著者
吉川 麻衣子 よしかわ まいこ Yoshikawa Maiko 人文学部福祉文化学科准教授
出版者
沖縄大学人文学部
雑誌
沖縄大学人文学部紀要 (ISSN:13458523)
巻号頁・発行日
no.20, pp.1-16, 2018-01

本研究では,トランスジェンダー青年が,思春期・青年期の発達過程においてどのような行為や心情を経験し,自らの生き方をどのように模索するのかを複線径路・等至性モデル(TEM)を用い質的に分析した。4 名の研究参加者がサポート・グループで語った内容から作成したTEM 図を基に分析したところ,①「自分らしさ」を模索する過程で自己を過剰抑制して自傷行為等に及び,②「性同一性障害(性別違和)」という用語を知って自らの性別違和感を理解し,③サポート・グループに参加することで他者と類似した経験を語り合えることの安心感を得て,④高校に進学することを選択し,⑤ジェンダークリニックを受診し,⑥大学・専門学校に進学することを選択していた。それらの経験に至る径路は多様であり,親や教師の理解が得られるかどうか,診断を受けて治療を開始できるかどうかが,トランスジェンダー青年が思春期・青年期を生きる上で重要な岐路となることが示唆された。Using the Trajectory Equifinality Model (TEM), this study has conducted that transmen youth experienced what kind of act and feelings in adolescence and groped for how I should live. The TEM was created based on the narratives of four transmen who participates in the support group. As the results, six important points were clear: for example, knowing the word"Gender Identity Disorder / Gender Dysphoria," finding the support group that can talk about oneself in peace, and having parents and teachers understand oneself. Their aspects were the complex and diversity of life.
著者
吉川 麻衣子
出版者
九州産業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

平成18年度は,研究課題「沖縄県高齢者の戦争体験に関する臨床心理学的研究-調査研究と実践研究を通して-」の研究成果の報告と,本研究の実践研究の部分にあたる「戦争体験を語ることを中心としたグループ・アプローチ」(平成17年度実施)のフォローアップおよびフィードバックを行った。研究成果の報告に関しては,国内外の学会で口頭発表を行った。沖縄県の戦争体験者の心理構造や,戦争が終わって60年あまり経過した人びとの思いを紹介した。本邦では,戦争体験者に関する学術的研究がほとんど行われておらず,臨床心理学の分野における代表的な学会(日本心理臨床学会)での反響は大きかった。来年度以降,さらに発表の機会を増やし,学術雑誌等での発表にも取り組んでいく予定である。また,ドイツのポツダムで行われた「Person-Centered and Experiential Psychotherapy and Counselng」での発表では,参加者の多くがヨーロッパ諸国の人びとであったが,発表を通して,今なお世界各地で紛争が絶えず多くの尊い命が失われている現状の中,「いま,世界平和のためにできることはなにか」を共に考える機会となった。グループ・アプローチのフォローアップおよびフィードバックは,A地域(参加者11名)で3回,B地域(参加者8名)で3回,C地域(参加者9名)で3回,D地域(参加者12名)で3回,E地域(参加者10名)で3回,F地域(参加者8名)で4回,G地域(参加者15名)で4回実施し,平成19年3月までに全て計画通り終了した。数十ヶ月にもおよんだグループ・アプローチは,これまで戦争体験を安心して語れる機会がなかった参加者にとって有意義な時間となり,グループが終了した今でも,地域の高齢者の居場所として機能している。研究計画の段階で予想していた以上の効果が挙げられたものと考えられる。筆者は,10年間,沖縄県の戦争体験者の研究を継続してきた。これまでに500名以上に関わってきた。その1人1人の語りの中には,戦争の悲惨さや体験した者の悲しみや辛さ,そして,真の平和を願う未来への伝言が多く含まれていた。今後も戦争体験者の研究を継続し,色々な形で発表していくことで,貴重な話を聴かせてくれた人びとへの恩返しになればと考えている。