- 著者
-
吉川義之
- 雑誌
- 第49回日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- 2014-05-08
1.はじめに 褥瘡予防・管理ガイドラインに記載されている物理療法には,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法,電磁波刺激療法,陰圧閉鎖療法がある。その中で,本邦の理学療法士が使用可能な物理療法手段は,電気刺激療法,超音波療法,水治療法,光線療法であり,創の縮小や壊死組織の除去など臨床における効果が示されている。しかし,本邦では欧米諸国に比べ実施頻度は非常に低く,電気刺激療法においては実施頻度が低いことが理由で推奨度がAランクからBランクに引き下げられている。今回のシンポジウムでは,褥瘡の創面評価(DESIGN-R)を確認しながら,超音波療法,電気刺激療法,水治療法における理学療法技術を提示し,褥瘡対策チームで活躍している理学療法士と討論したいと考えている。もう一度,物理療法の効果を再考し,褥瘡対策チームにおける理学療法士の役割を再確認したいと考えている。2.創面評価(DESIGN-R) 褥瘡の創面はDESIGN-Rを用いて評価する。Depth(深さ),Exudate(滲出液量),Size(大きさ),Inflammation/Infection(感染/炎症),Granulation tissue(肉芽),Necrotic tissue(壊死組織),Pocket(ポケットの有無)のそれぞれを点数化し合計点が高ければ重症となる。この評価方法により創面が改善しているのか,悪化しているのかを把握することが可能である。褥瘡の創面評価により治療方法の効果判定に用いることが可能である。3.褥瘡局所治療(down stream) 理学療法士が実施可能な褥瘡局所治療(down stream)として物理療法がある。以下に水治療法・超音波療法・電気刺激療法を提示する。 1)水治療法 褥瘡に対する水治療法は日本褥瘡予防・管理ガイドラインの壊死組織の除去および感染・炎症の制御の2要素において推奨度C1とされている。不感温度(35.5~36.6℃)に加温した温水あるいは渦流による物理的な刺激を全身(ハバード浴療法),部分的(渦流浴療法)に与えるものである。また,創洗浄は水治療法の一部であり,創面および創周囲を弱酸性洗剤で洗浄する。その際,褥瘡の創面を直接観察でき評価(DESIGN-R)をする事が可能である。創面の状態や形状を観察することで,物理療法の適応時期や褥瘡発生の原因究明につながる。理学療法士が創の洗浄を実施し,創面を評価することでより加速的な治癒が期待できる。 2)超音波療法 褥瘡に対する超音波療法の有効性については明確な根拠がないとされてきた。しかし,創傷被覆材の超音波透過率を明確にして行った臨床研究において,創の収縮が促進することが確認されている(Maeshige N, et al. J Wound Care, 2010)。この研究結果により,褥瘡予防・管理ガイドラインにおいて推奨度C1となった。その後,創閉鎖の際に必要な線維芽細胞を用いた培養実験において,低出力のパルス超音波が線維芽細胞の活性化を促すことが確認されている(前重伯壮,他。日本物理療法学会誌,2012)。この結果をもとに行った臨床研究においても創収縮が確認されている(Maeshige N, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。褥瘡に対する超音波療法は創の収縮において有効であると考えられるため,実施する理学療法士が増え,効果が確認される事で推奨度がBランクになると思われる。 3)電気刺激療法 褥瘡に対する電気刺激療法は褥瘡予防・管理ガイドラインの創の縮小において推奨度がBランクで行うように薦められている。杉元らが行った線維芽細胞の遊走の基礎研究(Sugimoto M, et al. J Wound Care, 2012)を臨床研究に適応した症例研究(吉川義之,他。理学療法学,2013)においても有効性が示されている。また,ポケットを有する褥瘡に対しても有効性が示されている(吉川義之,他。日本物理療法学会誌,2012)。その後,植村らが細胞遊走の最適電流強度を調査するため新たな培養細胞実験を行った。その結果,200µAで細胞遊走が促進され,300µAで抑制することが確認された(Uemura M, et al. WCPT-AWP&ACPT, 2013)。これらの結果をふまえ,現在は創傷治療専用器による治験を実施している。また,基礎研究では細胞遊走に加え細胞増殖の検討を実施している。このように,基礎研究を臨床に適用しながら,褥瘡に対する電気刺激療法の有効性が明らかになってきている。超音波療法と同様,実施する理学療法士が増えることにより,推奨度がAとなり褥瘡治癒に貢献できると考えられる。3.おわりに 上記のように,褥瘡に対する物理療法の有効性が示されている。そのため,褥瘡を評価し適応時期にあった物理療法を選択することで創の加速的な治癒に期待である。しかし,物理療法は難しいという固定概念から敬遠されがちである。筆者もその一人であった。しかし,臨床効果を実感することでこれらの固定概念は消失した。物理療法は他の理学療法技術とは異なり,適切な機器を選択し,最適条件の設定ができれば,素晴らしい効果を得ることが可能となる。今回,シンポジウムに参加している方々にこの効果を実感していただきたいと考えている。理学療法士は褥瘡対策チームでポジショニングやシーティングなどの予防(up stream)だけでなく,局所治療(down stream)においても活躍できる場は非常に多いと思われる。