著者
深石 貴大 南 勲 松田 祐輔 原 義人 吉本 貴宣
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.323-329, 2018-05-30 (Released:2018-05-30)
参考文献数
19

症例は26歳男性.2002年に自閉症スペクトラムのため内服開始するも改善せず,2010年より清涼飲料水を毎日6-12 L摂取していた.精神疾患治療薬の調整で飲水量は減少傾向だったが,2016年7月,体重減少から高血糖が判明し当院紹介となった.随時血糖377 mg/dL,HbA1c 16.9 %,尿中ケトン体陽性であり清涼飲料水ケトーシスの診断で入院,インスリン療法を開始した.退院後は清涼飲料水の多飲なく血糖値は正常化し,糖尿病薬は早期に離脱できたものの1日3 L程度の多飲は遷延した.後に中枢性尿崩症の合併が判明し,デスモプレシンにより飲水量の更なる減少を認めた.長期の多飲により抗利尿ホルモン分泌低下を来す病態が報告されている.特に清涼飲料水を多飲している症例において,多飲の適切な診断・治療は糖尿病の発症予防および改善に寄与する可能性があり重要と考えられた.
著者
HE Wen-Rong TAKAGI Koichiro YOSHIMOTO Takanobu NARUSE Mitsuhide NARUSE Kiyoko DEMURA Hiroshi NAKABAYASHI Masao TAKEDA Yoshihiko 赫 文栄 高木 耕一郎 吉本 貴宣 成瀬 光栄 成瀬 清子 出村 博 中林 正雄 武田 佳彦
出版者
東京女子医科大学学会
雑誌
東京女子医科大学雑誌 (ISSN:00409022)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.330-337, 1996-05-25

エンドセリン-1(ET)は培養血管内皮細胞より発見された強力な血管収縮性ペプチドであり,低酸素環境下でその産生が増加することが知られている.ETはその受容体とともに胎盤で発現することから,慢性胎児低酸素症の胎盤血流調節因子としてのETの関与を明らかとするために,ラット胎盤でのET遺伝子発現を検討した.今回我々は,妊娠18日齢のSprague-Dawleyラットの片側の子宮動脈を結紮し,非結紮側を対照として結紮の6,12,24,48,72時間後に胎盤を摘出後,RNAを抽出した.RT-PCR法によるサザンプロット解析によりET遺伝子発現を検討した,また,比較として母体低栄養による胎児発育遅延を妊娠18日から21日までの72時間,水分のみを与えることによる飢餓により作製し,胎盤のET遺伝子発現を同様に検討した.その結果,子宮動脈結紮後,胎仔体重,ならびに胎盤重量は24時間以降で減少を示し,72時間ではそれぞれ対照の62%(n=31, p<0.01),75%(n=31, p<0.01)となった.一方,母体低栄養では胎仔体重,ならびに胎盤重量はそれぞれ対照の79%(n=20, p<0.01), 83%(n=20, p<0.05)と減少した.ラット胎盤のETmRNA relative abundance (preproET-1/GAPDH; mean±SEM)は慢性胎児低酸素症モデルでは対照群と結紮群でそれぞれ0.128±0.011 vs 0.237±0.022 (p<0.01)と結紮群で約2倍の有意の増加を示した.一方,母体低栄養モデルでは胎盤のET mRNA relative abundanceは対照群と低栄養群とでそれぞれ0.135±0.010, 0.145±0・006と差を認めなかった. 以上より,子宮動脈結紮によって惹起された慢性胎児低酸素症モデルにおいて,胎盤のET遺伝子発現の増加を確認した.子宮動脈結紮により母体からの胎児への栄養の物質輸送の障害が胎盤のET遺伝子発現に関与している可能性は,母体低栄養によるIUGRにおいて胎盤のET遺伝子発現に差が認められなかったことから否定的と考えられた.以上より,ETは低酸素負荷に反応して胎盤局所で産生,放出されるautocrmeあるいはparacrme因子として胎盤血管の収縮にあずかっていると考えられた.A vasoactive peptide, endothelin-1 (ET-1) has been identified in the mammalian placenta. Its increase in the fetal circulation was demonstrated not only in acute but also in chronic fetal hypoxia in human. The aim of this study was to examine the effect of chronic fetoplacental hypoxia induced by uterine artery ligation on ET-1 gene expression in the rat placenta. Unilateral uterine artery ligation was performed to the pregnant Sprague-Dawley rats on Day 18 of gestation and the pregnancy was terminated on Day 21 of gestation. The effect of maternal starvation on the placental ET-1 messenger ribonucleic acid (mRNA) levels was also examined for comparison with the same time period. Relative abundance of the placental ET-1 mRNA was determined by quantitative reversed transcriptase polymerase chain reaction coupled with Southern blotting. Both maternal starvation and uterine artery ligation significantly reduced fetal and placental weight. In contrast, the placental ET-1 mRNA levels increased 2-fold by the uterine artery ligation whereas those in the maternal starvation group did not. Thus, it is unlikely that the reduced meterno-fetal transfer of nutrients by the uterine artery ligation could enhance the placental ET-1 gene expression. These results suggest that the enhanced placental ET-1 gene expression upon chronic fetoplacental hypoxia may contribute to the pathophysiology of the placental circulation in the fetal growth retardation.
著者
吉本 貴宣
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究により1)アルドステロン(Aldo)負荷高血圧ラット(Aldoラット)での高血圧、血管炎症の発症機序の一部にはミネラロコルチコイド受容体(MR)活性化によりアンジオテンシン変換酵素(ACE)の発現増加が生じ、心血管局所でのAng II産生と作用の増加が関与する。この、“局所レニン・アンジオテンシン系"の活性化が血管壁での各種向炎症性遺伝子群mRNAの発現増加および酸化ストレス増加を介してAldoによる心血管障害に関与することが明らかとなった。2)ラット大動脈由来初代培養血管内皮細胞を用いた検討で、AldoはMRを介した低分子量蛋白Raclの活性化によりNAD (P) H oxidaseを介してO_2^-産生を誘導することが明らかとなった。3)内皮保護作用を示す抗血小板薬のシロスタゾール投与がAldoラットでの血中酸化ストレスマーカーの低下、尿中NO排泄量の増加、および血管壁でのNADPHオキシダーゼや向炎症性因子の遺伝発現減少を伴った"Aldo誘導性血管炎"の改善効果を示すことを明らかにした4) Aldoによる糸球体障害機序としてメサンジウム細胞でのMRを介したSGK-1とNFkB活性化経路が関与することを明らかとした。以上の研究成果によりAldoが心血管および腎組織に直接作用して臓器障害に至る分子機構の一端が解明された。