著者
吉川 義之 野中 紘士 滝本 幸治 前重 伯壮 植村 弥希子 杉元 雅晴
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.72-76, 2022 (Released:2022-08-20)
参考文献数
19

本研究ではヒト皮膚由来線維芽細胞(HDFs)を異なる温度で培養し,細胞増殖に及ぼす影響を検討した.HDFsを5×104 cells/dishの濃度で35-mm dishに播種し,31,33,35,37,39°Cの5条件で培養した.HDFsは24,48,72時間後に剥離し,血球計算板を使用して生細胞数と死細胞数をカウントした.解析には,37°Cで培養した24時間時点での細胞数を基準とした細胞比率を用いた.また,それぞれの温度における細胞生存率を算出した.統計学的検討は温度と時間については二元配置分散分析を用い,細胞生存率については一元配置分散分析を行った.分散分析にて有意差がみられた際にはBonferroniの多重比較検定を行った.結果は二元配置分散分析にて主効果,交互作用ともに有意差を認めた(p<0.01).インキュベーター設定温度の違いによる細胞比率は,48,72時間のいずれの時点においても培養温度の高さに依存して高い結果となった.細胞生存率については有意差はみられなかった.以上のことから,今回検討した5条件においては,31,33,35°Cでは37°Cよりも細胞増殖が低下し,39°Cでは37°Cに比べ細胞増殖が促進した.
著者
滝本 幸治 竹林 秀晃 奥田 教宏 宅間 豊 井上 佳和 宮本 祥子 岡部 孝生 宮本 謙三
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11156, (Released:2017-03-31)
参考文献数
24

【目的】Walking Stroop Carpet(以下,WSC)課題による転倒リスク評価の有用性について検討することを研究目的とした。【方法】対象は地域在住高齢者で,転倒群30 名と非転倒群70 名とした。WSC は,5 m の歩行路に「赤色」「青色」「黄色」「緑色」と書かれたターゲットを横4 列×縦10 列に配置したもので,ターゲットの文字は異なる色彩で印刷されており,文字と色彩は一致しない。WSC 課題は3 条件実施され,たとえば色条件では指示した色彩のみを選択し踏み歩くことが求められ,所要時間を計測した。【結果】WSC 課題(色条件)は,転倒群の所要時間が有意に遅延しており,ロジスティック回帰分析の結果,色条件のみが転倒を説明する変数として抽出された(オッズ比1.62,95% 信頼区間=1.00–2.60)。【結語】WSC 課題(色条件)は,転倒リスク評価に利用可能であることが示唆された。
著者
竹林 秀晃 宮本 謙三 宅間 豊 井上 佳和 宮本 祥子 岡部 孝生 滝本 幸治 八木 文雄
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.82-87, 2006-04-20 (Released:2018-08-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

筋力評価や筋力トレーニングは,徒手筋力検査法や等速度運動機器など,一側を対象として行われることが多い。しかし,身体運動の多くは,左右の四肢を非常に巧みに協応させて行われており,左右肢間の相互作用を考慮した両側性運動を考慮する視点も必要と思われる。本研究では,一側に筋力調節課題を与えることで注意の方向を統一し,その調節水準を変化させることによる対側との相互干渉の変化を,下肢運動課題を用いて検討した。対象は健常成人9名とし,運動課題には右膝伸展筋筋力の筋力調節下(等尺性収縮による100%最大随意収縮 : Maximal Voluntary Contraction(MVC),75%MVC,50%MVC,25%MVC)で,対側である左膝伸展最大等尺性筋力を発揮するという両側性運動を用いた。加えて,左側単独での膝伸展最大等尺性筋力も測定した。測定に際しては右膝伸展筋力の調整量保持を絶対条件とし,注意の方向性を統一した。データ分析対象は,各運動課題遂行時の左膝伸展最大筋力の変化とした。その結果,右膝伸展筋力を調整することによる左膝伸展最大筋力への影響は,右膝伸展筋力の調節水準が低くなるに従い,左膝伸展最大筋力も同様に低下するという同調的変化を示した。これは,両側性機能低下のメカニズムの一つである認知・心理レベルでの注意の分割が関与しており,神経支配比が大きい下肢筋での筋力調節の要求は,課題の難易度が高く,運動の精度を高めるためより多くの注意が必要性であるため,左膝伸展最大筋力が低下したと考えられる。
著者
滝本 幸治 宮本 謙三 竹林 秀晃 井上 佳和 宅間 豊 宮本 祥子 岡部 孝生
出版者
The Society of Physical Therapy Science
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.281-285, 2009-04-20
参考文献数
22
被引用文献数
4 2

[目的]地域の職能を有した人材資源を有効に活用した介護予防事業において,過去4年間に我々が介入してきた運動教室の効果検証を行った。[対象]過去4年間の運動教室参加者95名(平均年齢77.8±6.1歳,男性20名,女性75名)である。[方法]体力の総合的効果を検証できるよう,運動教室実施前後の体力測定値を得点化し,総合得点により比較した。得点化には,同市の高齢者健診の結果から作成した体力標準値を利用した。また,運動教室による効果の要因を検討するために,運動教室による効果あり群と効果なし群に分類し,運動教室開始時の体力を比較した。[結果]運動教室の前後で総合得点の有意な向上を認めた。また,効果あり群の教室開始時の総合得点が有意に低く,運動教室開始時の体力水準が低い者に運動効果があったと推察された。[結語]地域に根ざした高齢者運動教室の効果が認められたが,体力水準が低く且つ類似した体力の対象者を選定することによって,より有効な運動教室の運営が可能になることが考えられた。<br>
著者
竹林 秀晃 弘井 鈴乃 滝本 幸治 宮本 謙三 宅間 豊 井上 佳和 宮本 祥子 岡部 孝生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100757, 2013 (Released:2013-06-20)

【目的】近年,身体保持感や運動主体感などの自己身体感覚の研究において,視覚と体性感覚が時間的・空間的に一致することによりラバーハンド錯覚や体外離脱体験などの現象が引き起こされることが報告されている.一方,慢性疼痛の原因は,視覚情報と体性感覚情報の不一致が疼痛の原因となることが報告されている.そして治療として,鏡,ビデオ映像やVR 技術などを使用し,視覚と体性感覚のマッチングが有効であるとの報告がある.こうしたことから,自己身体を正確に認識するためには,様々な感覚モダリティの情報を統合することが必要である.しかし,姿勢制御において視覚刺激と身体情報の一致・不一致性についての報告は少ない.視覚情報と身体感覚情報(体性感覚,前庭覚)が一致しなければ,身体の違和感が起こり姿勢制御能力の低下やパフォーマンスがうまくできなくなる可能性がある.そこで,今回リアルタイムに視覚情報を変化させることで身体感覚情報との不一致をつくり,姿勢制御への影響を探ることを目的とした.【方法】対象は,健常成人18 名(年齢21.9 ± 0.4 歳)とした.測定肢位は,Head Mounted Display; HMD(HMZ-T2,SONY社製)を装着したタンデム肢位とした.HMDとデジタルビデオカメラ(HDR-CX270V,SONY社製)を同期化させ,被験者自身の後方から撮影した映像をリアルタイムにHMDに映写した.映像としてカメラを前額面上で右回転させ,設定角度は0°・45°・90°・135°・180°の5 つをランダムに映写した.測定時間は各30 秒とし,15 秒で設定角度へと傾け,15 秒で0°へと戻した.データは,重心動揺計(アニマ社製)にて,サンプリング周波数50HzでPCに取り込み,総軌跡長,矩形面積を算出した.統計学的解析は,一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を用いた.また,測定後,測定時の主観的感覚を聴取した.【倫理的配慮,説明と同意】実験プロトコルは,非侵襲的であり,施設内倫理委員会の承認を得た.なお,対象者には,研究の趣旨を説明し,同意を得た.【結果】総軌跡長は,映像の回転角度180°において,回転角度0°より有意に高値を示した (p<0.01) .矩形面積は,回転角度135°と180°において回転角度0°より有意に高値を示した (p<0.01) .被験者からの主観的感覚の回答としては,「映像に抵抗しようと傾きと反対方向に傾いてしまう」などの映写された自己身体像に対して没入感があったことが窺える回答が得られた.【考察】立位姿勢保持では,視覚・体性感覚・前庭覚の情報が統合されて成り立つが,視覚情報による影響が大きい.しかし通常,自身の姿勢を視覚的に取得することは困難であり,本研究のように自己身体の後方からの映像は非日常的である.さらに,リアルタイムに映写する身体像を回転させることで,視覚情報に外乱刺激を与え,身体感覚情報との不一致の状況のみならず,遠心性コピーとの不一致も与えることになる.結果として回転角度が大きい場合において有意に重心動揺が大きくなった.これは,視覚情報と身体感覚情報の不一致の度合いが大きく,身体図式との整合性が合わず姿勢制御に影響を及ぼしたことを示唆している.これは,Mental Rotation課題において実際動かすことが難しい120°,240°に回転させた手の写真に対する反応時間が延長する報告やBiological Motionにおいて180°回転させた時には、運動の認知が低下する報告と同様なものと考えられる.日常見る機会の少ない角度の視覚情報であるため,視覚映像としての経験的要素が少なく身体図式が形成されていないためと考えられる.また,各回転角度が増大するにつれて回転角速度が速くなることが姿勢制御に影響を与えたことも考えられる.一方,回転角度が少ない場合は,日常経験可能な角度であることから身体図式の形成がされており,映写された身体像との不一致があっても,感覚の重みづけの変化がおこり,視覚情報よりも他の身体感覚情報がより賦活されている可能性や予測的側面により重心動揺を制御できる可能性を示唆している.【理学療法学研究としての意義】姿勢制御において,視覚操作や視覚と身体感覚の一致性に着目する必要がある.視覚情報と身体感覚情報との不一致の状況では,感覚の重みづけの変化により体性感覚など自己身体へのアプローチを閉眼という環境以外で与えることが出来ると考えられ,新たな姿勢制御戦略や視覚や身体感覚情報の統合障害がある場合での評価やトレーニングにつながる可能性があると考えている.