- 著者
-
吉村 季織
高柳 正夫
- 出版者
- 日本コンピュータ化学会
- 雑誌
- Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
- 巻号頁・発行日
- pp.2014-0001, (Released:2014-05-17)
- 参考文献数
- 17
近年,化学データを数学的・統計的手法により解析する「ケモメトリクス」が頻繁に用いられるようになってきた.しかし,日本の大学の化学教育の場ではほとんど取り上げられていない.ケモメトリクスや数値計算の専用ソフトウェアを使うことなく,現在最も普及しているソフトウェアのひとつであるMicrosoft Excel (Excel)の基本機能を用いてケモメトリクス計算を行うことができれば,多くの教育・研究機関で役立つものと思われる.シリーズ6回目は,ケモメトリクスの多変量による定量モデル作成において,最も頻繁に用いられるPLS (partial least squares) 回帰 (PLSR)を取り扱った.これまでと同様に,スペクトルの解析を例に挙げた.モデル構成試料および未知試料のスペクトルの生成,潜在変量を抽出するPLS1 (1化学種の場合) とPLS2 (多化学種の場合) の実行,PLSRによる濃度定量モデル作成を行うワークシートを作成した.生成したスペクトルを使いPLSRとPCRの定量性能について比較を行った.その結果,PLS1によるPLSRでは特定の化学種の濃度データを用いるため,目的とする化学種に関して少ない因子数で良好なモデルが得られた.一方PLS2によるPLSRでは,複数の化学種に対して安定して濃度予測できるモデルが得られることが分かった.少ない因子数においてPLSRがPCRと比較して優位であることは示されたが,最適なモデルが得られるとは限らなかった.モデル化手法と因子数を変えて予測性能を比較しながら最適なモデルを得る必要があることが示唆された.