効果が確認される事で推奨度がBランクになると思われる。 3)電気刺激療法 褥瘡に対する電気刺激療法は褥瘡予防・管理ガイドラインの創の縮小において推奨度がBランクで行うように薦められている。杉元らが行った線維芽細胞の遊走の基礎研究(Sugimoto M, et al. J Wound Care, 2012)を臨床研究に適応した症例研究(吉川義之,他。理学療法学,2013)においても有効性が示されている。また,ポケットを有する褥瘡に対しても有効性が示されている(吉川義之,他。日本物理療法学会誌,2012)。その後,植村らが細胞遊走の最適電流強度を調査するため新たな培養細胞実験を行った。その結果,200µAで細胞遊走が促進され,300µAで抑制することが確認された(Uemura M, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。これらの結果をふまえ,現在は創傷治療専用器による治験を実施している。また,基礎研究では細胞遊走に加え細胞増殖の検討を実施している。このように,基礎研究を臨床に適用しながら,褥瘡に対する電気刺激療法の有効性が明らかになってきている。超音波療法と同様,実施する理学療法士が増えることにより,推奨度がAとなり褥瘡治癒に貢献できると考えられる。3.おわりに 上記のように,褥瘡に対する物理療法の有効性が示されている。そのため,褥瘡を評価し適応時期にあった物理療法を選択することで創の加速的な治癒に期待である。しかし,物理療法は難しいという固定概念から敬遠されがちである。筆者もその一人であった。しかし,臨床効果を実感することでこれらの固定概念は消失した。物理療法は他の理学療法技術とは異なり,適切な機器を選択し,最適条件の設定ができれば,素晴らしい効果を得ることが可能となる。今回,シンポジウムに参加している方々にこの効果を実感していただきたいと考えている。理学療法士は褥瘡対策チームでポジショニングやシーティングなどの予防(up stream)だけでなく,局所治療(down stream)においても活躍できる場は非常に多いと思われる。